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92 兄の弟愛



「で、何があったんです?」


 エタンの言葉にオーエンとリュカは顔を見合わせる。その2人の態度でエタンの目が据わる。


「父上、リュカ、隠さずちゃんと説明してもらいましょうか」


 こうなったエタンは怖い。リュカとオーエンは素直に話すことにする。


「実は――」


 リュカが説明し始めると、エタンの機嫌はどんどん悪くなっていった。


「そんなことがあったのか……」


 もうエタンは怒り爆発寸前だ。


「あ、兄上、でももう終ったことです。それに父上が団長に言ってくれたので」

「それでも甘い!」

「!」


 リュカはびくっと体を震わせる。どうも昔からの条件反射なのか、エタンが怒るとどうしても体が強ばってしまう。


「エタン、俺がちゃんとユーゴには警告しておいたから大丈夫だ」


 オーエンもエタンを宥めるように言うが、エタンはキッとオーエンを見て言う。


「父上! 甘いです! もっと言ってやらないと!」


 ――いや、けっこう強烈だったと思うが。


 リュカは先ほどのオーエンを思い出し苦笑する。


「下手すればリュカが大怪我するか、命を落とすところだったのですよ! 団長は何を考えているのか!」


 そして踵を返す。


「俺も団長に一言言ってきます」

「お、おい! エタン!」


 オーエンが制するがエタンは振り向くことなく早足にユーゴ達がいる場所へと消えて行った。


「ったく、リュカのことになるとあれだ」


 オーエンは苦笑する。エタンは昔からリュカのことになると見境もなく怒りをぶちまけていた。最近はそのようなことがなかったため忘れていたが、小さい頃リュカがいじめられると、すぐにエタンが苛めた貴族の子供に説教をしに屋敷まで押しかけて行ったことを思い出した。


 ――相変わらすの兄上だ。


 リュカも苦笑する。ああなってはオーエンですら止めることは出来ない。オーエンも分かっているためエタンを追いかけることはしなかった。


「リュカ、時間はあるか?」

「はい」

「なら明日は休みだろう。今日はうちに戻って来なさい。そして詳しく聞かせてもらおうか」

「わかりました。兄上は大丈夫でしょうか?」


 あの感じだとユーゴに殴りかかる勢いだ。


「大丈夫だろう。ユーゴもあいつのことをよく知っているからな」


 そうだったのかとリュカは首を傾げる。前世ではエタンとユーゴは挨拶をする程度だったはずだ。


「兄上と団長は仲良かったのですか?」


 オーエンは笑う。


「違う違う。ただエタンが弟を激愛しているということをユーゴが知っているということだ。この前宰相の部屋でユーゴに食ってかかったそうだ」

「え?」

「もしリュカが嫌がることをしたら許さないと啖呵を切ったらしい」

「……ああ」


 その光景が浮かびリュカは顔を引きつらせる。エタンならやりかねない。


「相変わらずですね……」


 そう言うがリュカの顔は笑顔だ。そんなリュカを見てオーエンは微笑む。


「エタンがいてよかった。お前がグレなかったのはエタンのおかげだな」


 確かにそうかもしれないとリュカは思う。小さい頃母を亡くし、父親であるオーエンは自分達を置いて海に出てしまった。残された時寂しさで毎晩泣いた。そんなリュカの隣りにいつも寄り添ってくれていたのがエタンだ。今思えばエタンも15歳という若さでランガー家を背負わされ、幼いリュカの面倒も見て、学業もこなさなければならなかったのだ。どれほどのプレッシャーだっただろうか。だがエタンは一度もリュカの前では涙を見せることも弱音を吐くこともなかったのだ。凄いと思う。


「兄上は俺が一番尊敬する人間です」


 嘘ではない。エタンには頭が上がらない。勝てるのは魔力だけだ。


「あはは。俺ではないか。確かに俺は父親としては失格だからな」

「そうですね。ですが、魔力では父上に勝てる気がしません」


 これも本心だ。さっきみたオーエンの魔力はリュカよりも上だったのだ。


「そうか。だがあまり魔力量は変わらないと思うが?」

「魔力量はあまり変わりませんが、質がまったく違います。もし同じ大きさの魔法を打ち合ったら俺の魔法は父上の魔法に負けるでしょう」


 正直に言うとオーエンは微笑む。


「経験の違いだ。それに魔力を見せただけでそこまで解るんだ。お前もすぐに俺に追いつく」

「そうでしょうか。まだ俺は全然父上に近づけていません」


 25歳生きてもまだオーエンのレベルまでに行くにはほど遠いと感じる。


「当たり前だ。俺はお前より22年も長く生きているんだ」


 それはリュカの前世の年齢で計算した数字だ。


「だから焦らず登ってこい」


 オーエンはそういうと歩き出した。その背中を見て、やはり遠いなと思う。


「がんばります」


 そして屋敷へと戻ると、リュカはオーエンに四凶の意識体が自分の中に入ったこと、それは自分しかわからなかったこと等、全てを話した。


「ユーゴにも気付かれなかったとはな」

「はい」


 ユーゴは魔力などの感知が得意だ。そのユーゴが気付かなかったとなると、


「その瞬間だけ時を止められたか、お前の次元が違ったかだな」

「……だと思います」

「そしてその4体の意識体は四凶で間違いないだろう」

「父上は四凶をご存知ですか? 俺は知りませんでした」

「俺も知らんな。ジン・ベレスなら知っているかもな」


 確かにそうだと思う。


「1度……聞いてみます」

「ならもう寝なさい。話すのも立っているのも辛いだろう」

「……あ、はい……でも大丈夫……です」


 言葉とは裏腹に体と意識が遠のいていく。


「力の使い過ぎだ」


 するとリュカの体が横に傾き、座っているソファに倒れるように意識を手放した。


「無理しおって。体がまだ成熟していないのに高難度の【インニライ】など使うからだ。【インニライ】は魔力量の多さから体に負担が半端ない。倒れるのは当たり前だ。もっと考えて行動しろと言っているだろ」


 そしてリュカの寝顔を見ながらオーエンは微笑む。


「今はゆっくり休め。まだ本番は来てないんだ」


 ――お前が今から行く道は険しい道だろうからな。



 結局目覚めたのは、次の日の午後3時を過ぎていた。起きると、エタンが午前中に来たことをオーエンが教えてくれた。エタンはあれからユーゴの所へ行って2時間ずっと説教し、2度とリュカを利用しないことを約束させたとのことだった。

 相変わらず容赦ないエタンだとオーエンとリュカは苦笑した。

 そして腹ごしらえをし実家の屋敷を出たリュカは、その足でジンの屋敷に向かった。屋敷に行くと、ジンの部屋へと向かう。


「入りますよ」


 声をかけ中に入ると、ジンは顔に本をかぶりソファーに横になったままリュカを迎え入れた。その周りには本や書類らしき物が散乱していた。


「ダラダラしてますね」

「休みぐらいダラダラしてもいいだろう」


 そう言うが、書類に目を通し何かを調べていてそのまま寝落ちした感じだ。


「何しに来たんだ?」


 リュカはそれには応えず、床に散らばった本や書類を拾いながら内容に目を通す。そこには身分調査の結果と職歴や事業内容などが書かれていた。


「何か調べていたんですか?」

「ああ……グレイ・ホルスマンをな」


 ジンは気怠げに応える。


「なぜこの人を?」

「いやな、こいつが――」


 そう言いながらジンは顔に置いていた本を取りリュカを見た瞬間言い止すと、いきなり起き上がりリュカをじっと見る。


「なんですか?」

「お前、何を連れて来た?」











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