王子の婚約者選びのお茶会に行きたくないとだだを捏ねても通用しませんでした。
このロワール公爵家の跡継ぎのお兄様は、当然、お勉強の時間も多い。剣術も魔術もそれぞれ専門の先生に教わっていた。
だからあまり時間がなかったけれど、その空き時間を見つけては私は絵本を持ってお兄様に突撃していた。
「またか?」
口ではそう言いつつお兄様は目が笑っていて、暇があると絵本を読んでくれた。
お兄様ばかりかまっているとお父様が拗ねるので、たまにはお父様に読んでもらうようにもした。五歳児の私は前世に比べて結構周りにも気を使って忙しかったのだ。
それにお兄様ほどではないが、私ですら礼儀作法の勉強のお時間があった。
本来は歴史とか地理とか領地の勉強も私はしなければいけないのだが、今まで我が儘三昧育ってきた私は、勉強は嫌だとお父様にだだを捏ねて止めさせていたのだ。唯一、王太子殿下の婚約者になるには礼儀作法だけはちゃんとしなければいけないとお父様に言われて、礼儀作法の授業だけは仕方なしにいやいや受けていたらしい。
私も仕方なしに礼儀作法の授業は受けたけれど、礼儀作法のステーシー先生はとても優しかった。もっと厳しくビシバシとやられるのかと覚悟していたら、そういう先生はクラリスが最初にヒステリーを起こして辞めさせたのだとか。
私はその点だけは前のクラリスに感謝したくなった。それにこのステーシー先生は褒めて伸ばしてくれるので、私はとても嬉しかった。ドジで運動神経最悪な私でも、褒められたら少しくらいやる気になるのだ。絶対に私は良くない生徒だったと思う。
でも、ステーシー先生の涙ぐましい努力で公爵令嬢として少しくらい見られるようになったのだ。
そんな時だ。王妃様から王宮にお呼び出しがかかったのは。
どうやら王太子のエミールの婚約者探しみたいだった。
来たーーーー
私は戦慄した。
我が家は公爵家だし、こういうことは身分的には真っ先に声がかかってくるのだ。
ゲーム設定では、5歳の時にエミールの婚約者はクラリスに決定されたとなっていた。
何としてでもこれは避けねば!
風邪でも引かないかと思ったのだが、こういうときに限って元気一杯だった。
「頭が痛いから休みたい」
一言でもそういえば過保護な父と兄は王都中から名医を呼びかねない。下手したら王宮医師がやってきて仮病がバレるかもしれない。
それも出来たら避けたかった。
「お父様。私、王子様の婚約者なんかになりたくない」
私は一応言ってみた。
「そうか。そうだろう。私もお前を婚約者なんかにさせたくない」
そう言ってお父様は私を抱きしめてくれた。
こうなったら言うしかない。私は覚悟を決めたのだ。
「私、お父様のお嫁様になりたい!」
最後の手段で言ってみた。めちゃくちゃ恥ずかしかったけれど、背に腹は代えられない。
「クラリス! お前はなんて優しい娘なんだ! 私もお前を外になんて出したくないぞーー」
過保護なお父様は感激して私を抱きしめてくれたのだ。
私はこれで上手く言ったと思った。
「おい、クラリス、お前はお兄様のお嫁さんになってくれるんではなかったのか?」
横でお兄様が怒り出すのが想定外だったけれど、
「お兄様とも結婚する」
私はお父様を抱きしめている反対の手でお兄様を抱きしめた。私はお兄様を納得させるために重婚することにしたのだ……
もうなりふり構っていられなかった。
これも全ては悪役令嬢を回避するためなのだ。
「そうだな。クラリス。セドリックと三人で仲良く暮らそう」
「そうですね。父上」
お父様とお兄様が私を抱きしめて頷いてくれた。
しめしめこれで上手く事は運ぶと私は思ったのだ。
「旦那様。さすがに王妃様からのお呼び出しを今更断ることは出来ません」
執事のセバスチャンが余計な事を言ってくれるまでは……
「しかし、セバスチャン。クラリスは行きたくないと言っているではないか?」
「別に行ったからと言ってすぐに王太子殿下の婚約者になるわけではありませんし……」
セバスチャンがお父様を説得しはじめた。
「そうは言ってもだな……」
お父様は急にトーンダウンしてくれたんだけど……
「そうだぞ。セバスチャン。王太子殿下は女には氷のように冷たくすると有名だからな。クラリスがそんな対応に耐えられるとは到底思えん」
お兄様が更にいらない情報をくれた。
ゲームでは見目麗しい王太子殿下だったが、そんなに冷たいの?
まあ、確かにクラリスには冷たかったけれど、ゲームでヒロインだった私には優しかった。あの見目麗しい顔でにこりとされると私は天にも昇る気持ちになったのだ。
でも、今は私はヒロインではなくて、黒目黒髪の地味転生令嬢の私にはそんなことは絶対にしてくれそうにないけれど……
あのピンク色の髪の元気で明るくて守ってあげたいキャラのヒロインだから、王太子も優しく笑いかけてくれるんだと思う。
「そうよ。そんな冷たい王子様だったら私は耐えられないわ。お兄様助けて!」
私は今度はお兄様に抱きついたのだ。
お父様は王妃様には弱いみたいだし、ここはお兄様にかけるしかない!
「セドリック坊ちゃま。しかし、そのエミール王太子殿下は側近に坊ちゃまをとの内々のお話が来ておりますが、そのお方をそのようにけなして宜しいのですか」
「いや、別に俺はけなしている訳では……」
急にお兄様もトーンダウンしてくれるんだけど、我が家って本当に権力に弱いのね。
こうなったら執事長にかけるわ。
「そんなセバスチャン。私は王宮なんて行きたくないの!」
私は目一杯無理をして目を涙目にしてぶりっ子してみたのだ。
自分の婚約破棄断罪コースから逃れるための命がけの演技だったのだ。
「さようでございますか? クラリス様。それは残念ですね。王妃様のところで出るケーキは他と比べても絶品だそうですよ」
「えっ、そうなの! 仕方が無いわね。行くだけだからね!」
私の頭はセバスチャンの言葉で王子様の事は宇宙の彼方に飛んで行ったのだ。
王妃様のケーキってそんなに美味しいんだろうか?
どんな風に絶品なんだろう!
私の頭は王妃様のケーキ一色に染まってしまったのだった。
あっさりとセバスチャンの手のひらの上で転がされた3人でした。
次は今夜更新予定です。
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