悪役令嬢に転生してショックを受けたけれど、普通の令嬢になろうと心に決めました
はっとして私は目覚めた。
白い天井が高い。
私は天蓋付きのベッドに寝ているみたいだった。
ここはどこだろう?
起き上がろうとして体が重くて動かなかった。
「えっ?」
そして、自分の手を見たらとても小さいんだけど、なんで?
「お嬢様、お目覚めになりましたか?」
目を覚ました私に気付いたみたいで、侍女みたいな人が慌てて聞いてきた。
「あなたは誰?」
「はい?」
私の言葉に侍女みたいな人が絶句していた。
「お嬢様。大丈夫ですか? 私はデジレでございますよ」
侍女とおぼしき人は心配そうに私を見てきた。
「デジレさん?」
私がぽかんとしていたら、
「少しお待ちくださいね」
そう言うと、慌てて侍女は出ていった。
「旦那様。お嬢様がお目覚めになりましたが、大変です!」
外でデジレが誰かに報告していた。
「クラリス、目が覚めたんだって!」
「クラリス、大丈夫か?」
そこに見目麗しい中年の紳士と10歳くらいのこれも見目麗しい男の子が飛び込んできた。
「あなた方は誰ですか?」
「えっ?」
私が尋ねた瞬間、紳士は固まっていた。
「何言っているんだよ、クラリス! 俺はお前の兄のセドリックだ」
その見目麗しい、男の子が教えてくれた。というかこの顔もどこかで見たことがある。
でも、クラリスって、どこかで聞いたことがある。
クラリス、クラリス……そうだ、確かゲームの悪役令嬢じゃあないの?
ああああ!
思い出した。
私は女神様にゲーム『ピンクの髪の聖女』の悪役令嬢クラリスに転生させられたのを思い出した。
「ええええ!」
そして、あまりのことに私は気を失ってしまったのだ。
それからが大変だったらしい。
改めて医者が呼ばれるし、お父様とお兄様は私が記憶喪失になったとパニックになっていて、使用人達もそれを抑えたりするので大変だったそうだ。
私は後から少しその時の大変だった話を聞いた。
お医者様は私が気がついてからいろいろ調べてくれたが、
「あまりに高熱が続いたので、一時的な記憶喪失です」
と診断してくれた。
というか、女神様がいい加減に私を異世界転生させたので、前の記憶を引き継げなかったのだと思う。
お父様とお兄様は私が記憶喪失になったことにとても驚いていたけれど、二人とも見た感じ私にはとても過保護だった。
何でも私は3日間流行病で高熱が続いていたんだとか。その間二人とも私につきっきりで看病してくれていたらしい。私が目覚めた時はあまりに二人が根を詰めていたので、侍女頭が強引に二人とデジレを交替させていたのだとか。
クラリスは3歳の時にお母様を流行病で亡くしていたはずだ。お父様とお兄様はその事もあってとても過保護になったんだと思う。だからクラリスは我が儘に育ったのかもしれない。
でも、たしか、セドリックお兄様は攻略対象の一人だったはずだ。私はそのルートまで行けなかったけれど……。
確かネットに我が儘放題のクラリスに愛想を尽かせかけたところに、ヒロインに優しい言葉をかけられてコロリといってしまったとか書いてあった。おいおい、自分が我が儘放題に私を育てたくせに見捨てるなよと私は思わず心の中で叫んでしまった。
「クラリス、何か欲しいものはないかい? お兄様は何でも買ってあげるよ」
「何を言うんだ、セドリック! 何か買うならお父様が買ってあげるからな。何がほしい? 宝石か? それともドレスか? 何でも言ってみなさい」
いやいや、そんなこと言うから私が我が儘に育つんだよ。
私は呆れてしまった。
でも、せっかくだから私は言ってみた。
「何か読むご本がほしいの」
私は本当に暇だったのだ。
「何? クラリスが本を読みたいだと!」
「あの勉強の嫌いなクラリスが?」
二人とも驚いてお互いに顔を見合わせていた。
「駄目?」
私はあざとく顔を傾けて上目遣いに聞いてみた。
「駄目なことがあるもんか」
「父上。この機会を逃してはなりませんぞ」
二人がなんかめちゃくちゃ燃えているんだけど……
私は何十冊もの絵本を二人が用意してくれるなんて思いもしなかったのだ。
その二人から解放されるまでが大変だった。
やっと解放された後、本当にクラリスに転生したのか確かめるために、私は専属の侍女のデジレに頼んで姿見を持ってきてもらった。
「こちらです。お嬢様」
侍女は少し大きな鏡を危なっかしい手つきで両手で持ってきてくれた。
こんなに重そうなものなら、デジレじゃなくて侍従に頼めば良かった、と、私が後悔した時だ。
「キャッ」
デジレが誤って鏡を落としてくれたのだ。
バリンッ
鏡が地面に落ちて大きな音を立てて割れたのだ。
「も、申し訳ありません」
真っ青になってデジレが謝ってきた。
「どうしたの?」
廊下から侍女頭のフランシーヌが慌てて飛んで来た。
「クラリス様。侍女のデジレが粗相をしまして申し訳ありません」
フランシーヌは平身低頭、一緒に謝ってくれるんだけど。
「それよりもデジレは怪我はないの?」
私は慌てて聞いたのだ。
「はい?」
侍女頭が目を見開いて私をまじまじと見てくれたんだけど、私はそんな変なことを言っただろうか?
「いや、鏡はどうでも良いからあなた、怪我しなかった?」
私が固まっているデジレに聞くと、
「いや、あの、クラリス様。この鏡はとても大切になさっていた鏡で、それを割ってしまい本当に申し訳ありません」
本当におどおどしてデジレは真っ青になって頭を下げてくるんだけど……
「まあ、鏡はまた買えば良いけれど、怪我したら大変でしょ。こんな重い物なら男の人に頼めば良かったわ。ごめんなさいね」
私が謝ると、侍女と侍女頭が驚愕して顔を見合わせていた。
「あのクラリス様が謝られた!」
ぼそりと言った侍女のデジレの言葉は衝撃的だった。
そうだった。私は我が儘三昧に育てられた悪役令嬢クラリス・ロワールだった。
とんでもないことなのだが、それまでクラリスは謝ったことがなかったらしい。侍女が何か粗相をする度にヒステリーを起こして怒り出したのだとか。このでかい鏡も2年前に流行病で亡くなったお母様の形見とのことでとても大切にしていたとの事だった。転生してきた私に取ってはどうでも良い大きすぎる鏡だけれど……
どうしよう?
まあ、でも、今更、発した言葉は戻せない。
そうだ。高熱で苦しんで性格が変わったことにしようと私は思いついた。
女神様も何も言ってこないし……
そもそも私は転生するのは賛成したけれど、悪役令嬢になるなんて一言も言っていないのだ。勝手に女神様が判断して送り込んだだけで……
女神様の話では私以外に何人か転生者もいるはずだけど、取りあえず、普通の令嬢で行くことにしようと私は決意したのだった。
ここまで読んで頂いて有難うございました
果たしてクラリスのもくろみは上手くいくのか?
続きは今夜です。