礼儀作法の先生に逆らって激怒された聖女は強引に職員室に連れて行かれました
入学式の後は簡単な訓示の後、各クラスに分かれたのだ。
教室は40人の席が用意されていて、私は黒板に向かって一番左の前だった。
それに対してアニエスは一番右の前だった。
「それでは皆さん、私はロッテンマイエル。このクラスの担任です。担当科目は礼儀作法マナーで王宮の礼儀作法指南をしていたこともあります。公爵令嬢であろうが、聖女様であろうがビシバシと指導していくのでそのつもりで」
ロッテンマイエル先生の目がぎろりと光って私を見た。
なんか早くも最悪な気がする。
「後は、皆さんにははっきりと言っておきますが、王太子殿下が学内では無礼講みたいなことをおっしゃっていらっしゃいましたが、親しき仲にも礼儀ありです。そこの所はわきまえるようにして下さい。では自己紹介を、アニエスさんから」
ロッテンマイエルは右端から当てた。
「はい。先ほど皆さんの前でもしましたが、聖女のアニエス・ボラックです。今日はエミール様に学園まで連れてきていただきました」
そう言うと私の方を勝ち誇ったように見てくれたんだけど……
「えっ」
多くの者が目撃していたが、伯爵家の令息の中には驚いた顔をしたものもいた。
「アニエスさん。王太子殿下のことは王太子殿下とお呼びするように」
ロッテンマイエル先生が注意する。
「何故ですか? エミール様は学園にいる間は皆平等とおっしゃいましたけど」
不満そうに、アニエスが文句を言うんだけど、あのロッテンマイエル先生に口答えするなんて、ものすごく勇気があると私は少しだけ感心した。
「アニエスさん。私は先ほども親しき仲にも礼儀ありと話しましたよね。王太子殿下はいずれこの国を背負って立たれるのです。さすがに名前呼びは許されません」
「ええええ! クラリスさんはしておられましたけど」
いきなりアニエスが私に振ってきてくれたんだけど……止めてよ!
私は悲鳴を上げた。
「クラリスさん! どういう事ですか?」
ぎろりと眼鏡を光らせてロッテンマイエル先生は私を睨み付けてきたんだけど……
「あの、ロッテンマイエル先生。私はまだ、学園にきてから一度も殿下とお話ししていないのですが」
私は慌てて本当のことを報告した。
「そうよね。私もそのように記憶しているわ。アニエスさん、あなた私に嘘をついたのですか」
一オクターブ上げてロッテンマイエル先生がアニエスを叱責した。
「そんな、先生。私が嘘をつくなんてあり得ないです」
アニエスは必死に必殺男殺しの目をうるうるさせてロッテンマイエル先生を見るんだけど、そんなのロッテンマイエル先生に通じるわけないじゃない!
ぎろりとロッテンマイエル先生が目を光らせて何か言い出そうとした時だ。
さすがのアニエスもやばいと察したのだろう。
「いえ、あの、その、そうだ! 学園の外で聞いたのです。そう、王宮でクラリスさんがエミール様をそう呼んでいるのを聞きました」
必死にアニエスは言い訳してくれるんだけど……私を無理矢理出すな!
と私は言いたかった。
というか、私と殿下のいるところをアニエスに見られた記憶はないんだけど……
「アニエスさん。そうなのですか? 私は王宮でも殿下と呼ぶようにあれほど言いましたよね」
ロッテンマイエル先生の声が更に大きくなっている。
「あの、私は今日ここで初めてアニエスさんとお会いしたんですけれど」
私は必死に逃げようとした。
ロッテンマイエル先生の怖さを知らないのか? この聖女は!
頼むから私を巻き込もうとするのは止めてほしい。
「いえ、王宮の方がクラリスさんがエミール様をそう呼んでいたとおっしゃっていらっしゃるのを聞いたのです」
アニエスがなおもしつこく言い募ってくるんだけど。
いい加減にしてほしい!
