老婆と小説談義で盛り上がっていたら、授業に遅刻して怒髪天の礼儀作法の先生が待っていました
それから毎日怒濤のお妃教育が始まった。
数学と国語はもうほとんど免除されて、歴史と地理は先生方と楽しいお勉強の時間だった。両方とも必要だし、私は前世はどちらかというと歴女だったので、歴史はとても興味があった。地理は各領地の特産品とかのお勉強で、これは例え私が断罪されても、この世界で生きていくのには必要な知識だ。
私は精力的に勉強した。
ただ、礼儀作法の授業は本当に最悪だった。私が転生してくる前のクラリスがロッテンマイエル先生を首にしたのを未だに根に持っているみたいで、ロッテンマイエル先生はグチグチと虐めてくるのだ。普通の授業は軍隊並みのスパルタだし……
「クラリス様。こんな事では到底エミール様の隣に立つことは出来ませんよ」
何か注意する度にロッテンマイヤー先生は言ってくれるんだけど、断罪されたくないから私は婚約者なんてなりたくないんだって!
というか既に婚約者になっているし……
まあ、ロッテンマイエル先生が怖くて言えなかったけれど……
婚約者になったら公爵家の優雅な絶賛引きこもり生活が無くなったし、こんな最低な礼儀作法の授業を受けざるを得なくなったし……本当に最悪だった。
私は昼からの2時間の礼儀作法の授業が本当に嫌だった。
まあ、王宮のお昼ご飯は本当に美味しくて、私は楽しみだったんだけど、最近はこの後が礼儀作法の授業かと思うと食欲もなくなってきた。
まあ、私についているデジレには、
「本当にそれで食欲が無くなったんですか?」
と呆れられていたけれど……
お昼は一人で取ることが多かったけど、たまにエミールと一緒になった。
そんな時はエミールは不機嫌そうだったけれど、何故かいつもデザートはエミールの分まで食べさせられているんだけど……エミールは私をペットの犬か何かと間違えているに違いない。
「どうしたんだ? 珍しく、元気がないな」
ある時、エミールが聞いてくれた。
私もいつも脳天気なだけじゃ無いわよ!
「午後からの礼儀作法の授業のことを考えると憂鬱で」
思わず本音をぽろりと漏らしてしまった。
「ああ、ロッテンマイエルの授業か。別に根を詰めて受けなくても良いぞ。適当に流せば良いさ」
そうお気楽に言いながらエミールはイチゴを私の口の中に入れてくれたのだ。
「うーん。エミール様はそれが許されても、ロッテンマイエル先生は私を目の敵にしているから」
私が言ったその時だ。
「誰が目の敵にしているんですか?」
後ろから当のロッテンマイエル先生の怒り声が聞こえたのだ。
「あっ。授業が始まる」
慌てて、エミールが逃げ出したんだけど……
嘘! 普通は婚約者を守るところでしょう。何故、逃げているのよ!
私はそう叫びたかった。
獲物を前にした魔物の前に可愛い婚約者を残していくのか?
いや、私はお笑い要員だった……
これが可愛いヒロインだったらエミールも助けてくれたんだと思うけれど、お笑い要員は犠牲にして、また後で笑ってくれるのだ。
最低!
「クラリス様。どういう事ですか?」
「いえ、あの、その……」
怒り狂ったロッテンマイエル先生の前に私が満足に答えられるわけもなかった…………
それから、延々ネチネチと虐められてその日の授業は4時間もしてくれたのだ。
もう本当にたまったものではなかった。
その挙げ句に、明日からは食事のマナー講習も兼ねましょうとお昼の時間まで礼儀作法の授業になってしまったんだけど……
そんな! 折角王宮の美味しい料理が味がしなくなるじゃない!
私は泣きそうになった。
翌朝、私はドヨーンとしていた。
今までお昼だけが楽しみでお妃教育を受けていたのに……
その日は授業も早く終わったので、私は王宮の図書館で見つけた恋愛小説の続きを夢中で読んでいた。
ラノベみたいな恋愛本が、この世界にあるなんて思ってもいなかった。それも王宮の図書館にあるなんて……
そのヒロインは隣国からの留学生で学園で王太子と恋仲になるの。でも、周りの令嬢が許さなくていろいろ虐められたりするの。でも、エミールと違ってその王太子は虐めからヒロインを格好良く守ってくれるのだ。
エミールもこの王太子みたいに私をヒロインの聖女から守ってくれたら良いのに!
まあ、私が悪役令嬢だから、ヒロインを虐めるのは私の役目なんだけど、ヒロインを虐めることが出来るとは到底思えない。というか、虐めるつもりはないし……
まあ、私をロッテンマイエル先生の前に置いて逃げてくれるくらいだ。絶対に私を守ってなんてくれない。
私は断罪一直線なのだ。
私もこのヒーローのエイブラハムみたいな素敵な方が婚約者だったら良かったのに!
私は本を読んで感動していた。
でも、ヒロインのアドリエンヌとヒーローのエイブラハムってどこかで聞いたことがあるのよね。私が思案している時だ。
「あら、その本読んでくれたの?」
私の傍にいつの間にか一見質素に見えるけれど高価な衣装を来たおばあちゃんが声をかけてくれた。どこかの高位貴族のおばあちゃんだろうか?
「はい。ヒロインのアドリエンヌみたいに、エイブラハムに守られたらどれだけ良いだろうって思いました」
「まあまあ、あなた良い事いうのね」
何故かそのおばあちゃんは破顔してくれた。
「中には婚約者候補から王太子を取り上げた悪役令嬢だとけなす者もいるんだけど」
少し顔を曇らせておばあちゃんは言ってくれたけれど、
「でも、相手も婚約者候補なんだから別に良いじゃないですか? それにアドリエンヌも隣国のお姫様ですし、留学してきたということは婚約者候補だったんですよね。別に何も問題ないと思いますよ」
「まあ、あなた本当によく判っているのね。そうか、あなたがよく出来るクラリスちゃんなのね」
おばあちゃんがいきなり私の名前を当ててくれた。
何故、このおばあちゃんは私の名前を当てられたんだろう?
それによくできるは言い過ぎだ。たまたま前世の数学が役に立ったのと、古語が読めるのは転生してきたからだ。
「いえ、私なんて全然です。たまたま古語が読めるだけで」
私が謙遜して言うと、
「何言っているのよ。普通こんな小さいのに古語なんて読めないわよ。それだけ努力したんでしょう」
「いえ、私は自宅の図書室で少し勉強しただけで」
そうだ。何も努力しないでも読めるだけなのだ。そのことについて言われても何の自慢にもならない。
「まあ、あなたはとても謙虚なのね」
おばあちゃんは私を褒めてくれたんだけど、事実だし……
「どう、クラリスちゃん。良ければお昼、一緒に食べない?」
「すみません。出来たらそうしたいんですけど、今から授業なんです」
私は残念そうにおばあちゃんに断った。
「えっ、お昼なのに授業なの?」
「そうなんです。礼儀作法の授業があって」
その時だ。いきなり正午の鐘がなりだしたのだ。
「ごめんなさい。おばあちゃん。あの先生遅れたらやばいので」
私は慌てて駆け出したのだ。
「えっ、クラリスちゃん」
おばあちゃんに手を振って私は指定された中庭に飛んでいったのだ。
私が転けなかったのは奇跡だった。
「クラリスさん。遅れてくるとはどういう事ですか」
しかし、そこには怒髪天のロッテンマイエル先生が立っていたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
怒りのロッテンマイエル先生の前にクラリスの運命は……
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