95 逢瀬?
「そうだ! お前に伝えることがある」
「?」
「聖女が決定し来月転入してくる」
「!」
「名前はやはり、ソフィアだ。そして――」
ジンの最後の言葉にリュカは驚き目を見開いた。
休日明け、リュカとアイラはいつものように特訓をしていたが、いつもと少し違っていた。
リュカはアイラの魔術の魔法を受けながら鬱陶しいと思っていた。それは四竜が話していたからだ。
『この娘、国守玉に気に入られているのになぜ魔力が弱いのだ』
『なぜこんなに不安定なのだ?』
『魔術師には向いてないのではないか?』
『下手だのう』
とずっとリュカの耳元で言っているのだ。だがその声はアイラには聞こえていない。だからアイラとしたら、今日のリュカは機嫌が悪そうだという認識だった。
「お前ら、うるさい。なぜ出てきた」
リュカは小さく不満満載な声で言う。
『いいではないか』
『そうだ。あの娘、魔術のセンスはないが浄化は特級レベルなのだ。居心地がよいからな』
「それはアイラがいるだけで浄化しているということなのか?」
リュカは不思議に思う。すると四竜達は頷く。
『そうだ。あの娘の周りにはいつも精霊がおる。だから自然と浄化しているのだろう』
「お前達の意識体はアイラには分からないのだな」
アイラはまったく四竜に気付いていない感じだ。
『我等は精霊ではないからな』
「だがこの前、姿を消す魔獣はアイラは分かっていたが?」
『我等はに肉体がないからな。それに我等はお主の中にいるから気付かれることはない』
それならばなぜジンは最初から気付いたのか?
「ジン先生はやはり『国守玉の脚』だから気付いたのか?」
『あれは我等の存在を主張したからだ』
「そういうことか」
すると四竜が思い出したように言う。
『それにしてもあやつは国守玉の力を強く与えられておるな。あそこまで国守玉が力を与えるのは珍しい』
『うむ。特別に与えられているのだろう』
『あの者にはやらなくてはならない使命がある。だからだろうな』
「使命?」
『うむ。お主達を助けるのもあの者の使命だからな』
確かに何度かジンの能力を見たが、確かに強い。それは国守玉から特別に力を与えられているからだったのかと納得する。
するとアイラが首を傾げているのに気付く。
「どうした?」
「ねえ、さっきから何ブツブツ言ってるの?」
「!」
「ずっと私の文句、言ってるの?」
突拍子もないことを言い出したアイラにリュカは、ぷっと噴き出す。
「な、なによ!」
「いや。おもしろいなと思っただけだ」
すると四竜が言う。
『すまぬな。逢瀬の邪魔をしたようだ。娘が怒ってしまったようだな』
リュカはピクッと眉を動かす。
「誰が逢瀬だ」
『違うのか? こんな所に隠れて2人でおるから、逢瀬だと思っておったが』
「これはあいつの魔術の特訓だ。どう見たら逢瀬になるんだ」
ムッとして言えば、
『どう見ても逢瀬であろう』
『そう照れるでない』
「照れてない」
『だがお主、あの娘といるのは嫌ではないであろう? 心が穏やかである』
「……」
『リュカもまだ赤ん坊だと思っておったが、隅に置けぬな』
などと好き勝手に言っている。その中で「赤ん坊」という言葉にひっかかった。確かにこの四竜達から見れば自分は赤ん坊と同じに見えるのだろう。きのうこの四竜に年齢を聞いたら、500年以上生きていた長寿の竜だったことが判明した。そんな四竜からしたら、リュカの16歳など赤ん坊にしか見えないだろう。だが中身は25歳で人間としは立派な大人だ。
「俺は赤ん坊ではない」
『人間ではそうかもしれぬが、我等からしたら赤子と一緒だ』
するとアイラが首を傾げて言う。
「やっぱり今日のリュカ、おかしいわ」
『すまぬ。また我等が逢瀬の邪魔をしたな』
「だから逢瀬じゃない!」
「え?」
声を大にして言ってしまったためアイラが怪訝な顔を向ける。
「逢瀬?」
「あ、いや……仰せの通り?」
意味の分からないことを言っている自覚があるため、恥ずかしくなり耳が赤くなる。
「リュカ」
「?」
「頭打った? 病院行った方がいいんじゃない?」
アイラは真剣な顔で言う。それを聞いていた四竜達は大声で笑っている。
「おまえら、出て行け」
そう言った瞬間気配がなくなった。都合が悪くなったためなのだろう。
「ちっ!」
舌打ちしていると、
「ねえ。大丈夫?」
アイラがいつの間にか目の前まで来て顔を覗き込んでいた。あまりの近さにリュカは驚き体をビクっと震わす。
「今日のリュカ、おかしいわよ?」
「……いや。大丈夫だ……」
一歩後ろに下がり顔を背け応えるリュカだった。
その頃ジンは亡くなった父親と兄の遺影写真が飾ってある部屋にいた。
「父さん、レン兄、ここに来るの、久しぶりだな」
ワイン片手に写真を眺めながら呟く。この場所に来るのは3年ぶりかと弱々しく笑う。そして2人が亡くなった時のことを思い出し物思いにふける。
3年前、父と兄は『国守玉の肢体』の浄化に行くと言って出て行ったきり帰ってこなかった。そして2日後、『国守玉の脚』の五守家のカシュー家当主、エルトンが父親の亡骸と共に屋敷にやって来たことで知ったのだった。
エルトンは、父と兄が討伐の最中に命を落としたと説明した。最初耳を疑った。あの2人が魔獣にやられるとは考えられなかったからだ。2人は『国守玉の脚』の中でも1位、2位の強さの持ち主だ。ちょっとやそっとではやられる2人ではないのだ。
「嘘ですよね?」
第一声がそれだった。だが目の前にはお棺に入った父親の亡骸がある。どう考えても嘘ではない。それでもまだ信じることが出来ない。
「レン兄は? レン兄はどうしたんです? 亡くなったのなら亡骸があるはずでしょ?」
もしかしたらどこかで生きていて助けを待っているのかもしれないのだ。
ジンの質問にエルトンは首を横に振る。
「近くをくまなく探したがどこにもいなかった。それに、君の兄レンの血痕も見つかった。たぶん魔獣に食われたのだろう」
「!」
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