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エピローグ

 目覚めはだれかの呼び声だった。「おーい、大丈夫ですかー?」という声が何度か聞こえた。


 ぼくは暗黒の奈落から蘇って、ゆっくりと頭を起こした。黄昏の幻想的な薄闇はもはやなく、陽気な日の光がおだやかに瞼を撫でた。


 そこは急斜面の下の地べただった。高台に山歩き風の男性が見えた。


「大丈夫ですよー」


 ぼくは自然とニホン語で言い返してはっと気づいた。さきほどの呼び掛けはナグジェ語でもビドネス語でもなかった。とどめに「上れますかー?」という完全な日本語がはっきりと聞こえた。


 ぼくはそのハイカーの助けを借りて、斜面の木々を利用しつつ、どうにかこうにか上まで登った。そこはあの山、あの道、あの茂みだった。ピンクテープが懐かしく見えた。


 親切なハイカーは傷テープとスポーツタオルとミニペットボトルのお茶を置いて、ふもとへてくてく歩いて行った。


 ぼくは痛みと疲れをすっかり忘れて、お茶のキャップを開けて、頭からばしゃっと浴びた。


「夢じゃないな? いつだ?」


 ぼくはスマホを取り出して、電源をオンにした。すると、長らくぶんちんだったこのデバイスがモバイル回線を拾って、幾星霜振りにアンテナを立てた。すぐに時間の修正が掛かり、日付が正しいものに切り替わった。本日現在は十二月×日の十三時十五分だった。


「世の中には不思議なことがあるな」


 ぼくはペットボトルのお茶を飲み切り、あの茂みを一瞥して、物凄い安全運転でふもとへ下った。


 帰宅後、積年の気掛かりがしゅわしゅわ溶け去った。玄関、部屋の窓、ガスの元栓、いずれがばっちり完全密封だった。まあ、野菜室のしめじはかぴかぴだったが。


 ぼくは窓を開けて、パソコンを付けて、スマホの思い出写真をぼんやり眺めながら、この貴重な体験を書き始めた。


 タイトルは・・・そう、『落車したら異世界だった件』とかにするか。

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