剣術部の予算を削ったら、王弟の息子が怒鳴り込んできて失礼なことを言ってくれたので、逆襲したら逃げていきました
それからは毎日、私はお昼は生徒会の手伝いと称して、生徒会の皆さんと食事した。
デザートは毎回エミールが食べさせてくれるんだけど、それは止めて欲しい!
そう頼んだのに、エミールは止めてくれなかった。
お兄様は白い目でエミールを見るし、エマは生暖かい目で私達を見てくれるし、バジルさん達は呆れた目で私達を見てくれるし……本当に止めてほしかった。
エミールが聖女に抱きつかれて喜んでいたのだって、決して赦したわけではないのに!
なんかなしくずし的に、赦したことにされたんだけど……何か納得が出来ない。
食事をこの場所で頂くだけではさすがにまずいので、私も各クラブから出てきた予算案の精査をさせてもらった。前年の予算と決算の状況をここ三年間くらい見て、精査するのだ。
剣術部から出てきた予算を見て、私は、はたと、手を止めた。
今年の予算が例年に比べて、倍もしているのだ。それと最後にあるバーベキュー大会費用って何なの?
さすがにそれは生徒会からの部活費用では認められないだろう。確かに剣術部は人数が百人くらい居て人数は多いけれど、他の部活は食事会の費用なんて予算に入れてきている部は無いのだ。
私は副会長のエマに聞いてみた。
「あれっ、本当ね。何故、倍になっているんだろう? それにこのバーベキュー大会はないわよね。去年は反省討論会になっているけど……本来は部費で出るものではないわ。会長に言っておくわね」
そう言ってくれたので、私は安心したのだ。
そして、一週間くらい経ったお昼休みだ。
生徒会室に行くともめていた。
「一体どうなっているんだ!」
大柄な男が、エマを怒鳴り付けていたのだ。身長がいかにも体を鍛えている風の百八十センチ超えている大男だ。確か3年生で名前はジョルジュ・ブルゾン、王弟殿下の息子だ。剣術部の部長をしていたはずだ。
その後ろに三人くらいがたいのでかい男を連れているんだけど……威圧感が凄かった。
「今年は近郊のダンジョンが閉鎖されたから、夏休みの魔物討伐合宿は遠方まで遠征しなくてはならなくなったんだ。少しくらい補助を出してくれても良いだろう?」
ジョルジュは小柄なエマを上から見下ろして、頼むと言うよりは脅迫していた。
「そんなこと言われても、そのような事に予算は使えません」
健気にもエマは反論していた。凄い! 私なら泣いていたかもしれない。
「なんだと、貴様、侯爵家の娘のくせに王族の俺に逆らうのか?」
でたー!
王弟殿下の息子は我が儘だと聞いていたけれど、本当だ。
確か、私はそこまでやれなかったけれど、この男もゲームの攻略対象の一人だ。
王弟殿下は今は軍務卿をやっていて、その息子は騎士志望なのだ。
でも、王族なのは王弟殿下までで、いずれはその息子のジョルジュは公爵家を継ぐはずだ。
ということは我が家と同じで、ここは私が話した方が良いのか?
「王弟殿下の息子だろうと、学園では関係ありません」
なんと、エマは小さい体で言い張ったのだ。
凄い!
「何だと、侯爵家の娘風情が、偉そうに! 王族に逆らってただで済むと思うなのよ。最近セドリックと付き合っていい気になっているみたいだが、我が家を敵に回したら、ロワール公爵家も困るんじゃないのか?」
ええええ!
エマってお兄様と付き合っているの?
それは知らなかった。
でも、我が家まで出されたら、私としても黙っている訳には行かなかった。
未来のお義姉様を守らないと……
「あのう」
私は後ろから声を出したのだ。
「誰だ、お前は?」
ジョルジュは私を見下ろしてくれたのだ。
「クラリスさん。下がりなさい」
慌ててエマは言ってくれたが、未来の義姉を見捨てる訳には行かない。
「クラリスだと。ああ、エミールの婚約者か? 聖女に胸の大きさで負けて泣き出したって言う地味令嬢だろ。そんな奴が何の用だ!」
大声でジョルジュは一番私が気にしてることを指摘してくれたのだ。
後ろの男達も笑ってくれているし……
私に胸が無いですって!
私はピキピキピキピキと切れてしまったのだ。ヒステリー状態だ。
本来はこんな熊みたいな男に逆らうなんて考えられなかった。
でも、切れた私は無敵だったのだ。
「何ですって! よくも胸が無いって言ったわね。王宮でおねしょしたくせに!
よくも私の胸が無いって言ってくれたわね」
私はジョルジュを見上げて叫んでいた。
「だ、誰が寝ションベンたれだ!」
ジョルジュは慌てて私を睨み付けた。
「十歳の時におねしょで、ベッドを濡らしたでしょう!」
「な、何故それを知っている?」
ジョルジュは慌てふためいた。後ろの男達が驚いた顔でジョルジュを見ていた。
「あなたのお祖母様に聞いたのよ。お祖母様がその布団を黙って魔法で洗濯して誤魔化してくれたんでしょ」
後ろについてきた後輩とおぼしき男達が、笑いをこらえているんだけど。
「き、貴様、それは秘密にしておいて上げるとお祖母様は言ってくれたのに」
「ふんっ、人のことを胸なしなんて呼ぶからよ。何なら、もっといろいろ知っているけれど、ばらしましょうか」
私が強気に出た。王太后様からはいろいろと聞いているのだ。一番多いのは陛下のことだけど……
「いや、判った。それ以上言うな。くっそう、覚えていろよ」
慌ててジョルジュは手を振って出ていこうとした。
言うなといいつつ、覚えていろって言うなんて、もっと言えって事だろうか?
「き、貴様らこのことを言ったら殺すからな」
後ろについてきた男達に釘を刺しているけれど、絶対に男達は言うと思う。
ジョルジュは大きな音を立てて出ていったのだ。
「凄いわ。クラリスさん。よく、あのジョルジュ様に楯突いたわね」
エマが呆れて言ってくれた。
「いえ、普通は絶対に逆らったりしないんですけれど、未来のお義姉様を守ろうとして頑張ってみました」
決して胸が無いと言われてヒステリーを起こしたからでは無いのだ!
「未来のお義姉様って、セドリック様とはまだそういう関係では無いのよ」
満更でもない口調でエマが赤くなってくれた。
「でも、よく知っていたわね。ジョルジュ様がおねしょしたの」
「王太后様からいろいろ聞いているんです。一番多いのは陛下と王弟殿下のことですけれど」
「そうなんだ。クラリスさんって、たくさん王族の弱みを握っているのね。ひょっとして無敵なんじゃ無い?」
エマが教えてくれたんだけど……
そうだ。断罪されそうになったら、それをネタに陛下達を脅したら助けてくれるかもしれない。
また、探りを入れてみようと思ったのは内緒だ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました
弱みを握っているクラリスはひょっとして最強?
次は明日更新予定です。