王太子視点 聖女のせいで婚約者との仲が危なくなったので、なりふり構わず謝りに行く事にしました
俺は周りをよく見ていなかった。
クラリスが、俺が馬車から聖女を下ろすのを見ていたなんて知らなかったのだ。俺の気持ちとしては、母から王家としては聖女を決して蔑ろにはしていない、というパフォーマンスをしろと俺もクラリスも言われていたから、俺はクラリスが気にするとは思ってもいなかったのだ。
そう、聖女と俺の仲良さをアピールしたのは、学園の皆に一応王家も聖女の事を無視してはいないですよと表明するだけだから、クラリスも例え見たとしても納得してくれると思っていた。
それによって、まさか、俺とクラリスの不仲が、噂されるとは思ってもいなかった。
俺はその時は聖女なんかよりも、この後の入学式でクラリスと一緒に挨拶出来ると思って浮かれていたのだ。
どういう事かというと、クラリスは入試の成績が首席だった。当然新入生代表で挨拶するはずだ。俺は前もって、生徒会長のクラリスの兄のセドリックに頼み込んで、在校生代表を代わってもらったのだ。俺がクラリスら新入生を迎える言葉を話し、それに未来の妻が答える。なんと言う事はないが、俺はそれが嬉しかったのだ。
クラリスの代わりに聖女が話すことになるなんて、思ってもいなかったのだ。
俺は入学式で未来の妻が小さい時からどれだけ優秀かを話したのだ。
なのにだ。何故聖女が代表で出てくる?
こいつはテストの成績は数学と古語は良かったが、全体の成績は真ん中より下で、領地の話や歴史などは壊滅的な成績だった。本来ならAクラスなんてあり得ない成績だ。教会がごり押ししたに違いなかった。
1年間も勉強してきたくせに0点に近い成績はないだろう。数学と古語は別に出来なくても問題は少ないが、歴史と地理は両方とも、もし王家に嫁ごうと思うならば必死に勉強しないといけないものだった。それが出来ない段階で王家に嫁ぐなんて不可能なのだ。
百年前みたいに魔物が跋扈していたら聖女だと言うだけで嫁げたかもしれないが、今はその魔物自体が絶滅危惧種になろうとしているのだ。特に王都周辺は聖女が余計な事をしてくれたからそうだった。
俺は聖女達がクラリスに余計な事をするのではないかとそちらの方が心配だった。
そして、危惧していた通り、その日のうちに騎士団長の息子のフェリスから俺は注進を受けたのだ。
クラリスが聖女の取り巻き達に囲まれていると。
あやつら、子爵家の面々のくせに、クラリスに逆らうなんてどういう事なのだ?
宰相が知って激怒したら実家がやばいだろう。それ以前に俺のクラリスに手を出そうとするとは許せなかった。
俺は慌てて駆け出した。
でも、そこで俺が見たのは、見目麗しい男がクラリスの手を引いて仲良く歩いているところだった。
俺はその瞬間ぶち切れたのだ。
「何をしているんだ?」
俺は氷の視線でその男を見た。
でも、クラリスはその俺の態度に切れてくれた。
いや、こいつは絶対にクラリスを助けてその後親しくなろうとしている男だ。
俺の警報は目一杯鳴り響いていた。
「何をおっしゃっていらっしゃるんですか? その言葉そのままお返ししますわ。今日は聖女のアニエスさんととても仲良くしていらっしゃいましたけれど、聖女様のお相手はよろしかったのですか?」
しかし、なんと、クラリスが激怒していたのだ。
俺はさすがにやばいと思った。俺は決して聖女と仲良くしようとしていた訳ではないのだ。
でも、もうどうしようもなかった
売り言葉に買い言葉だった。
挙げ句の果てには来なくて良いのに聖女が来てクラリスの前で俺に抱きついてくれたのだ。
「本当にもう、信じられない!」
激怒したクラリスはそのまま俺をロッテンマイエル先生の前において帰ってくれたのだ。
おれはそれからロッテンマイエルに怒られて最悪だった。
