聖女視点 生意気な悪役令嬢が女神様に逆らって悪役令嬢にならないのでいじめてやることにしました
今日はお昼更新になりました
「な、なんで? 何でこうなの? 私がヒロインのはずなのに!」
せっかくゲームが始まったのに、私は攻略対象と全然上手くいっていなかった。
せっかく私は攻略対象のエミールとのこのこじれた関係をリセットするために、女神の愛し子でありこのゲームのヒロインでもある私がわざわざ悪役令嬢に頭を下げてやったのだ。
悪役令嬢はぽかんと口を開けて馬鹿面をさらしていたが……まさかヒロインの私が頭を下げてくるとは思ってもいなかったのだろう。
「聖女様にお教えするようなことはないかとは存じますが、よろしくお願いします」
悪役令嬢が女神の愛し子である私に余裕のある顔で言ってくれたが、いずれ絶対に女神様に逆らったことを後悔させてやる。
私は心に決めていた。
ふんっ、今のうちに一人で喜んでいれば良いわ。
何しろ私は女神様にこのゲームのヒロインをやるように言われているんだから。
悪役令嬢をやるように言われたあなたが、悪役令嬢をやらないでいて、ただで済むとでも思っているの?
絶対に後悔させてあげる!
私は心の中で叫んでいた。
でも、せっかくエミールの前で悪役令嬢に謝ったのに、中々エミールと仲良くなれなかった。
その日は確かに王宮まで一緒に行って騎士団の面々や侍女や文官に紹介してくれた。
でも、それだけだった。
帰りは送ってもくれなかったのだ。
馬車が無いと言うと、騎士団の筋肉もりもりの男が馬で送ってくれたんだけど……
いや、ちょっと待って! 私は聖女様なんだからせめて馬車で送ってよ!
ラノベとかで、騎士の人に馬に乗せてもらうデートシーンとかあるけれど、普通の人間が馬の後ろなんかに乗レベルものではないわ。揺れるし、怖いし、落ちたら怪我するの確実だし、あんな怖いもの無かった。
それからは私は自分の馬車で行くことにしたのよ。
騎士団の騎士達とは少しは癒やし魔術を通じて仲良くなったんだけど、こいつら汗臭いし、匂いが強烈だし、あんまり楽しくなかった。そういえば世界史の先生が言っていたけれど、西欧人はお風呂とかにはほとんど入らないんだった。体臭を消すために香水が発達したんだとか……ベルサイユ宮殿とかは糞まみれになっていたとか言っていたけれど……さすが日本人が作ったゲームなだけあって王宮はそこまで酷くなくて、トイレとかも普通にあったし、その点は良かった。
尤も騎士達ももっときれい好きにしておいてほしかった。
エミールには全然会えなかった。
騎士達にエミールのことを聞いても、
「殿下は雲の上の人だからな。中々会えないよ」
あっさりと言われてしまった。
というか、騎士達の私への扱いも一応聖女様とは言ってくれるけれど、ほとんどため口だったし、エミールに対する態度とは全然違うんだけど。
私はよく出来る癒やし魔術師扱いだ。
一応私は女神様に決められたヒロインなんだけど……100年ぶりの聖女様なのに、皆の扱いが雑すぎない?
それに私の治療を頼むのはほとんどが訓練で怪我した騎士達だった。
文官や侍女達と仲良くなればもっとエミールの情報を仕入れられたかもしれないけれど、全然仕入れられなかった。
王宮で駄目なら、学園でやろうと思っていろいろ当たってみたが、学年も違うからか、中々エミールとは会えなかった。会えても、エミールには側近達がついているし、休み時間は短いのだ。
お昼を一緒にと思って、お昼休みに食堂を探したけれど、いなかった。
どこに行っているんだろう?
側近達がトレイを持っていくのを見たから周りに聞いたら、今の時期は予算で忙しいので生徒会室で食べているという話だった。
そこで、生徒会室に行ってみたらエマとかいう偉そうな女が出てきて、
「部外者は立ち入り禁止よ」
とけんもほろろに追い出されたのだ。
そのくせクラリスが中で食事していると後で聞いて私は切れてしまった。
私が、ヒロインの聖女様が、何故、攻略対象のエミールと食事できないの?
あのかまとと転生者、もう、許さん!
私はプライドが高いダンケルが、あの小憎らしいカンダベルの代わりに魔術実技をすると聞いて、
「クラリスさんって、自分が王太子の婚約者だからって魔術が出来ないのに、魔術訓練を免除されているそうよ。自分は特権階級だとでも思っているみたい」
と前もって振っておいた。
クラリスなんて、ゲームではたいして魔術は使わなかったから、魔術が使えないはずだ。魔術が出来ずに恥をかけば、良い気味だと思ったのだ。
それが、訓練場を破壊するほどの魔力を持っているなんて、知らなかった。制御がうまく出来ないから、皆の前では使っていないとか知らないわよ。そう言うことは前もって、私には教えておいてよ!
危うく私も巻き込まれて死ぬところだったじゃない!
それから、更にエミールがクラリスに過保護になってきたんだけど、どうしてくれるのよ!
朝も夜も私じゃなくて、クラリスを送り迎えをするようになったのだ。ヒロインの私がいるのに、おかしくない?
私はむかついたから、取り巻き令嬢たちに指示して、クラリスの筆入れを池の上に浮かべてやった。
筆入れがないと言って驚き慌てるクラリスがとても、おもしろかった。
そして、クラリスは筆入れが池の上に浮かんでいるのを見ると、血相変えてそれに手を伸ばして取ろうとしたのだ。チャンスだ。私は風魔術でクラリスを押そうとした。
でも、押すまでもなかった。
クラリスは物の見事に自分でバランスを崩して池に落ちてくれたのだ。最高だった。馬鹿なのか、浅い池で溺れてくれているんだけど、もう最高だった。
でも、私が喜べたのはそこまでだった。
「クラリス!」
血相かえたエミールが池に飛び込んでクラリスを抱き上げてくれたのだ。
な、何で? 何でエミールはあんなに愛おしそうにクラリスを見ているの?
単なる地味なドジ女でしかないクラリスを!
この世界に100年ぶりに現れた聖女様の私には見向きもしないなんて、おかしくない?
私には信じられなかった。
もう許さない!
私は更にクラリスをいじめることにしたのだった。
ここまで読んで頂いて、ありがとうございます。聖女の魔の手にクラリスは対処出来るのか?
続きは今夜です。
お楽しみに!