このままじゃ、自己紹介が終わらないんだけど……
「クラリスさん。どうなのです?」
「えっと、それは呼んだことはありますけれど」
「ほら、事実でしょう」
威張ってアニエスが言ってくれるんだけど……本当になんとかしてほしい。
「アニエスさん。私はあなたには王太子殿下呼びするようにと指導したはずです」
「でも、高位の方がそう呼ぶようにとおっしゃっているんですけれど」
仕方なしに、私は反論した。
いい加減に私は飽きてきた。
「殿下がなんと言われようと分を弁えるのが婚約者のあなたの役目ではないのですか」
ロッテンマイエル先生がそう指摘してくれた。
「それは殿下もそうおっしゃいましたけれど、私は陛下と王太后様からそう呼ぶようにと言われているんですけれど」
「例え、陛下と王太后様ですって!」
ロッテンマイエル先生は途中から口調ががらりと変わった。
「それは仕方がありませんね。そもそもクラリスさんは王太子殿下の婚約者ですから」
ロッテンマイエル先生はきちんと言い訳してくれた。
さすがのロッテンマイエル先生も、陛下と王太后様、絶対に王太后様だと思うが、には逆らえないみたいだった。それで先生はせっかく終わらせてくれようとしたのにだ。
「そんな、クラリス様が良いのなら、私も良いではないですか」
空気を読めない聖女がなおも続けてくれるんだけど……
「何を言っているのです! いい加減にしなさい」
ヒステリーを起こす寸前のロッテンマイエル先生だ。
皆を犠牲にするのは止めてほしい。
「宜しいですか? アニエスさん。あなたは王太子殿下の婚約者でも何でもないのです。名前呼びをして良い訳いなでしょう」
「エミール様に許されてもですか?」
私はこのアニエスの強心臓さに驚いた。ここまで図太いからゲームのヒロインなんだろうか?
「殿下に許されてもです」
「そんな!」
アニエスはショックを受けているみたいだったが、
「判りました。アニエスさん。もし判らないのならば判るまで、じっくりと職員室でお話を聞いて頂きますが」
にこりとロッテンマイエル先生が、笑ってくれた。悪魔の笑みだ。
これに何回やられたことか……
「いえ、結構です」
さすがの聖女も黙ってくれた。
それから全員の自己紹介が終わったのは授業終了時間を20分もオーバーしていた。
全てアニエスがロッテンマイエル先生に逆らったからだ。
この学年は公爵家は私だけで、侯爵家の関連もいず、伯爵家が10人。子爵家が20人。残り5人が男爵家。貴族以外の一般の者が4人だった。
やっと終わったと思ってさすがに疲れた私はさっさと帰ろうとした時だ。
「クラリスさん!」
来なくていいのにアニエスが私に突進してきた。
逃げようもなかった。
「申し訳ないけれど、エミール様はいただくわ」
そうヒロインに高らかに宣言されてしまったんだけど……こんな展開ゲームにあったっけ?
もう、疲れ切っていた私は返す言葉も見つからなかった。
でも、この聖女は肝心な事を忘れていたのだ。
ロッテンマイエル先生がいるということを!
「アニエスさん!」
そこには怒髪天のロッテンマイエル先生が立っていたのだ。
「あなたね。私は王太子殿下を名前呼びするのは止めなさいとあれほど言いましたよね」
「えっ、いや」
「宜しいです! 判らないのならば判るまで教えて差し上げます。さあ、職員室に行きましょう」
がしっとロッテンマイエル先生はアニエスの手を掴んでいた。
「えっ、いや、先生、待ってください」
「待ちません。私にも我慢の限界があります」
「そんな、先生、私は聖女の仕事がありまして」
さすがの聖女も必死に逃げようとし始めた。でも遅かったのだ。
「教会には学業優先の了解を取ってあります。今すぐ職員室に来なさい」
「そんな……」
呆然とするアニエスは、ロッテンマイエル先生に強引に職員室に連れて行かれたのだった……
さすがの気弱な私も、いい気味だ、ざまあみろと思ったのは女神様も許してくれると思う。
ロッテンマイエルに空気読まない聖女が連れて行かれて溜飲の少し下がるクラリスでした。
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でも、ヒロインはとても図太そう、気弱なクラリスで果たして勝てるのか?
続きは明朝です