このぼけアニエス、もう許さん。
俺は激怒していた。
その俺に側近のシャルルがとんでもない情報を持ってきてくれた。
クラリスの手を引いていたのはゴンドワナ王国一の女たらしとして有名な王子マクシミリアン・ゴンドワナだというのだ。マクシム・ナーランドというのは偽名だそうだ。
「おのれ、ゴンドワナの王子め。クラリスに手を出そうというのか? 絶対に許さん」
俺がぶち切れていると、
「いや、エミール。王子はクラリス嬢を狙うと言うより、アニエス嬢を狙っているのではないか」
シャルルが意見を述べた。
「それは問題ではありませんか?」
オクレール侯爵家のバジルも言い出してくれた。
「はああああ? そんな訳あるか! どう見てもクラリスの方があの淫乱よりも千倍は良いだろうが! それに、例え、あの淫乱聖女をゴンドワナの女たらし王子が求めたとしてだ。ゴンドワナがもらってくれるのなら厄介払いが出来て清清するんだが」
俺は偽らざる本心を吐露した。
「いや、エミール、さすがにそれはまずいだろう」
「私もそう思いますよ」
バジルとシャルルは首を振ってくれた。
「しかし、良く考えてみろよ。今は騎士団、魔術師団、冒険者達で魔物討伐は足りている。
というか、討伐する側の数が多すぎて魔物が急激に減っているんだぞ。そのせいで魔石の値段が上がりだしているんだ。減りすぎたら問題だと騎士団も魔術師団も討伐の回数を減らしているんだぞ。おまけにあの聖女は王都近郊で唯一残していたダンジョンを浄化してくれたし。そのお陰で、どれだけクレームが来た事か」
「確かにそうだが、いざという時に聖女はいてもらった方が良いだろう」
俺の言葉になおもバジルが反論するが、
「しかし、通常の傷の手当ては癒やし魔術師で十二分に対応できているぞ。ポーションが余りだして値崩れしているのでなんとかしてほしいと薬師ギルドからは言われているんだぞ。あれがいるのか?」
俺は改めて二人を見た。
「いや、あれでも、一応聖女だぞ」
「そうだ。他国に出すのはまずいんじゃないか」
二人はなお俺に反論してくれた。
「じゃあ、お前達が相手をしてくれよ。俺はもう疲れた。というか、いきなり抱きついてくるんだぞ。思わず魔術で弾き飛ばしてやろうかと思ったくらいだ」
俺は二人に向かって文句を言った。
「そんなに酷いのか?」
「ああ、貴族の一般常識が通用しない」
俺は首を振った。
「俺はクラリスがいるからな。どうしてもというのならば、婚約者のいない、バジルが対応してくれよ」
「ちょっと待ってくれ。さすがにいくら聖女とはいえ、男爵家の令嬢を妻に迎えるのは無理だ」
「何だよ。自分の事となると口を濁すなら、反対するなよな」
俺は険しい目つきでバジルを見た。
「いや、まあ、そこは少し考えてだな」
「そうだ。急に判断するのまずいぞ」
二人はあくまで言い張るんだが、
「じゃあ、二人で相手してくれ。俺は将に今、あの聖女のせいで婚約破棄の危機なんだからな。しばらくあの聖女の事は無視するぞ」
俺は二人に宣言したのだ。
元々今回の件は、聖女の面倒を見ろと言った母が悪い。
俺はこの件に関しては母の言う事はもう聞かないと心に決めたのだ。
しばらくクラリスに会いに行くなと言われていたが、事ここに至っては母の言う事なんか構っていられる状態にはなかった。
俺は取りあえず、明日朝一番でクラリスに謝りに行く事にしたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
聖女の存在価値が実はない?
でも、空気を読まない聖女はあくまでも強気です。
果たしてエミールは聖女の邪魔を防げるのか?
続きは明日です。
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