風邪で寝込んだところに王太子がイチゴを持って来て食べさせてくれました
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私は気付いたらベッドの中で寝ていた。
なんか頭が重い。
私が身じろぎすると、
「お嬢様、お目覚めになられましたか?」
デジレが顔を出して声をかけてくれた。
「デジレ? 晩ご飯の時間?」
私が聞くと、
「何をおっしゃっているのですか? もう、次の日の朝ですよ」
デジレが呆れて教えてくれた。
「えっ、そうなの? 一食分抜いたって事?」
「お嬢様、いくら食い意地が張っているからって気にされるところはそこですか?」
私の言葉にデジレが頭を抱えているんだけど……
他に何があるのよ!
思わず私はそう叫びそうになった。
私に取って食事は何よりも大切なことなのだ。何しろ我が家のシェフは王宮シェフに勝るとも劣らない超一流の腕前なのだ。
「例えば、昨日は王太子殿下がお姫様抱っこで馬車から降りてこられて、屋敷中大騒ぎだったんですけれど」
そうだった。私は少しだけ青くなった。
「そうか、エミール様の膝の上で寝てしまったんだ」
私は思いだした。
「このベッドまで運ぶ運ばないでセバスチャンさんとやり合われて、殿下が無理矢理この部屋までクラリス様を運んでこられたんです」
「そうだったんだ」
私はエミールに悪いことをしたなと反省した。
まあ、私はそんなに重くないから重くは無かったとは思うけれど、二階までは大変だ。
まあ、寝て良いと言ったのがエミールだったから甘えて寝てしまったんだけど、着いたら起こしてくれたら良かったのに!
「その後でベッドにクラリス様を置かれたらクラリス様が寝言で『エミール様、好き!』って言われたんですよ」
「えっ、そんなこと言ったの?」
私は目を見開いた。また昔の助けてくれた時のことを思い出していたのかもしれない。
「殿下が固まられて、そのまま動かれなくなって、そこへセドリック様が帰ってこられて、『何をしている。クラリスから手を離せって』騒ぎ出されてもう大変だったんですから」
「そうだったんだ」
あの二人ならやりかねない。
「『お二方とも静かにされないとクラリス様が起きられますよ』
ってセバスチャンさんが注意されてやっと静かになられたんですけど、本当に大変だったんですから。殿下は最後は側近のバジル様が迎えに来られて渋々帰って行かれました」
「えっ、バジル様まさかこの部屋に入れていないわよね」
「当然でございます。でも、殿下が入っていらっしゃる段階でどうかと思いますけれど」
デジレが白い目で私を見てくれた。
「だってエミールは私が寝込んだ時とか、よくお土産持ってきてくれたじゃない」
「王宮の池にクラリス様が落ちられた時ですよね。あの時はまだ、お二人ともお子様でしたから」
私の言い訳にデジレは答えてくれるけれど、
「慣れているエミール様とバジル様じゃ全然違うわよ」
そもそもエミールには馬車の中で寝ているから寝顔は見られているのだ。まあ、昔から考えたら何回も見られているし。そこまで気にしない。
「本来ならばエミール様もセドリック様もこのお部屋には入れてはいけないのですよ」
私を怖い顔でデジレが見て注意してくれるんだけど。
「えっ、エミールはそうだけど、お兄様も?」
「当たり前です。もうクラリス様も王立学園に通われる年齢なんですから、セドリック様は実の兄とはいえ異性の男性を部屋に入れて寝顔を見せるべきではございません。この件がロッテンマイエル先生に知れれば確実に1時間の説教コースが確定します」
「そうなんだ。良かったロッテンマイエル先生に知られなくて」
私はほっと一安心した。
「クラリス様。安心するのは早いです。今日も朝からセバスチャンさんを前にセドリック様と王太子殿下が部屋に入れろ入れられないと二人で喧嘩されていました」
「そうなんだ」
私は少し頭痛がしてきた。
「で、朝はどうされますか? 王太子殿下が王宮からイチゴを持っていらつしゃいましたけれど」
「じゃあ、イチゴで、ついでにケーキもあるわよね」
「はい。本当に殿下はクラリス様の事をよく判っていらっしゃいますよね」
デジレは呆れてくれているんだけど、まあ、十年間の腐れ縁だ。
もうじきアニエスにエミールの心は移ってしまうと思うけれど、それまでにできる限りイチゴは食べないと。そうか今度王宮の庭師にイチゴの栽培の方法を聞けば良いのかも。そうだ、聞けば良いんだ。
私は遅きに失したが、今気付いたのだ。
そして、その日の放課後、朝、デジレとあんなやりとりしたのに、何故かエミールは私の部屋にいた。
それも手ずからにイチゴを私の口の中に入れようとしてくれているし。
「本当にお嬢様も食べ物で釣られたらイチコロですね」
後で呆れてデジレに言われたんだけど、
私も最初は断ったのだ。でも、卑怯なエミールは私の元気な顔が見られないならイチゴを持って帰るとか言うから、慌てて私は全言撤回したのだった。
イチゴがロッテンマイエル先生に怒られる可能性かを天秤にかけて、イチゴが勝ったのだ。
だって、幾らロッテンマイエル先生でも、エミールが私の部屋でイチゴの食べさせをしているとは思わないだろう。我が家の使用人は口が堅いし、エミールもそうだ。私もわざわざロッテンマイエル先生に怒られるのが確定していることなんて、聖女じゃないんだから言わないのだ。
「ねえ、エミール様。イチゴの栽培方法って庭師のおじいさんに聞いて教えてほしいんだけれど」
馬鹿な私はエミールに聞いてしまったのだ。
本当に馬鹿だった。
「クラリス。それは教えられないよ。何しろ王家の秘密だからな」
エミールはさも当然と言う顔で拒否してくれたのだ。
「えっ、私が頼んでも」
私は上目遣いにエミールを見て見た。
「駄目だ。クラリスが俺と結婚して王家の一員になったらいくらでも教えるからその時は楽しみにしておいて」
「そんな」
私はがっかりした顔をエミールに見せた。
「まあ、ほしい時は俺に言えばこうやってすぐに持ってくるから問題ないだろう」
そうエミールに言われたら私は反論しようがなかったのだ。
「だから、はい、クラリス」
仕方なしに、私はエミールが差し出したイチゴをパクリと食べたのだ。
相変わらず王宮のイチゴは絶品で舌がとろけそうなほど美味しかった。
嬉しそうに食べさせられる私をデジレ達が生暖かい視線で眺めていた。
使用人達からは温かい視線で見られているエミールとクラリスでした。
さて、ヒロイン気取りの聖女は何もせずに黙っていられるのか?
次は怒りの聖女視点です