王宮の馬車で婚約者と一緒に学園に行く時に婚約者が言い訳をしてくれました
結局、私は怒っていたのに、エミールにいつもみたいに食べさせられて、いつの間にか怒りもトーンダウンしていたのだ。
うーん、これがすり込み教育なのか?
週に二回くらい食事時にデザートをエミールに食べさせられていたから、それが自然になっていたのかもしれない。
でも、なんか納得いかない!
「さあ、クラリス、一緒に学園に行こう」
とか、笑顔でエミールに言われたんだけど……
「えっ、殿下、私はまだ、殿下を許したわけではないんですけど」
「なら、なおさら、クラリスから離れるわけにはいかないな」
と言われて強引に手を引かれてエミールの馬車に連れて行かれるんだけど……
「いや、ちょっとお兄様!」
私がお兄様に助けを求めたけれど、お兄様は呆れ顔で首を振ってくれたのだ。
私は先に王宮の馬車の中に入れられたので、進行方向と逆の席に座ったら、エミールが横に座ってきたのだ。
「殿下、空いているのですから私の横に来る必要はないでしょう」
私がむっとして、驚いて逆の席に移ったら、
「クラリス。俺はエミールだ」
またエミールが私の横に座りながら、また、訳のわからないことを言ってくれた。
「えっ、だってロッテンマイエル先生が王太子殿下を名前呼びしてはいけませんって」
「ロッテンマイエルは関係ないだろう。俺も婚約者でない聖女にそう呼ばれたら怒ったけれど、クラリスは俺の婚約者じゃないか」
両眉をぎゅっと寄せてエミールが口にしてくれた。
「でも、聖女にそう呼ばれて嬉しそうでしたけれど」
私が疑念を口にした。
「嬉しいわけないだろう」
「でも、笑顔でしたよ。私の時はいつも不機嫌そうな顔していますけれど」
私が聖女と私の時のエミールの態度の違いを指摘すると、
「不機嫌そうな顔って、それが俺の素顔だ」
ぼそりとエミールが呟いた。
「はい?」
私はエミールが何を言っているかよく判らなかった。
「不機嫌そうな顔は俺の素顔だ」
傷ついた表情でエミールがゆっくりと再度くり返してくれた。
私がよく判らない顔をしていると、
「ニコニコ笑っているのは愛想笑いだ。クラリスもロッテンマイエルに指導されただろう。王家の笑みって言うのを。あれは愛想笑いで、決して楽しいわけじゃない!」
エミールが説明してくれた。
「だから、素顔でいられるクラリスの傍にいる時が俺の普通の表情なんだ!」
なんかエミールが言い切ってくれたんだけど本当なんだろうか?
「でも、聖女といる時はとても楽しそうだたったではないですか!」
私が再度指摘すると、
「だから愛想笑いだって何度も言っているだろう。むかつくのを愛想笑いで誤魔化しているんだ」
むっとしてエミールが反論してきた。
「こうやってクラリスと一緒にいる時が一番心安まるんだ」
「でも、昨日は聖女様と楽しそうに話していたから、私は悲しくて」
私が涙目になって言うと、
「申し訳なかった。クラリス。母はお前とさっさと結婚させてほしかったら聖女を大切に扱えとか訳の判らないことを言ってきたんだ。だから聖女が朝一に挨拶に来てそのまま王宮に連れて行けと皆が言うからやむを得ず連れて行ったんだ。それが下手な誤解を皆に与えて本当に申し訳なかった」
エミールが再度、心から頭を下げてくれた。
「だから、今日からはちゃんと俺の婚約者がクラリスだということを皆に知らしめるからクラリスも協力してほしい」
エミールが宣言して、お願いしてきたんだけど、
「えっ、でも、エミール様。私はあまり目立ちたくありません」
私は前世は絶賛引きこもりだったのだ。皆に注目されるのは慣れていなかった。
「別にクラリスは特殊な事はしなくて良い。俺と一緒に歩いてくれればそれでいいんだ」
エミールは簡単な事のように言うけれど、それが難しいのに!
「えっ、でも」
私はあまり目立ちたくないのに!
「でも、聖女はほっておいて良いの?」
あまり目立ちたくないから聞いてみた。
「あんな図太い聖女なんてほっておいても120%大丈夫だろう。あの図太さ、お前は馬鹿だと面と向かって言われてもびくともしないぞ。あいつを虐められる貴族がいれば見てみたいよ。クラリスもそう思うだろう?」
「それはそう思いますが」
確かにエミールの言う通りだった。
アニエスの方が余程悪役令嬢みたいに精神構造は図太そうだった。貴族に嫌みを言われても全く動じないし、逆襲しそうだ。
「それよりはか弱いクラリスを一人にする方が余程心配だ。それに、男達もほっておきそうにないし」
心配そうにエミールが私を見てくれた。
「私なんて地味な女に男の子は声をかけてきませんよ」
私が言うと、
「何が地味なんだよ。そう言うのはクラリスだけだろう。昨日も早速手の早そうな男に声をかけられていたじゃないか」
「あれは、私が虐められていたから助けてくれただけで」
「そこから手を付けようとしているんだろう。クラリスは甘すぎるんだ」
「そうですか? それに王妃様には学園で頑張って友達作って社交の練習するように言われていますし」
「まあ、それは追々していけば良いさ。少なくてもクラリスにはロワール公爵家の後ろ盾はあるし、祖母にも気に入られているんだ。そんなにそこは気にする必要はないさ」
エミールが断言してくれるんだけど。
「でも」
私がなおも反論しようとした時に馬車は学園に着いたのだ。
「話はまた、後にしよう」
そうエミールが言うと馬車が馬車止まりに止まった。
「取りあえず、周りの奴らにはクラリスが俺の婚約者だと判らせてやるぞ」
そう宣言すると、馬車の扉をエミールは開けてくれた。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次回は明朝です。
エミールとクラリスの二人で馬車から降り立つ二人。
皆の反応は?
聖女達の行動はどうなる?
お楽しみに