なんと信じられないことに聖女が今までの態度が悪かったと謝ってきました
次の日の朝、私は侍女のデジレにいつも通り起こされた。
少し早めに起きようと思っていたのに、起きることが出来なかった。
前の日、いろいろ考えて中々眠れなかったのだ。
アニエスがエミールに抱きついて胸を押しつけている場面が寝ようとしたら何回も頭に蘇るのだ。
ゲームではエミールはアニエスに惹かれるのだ。ここで執着してはいけない。
そうは思うけれど、心の奥底で諦めきれないのかもしれない。
エミールがさっさとアニエスのところに行かずに、私にいろいろとしてくれるから、どうしても未練が残るのだ。
今日もエミールがまた朝早くから謝りに来るのではないかと、私は心の奥底で期待していたんだと思う。
でも来なかったみたいだ。
「クラリス様。どうかされましたか?」
私がデジレの後ろを気にしたので、デジレが後ろを振り返って、
「そういえば今日は殿下はいらっていませんね。今日もいらっしゃると思っておりましたのに」
デジレが私の顔を見て残念そうに言ってくれるが、
「来る訳ないでしょ」
私は少し不機嫌そうに否定した。
「そうでしょうか? 殿下は昨日の感じではこれから毎日送り迎えをするような勢いでしたけれど……」
デジレの言葉に確かにそう私もそう思っていたのだ。
「最初だけよ」
そう首をふりつつ、がっかりした私がいたのも事実だ。
でも、エミールは聖女に惹かれてしまったのだ。特に私にはない胸の大きさで……
そして、その日は1日目と同じでお兄様と学園に行った。
馬車を降りると相も変わらずお兄様は人気者だったが、私がまたブーイングというか、残念地味令嬢として降り立った。そして、馬車から離れようとした時だ。王家の馬車が入ってきたのだ。
私はさっさと行こうとしたのに、お兄様が
「クラリス。あれは殿下だろう」
余計な事を言って止まってくれたのだ。
「「「キャーーーー」」」
「殿下よ」
「エミール様!」
女どもの声援が凄かった。
「今日は地味令嬢じゃなくて聖女様よ」
「聖女様は本当にお可愛らしいわ」
馬車の中からはエミールとそして、やっぱりアニエスが出てきたのだ。
私はそれを見て、やっぱりそうだったんだと悲しくなった。
「おいおい、どういうことなんだ。殿下がお前じゃ無くて、聖女を連れて馬車を降りるなんて」
お兄様が怒り出したけれど、
「お兄様行きましょう」
私は兄を連れてさっさと行こうとしたのだ。
「クラリス!」
その時、エミールの大きな声がしたのだ。
私としてはさっさと行きたかったのに!
お兄様がとろとろしているから!
私はいらついた。
まあ、つかまったのなら仕方がない。
いきなりこの場で婚約破棄は無いと思うけれど……
エミールは何の用なんだろう?
私としてもエミールの婚約者だ。
私にも矜持はある。
ここで私という婚約者がありながら他の女を侍らすなんてどういうことなんですの?
とでも言えというのか?
そうか、もっと辛らつな言葉を聖女に言えと言うことか?
王妃様ならそう言いそうだ。
何も言わなかったら絶対に王妃様にまた怒られる。
そうか! これが、聖女の作戦かもしれない。
私がきつい言葉を発せれば、それを理由に聖女は泣き出せば良いのだ。
それをエミールが慰めればゲーム通りだ。
聖女としても私が悪役令嬢になっていないから困っているのかもしれない。
私に是非ともきつい言葉を言ってほしいのだろう。
でも、私としては悪役令嬢になって、サマーパーティーで断罪されるのは嫌だ。
皆に何と言われようが、後で王妃様に怒られようが知ったことでは無い。
元々自分の息子のことは自分でなんとかしてもらいたいものだ。
私に注意させようというのが、お門違いなのだ。
そうか、アニエスからまた婚約者奪取宣言があるのか?
私はとても身構えていた。
「殿下。クラリスという婚約者がいながら女性と学園に来るなんて、どういうつもりなんですか?」
お兄様が目をつり上げて怒りだした。
失敗した。
そうだ。
私が黙っていてもお兄様が黙っているはずは無かったのだ。
「我が公爵家は王家から頼まれたからクラリスを殿下の婚約者にしただけで、別に我が国の王家にクラリスを嫁がせないといけないという事はないのです」
平然とお兄様が言い出したんだけど。これがお父様だったら王妃様に弱いから、そこまできつく言えなかったと思うけれど、お兄様は別に怖いものなんてないみたいだ。
「ちょっと待て、セドリック! 俺はクラリスと婚約破棄するつもりは無いぞ」
エミールが何か言っているんだけど……
「女連れで良くそんな理由が言えますね」
お兄様の言葉に私は大きく頷きたかった。
「この件は早速父と相談して……」
「いや、だからちょっと待てと言っているだろう」
エミールが慌ててお兄様を止めようとした。
「これには訳があるんだ」
「どういうわけなんですか?」
エミールの説明に納得できないお兄様が噛み付いた。
「今朝王宮まで、今までの態度が悪くて申し訳なかったったとボラック男爵令嬢と教皇猊下が王家に謝りに来たのだ。そうだろう。ボラック男爵令嬢」
エミールがアニエスを見てくれた。
一瞬、アニエスは嫌そうな顔をしたが、
「クラリスさん。今まで貴族の礼儀作法がよく判っていなくてすみませんでした」
「えっ?」
私はアニエスが頭を下げたのを見て驚いた。
頭を下げることが出来るんだ。
それと今日はエミールにベタベタしていない。
どういう風の吹き回しなんかだろう?
私にはにわかには信じられなかった。
「ボラック男爵令嬢は今までのことを反省して王宮でも癒やし魔術を使って騎士団等のけが人を見てくれることになったんだ。未来の王妃のクラリスもそういう事でいろいろと貴族の事を教えてやってほしい」
そこまでエミールに言われれば私も頷くしか出来なかった。
「聖女様にお教えするようなことはないかとは存じますが、よろしくお願いします」
私も仕方なしに頭を下げたのだ。
私の頭を下げた瞬間、アニエスがにやりと不適に笑ったような気がしたが、気のせいだったのだろうか?
絶対におかしい。
私の頭の中は警報が鳴り響いていたのだった。
果たして聖女の謝罪は本心からなのか?
続きは明日です。
お楽しみに