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94 四竜が封印された理由



『あの魔人は我等の意識が剥がされる前に我等の中に入り込んだ魔界から這い上がってきた集合体だ』

「そうだとしても、なぜあんな3つも複雑な魔法が魔晶箱にかかっていたんだ?」


 一つ目は、鍵をかけた者以上の魔力の持ち主しか開けることが出来ない。

 二つ目は、1度知った魔力を無効化する。

 三つ目が、知った魔力の持ち主の魔力を吸い続け命を奪う。


 これが原因で今まで何人もの命が奪われたはずだ。現にユーゴも命を落としそうになったのだ。


『一つ目と二つ目は魔晶箱の力で三つ目だけが魔人の力だ』

「!」

『だが一つ目はお前達が言うもので合っておるが、二つ目が少し違う』

「違う?」

『そうだ。1度知った魔力を無効化するというのは合っているが、それはこの鍵をかけた者の魔力よりも少ない者というものだ。それは魔力が少ない者同士で共同で巨大な魔力をぶち込まれても開いてしまう恐れがあったからだ』


 それは開けた後、魔人が出てきた時、倒せる者がいないということだ。


『だがそこで思いもしない誤算が生じた。それは一緒に封じこめた魔人の能力だった。あやつは、我等の魔力を吸い上げ、そして魔晶箱を開けようとした者の魔力を吸い取り始めたのだ』


 するとジンが言う。


「なるほどな。魔晶箱の外からの攻撃は魔晶箱が無効化するが、魔晶箱の中にいた魔人の魔力は無効化する条件には入らず無効化されなかったということか」


 四竜の魂を守るためにした魔晶箱の魔法が、開けに来た者の命を奪うという最悪な事態を招いてしまったのだ。


「だがなぜ四竜の魂は消滅しなかったんだ? 魔力を吸い尽くされたのなら命は亡くなるんじゃねえのか?」

『それは我等の体と意識があえて分かれさせられていたからだ。もし体があったのなら魔力と一緒に体に宿る生命力も吸い取られ死んでいただろうな。そこは我等の体と意識を切り離した人間に感謝だな』


 その人間も国守玉から言われてやったのだろうとジンもリュカも思った。人間だけでは魔人の能力は分からなかったはずなのだ。そこでジンは訊く。


「四竜、1つ聞きたい。その魔晶箱はどこに埋まっていた?」

『王宮だ』

「!」


 そこでジンは気付いた。


「国守玉の下の部屋の横か?」

『そうだ』


 そこは厨房の隣りの場所。


「そういうことか。あの小火ぼやは魔晶箱を取り出すためのカモフラージュだったというわけか!」


 だがそこで新たな疑問が浮かび上がる。


「四竜、ホルスマン伯爵はどうやって知ったんだ?」

『それは我等は知らぬ。国守玉からも教えられてもらっておらぬ』

「そうか」


 ジンは嘆息する。


「なら質問を変える。なぜリュカにお前達の体を探させる? お前達の体は人柱力の役目だろう?」

『お主は知らぬだろうが、我らの封印も永久ではない』

「なんだと?」


 ジンとリュカは驚く。


『我らの体は元々は生体だ。一時的なもので不完全なものだ。そしてそれは『国守玉の脚』の犠牲の元に成り立っている』

「犠牲?」


 ジンは眉を潜める。


『お主は知らぬようだな』

「何をだ?」

『知りたければ長の元へ行け』

「……」


 嫌な予感しかしないためジンは黙る。いきなり黙りしゃべらなくなったジンの代わりにリュカが質問する。


「四竜、お前達の体を見つけてどうするんだ?」


 見つけただけではないはずだ。


『すべての我等の体を竜柱から解放しろ』

「はあ?」


 それにはジンが反応する。


「四竜! 何を言っているのか分かっているのか! そんなこと簡単にできるわけがないだろ!」


 声を荒らげ言うジンに四竜が言う。


『そうだ。安易に出来ないから魔晶箱という物を作り、それ相当の人間が現れるのを待っていたのだ。そしてそれが出来る者が現れたのだ。それがリュカだ』


 四竜の言うことは分かるが、1つ納得がいかない。


「じゃあそう思うならなぜ魔晶箱を王宮に隠した? 隠していたら見つかる者も見つからないじゃないか」


 今回はたまたま見つかったが、もしグレイが見つけなければ永久に魔晶箱は王宮に隠され見つからなかったかもしれないのだ。


『それは我等がしたのではない。大昔は王宮に国守玉と同じように置いてあった』

「なんだと?」

『我等と一緒に魔人も封印されていたからな』


 そこでジンも四竜が何が言いたいのか分かった。

 魔人が力を使い、魔晶箱を開けようとした人間の魔力を吸い尽くし命を奪っていったからだろう。

 年月が過ぎ、本来の目的――四竜の意識体を体に戻すことが忘れ去られていった。そして残ったのが、命を奪う危険な魔晶箱ということだけだった。そしてその恐ろしい魔晶箱を誰も触れられないように王宮の地下に埋められたのだった。


 ――じゃあどうやってホルスマン伯爵は魔晶箱の場所を知ったんだ?


 わからないことばかりだとジンは嘆息する。すると四竜が言う。


『我らはここまでだ』

「ちょっと待て! まだ聞きたいことがある!」

『悪いが我等の魔力は魔人に吸い取られ、徐々に回復をしているがまだまだだ。だから少ししか起きていられない』


 そこで四竜の意識体は消え、それ以降声が聞こえてくることはなかった。


「はあ。もっとがっつりリュカの魔力を吸い取ればいいのに」

「え?」


 聞き伝てならない言葉を聞き、リュカはギョッとする。


「どういう意味です?」

「お前の中に入ったってことは、お前の魔力を少しづつ吸収し回復しているということだろ?」


 そこでリュカは心当たりがあることに気付く。四竜が中に入ってから少し倦怠感があるのだ。


「そういうことか」


 四竜の魔力に堪えられる器と言っていたが、それだけではなく、四竜に魔力を与えるだけの魔力量があるのかもあったということだとそこで気付く。気付いたことで何か納得がいかない。だからムッとし四竜に向けて言う。


「四竜、この身返りは大きいぞ」


 そしてジンを見れば、何か浮かない顔を見せている。


おさに聞きに行くのに何か問題でもあるんです?」


 ジンは一度息を深く吸い込み吐くとソファーに倒れ込むように寝転び天井を見る。


「別に聞きに行くのが問題ではない……」

「他に何か気になることでも?」

「ああ……。四竜が言った『国守玉の脚』の犠牲の元に成り立っている』という言葉が気になってな」


 だがそれ以上ジンは話さず天井を見上げているだけだ。

 言えないこともあるだろうとリュカ立ち上がる。


「じゃあ俺は帰ります」


 そこでジンはあることを思い出し飛び起きた。


「そうだ! お前に伝えることがある」

「?」

「聖女が決定し来月転入してくる」

「!」

「名前はやはり、ソフィアだ。そして――」


 ジンの最後の言葉にリュカは驚き目を見開いた。





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