91 オーエンには勝てない
「なぜ君は僕の能力を知っているのかな?」
「!」
リュカは目を見開く。
――しまった。団長の能力は魔術師団員しか知らないことだった。
「おかしいな。ジンも知らないはずなんだが?」
どう応えれば正解なのかリュカは考えるが浮かばない。ブレッドも怪訝な顔をリュカへと向けている。すると聞き慣れた声が背後からした。
「ユーゴ、あまり息子を苛めないでくれないか?」
振り向けば、オーエンが笑顔でそこにいた。
「父上?」
「オーエン先輩!」
ユーゴは立ち上がりオーエンに頭を下げる。
「すまない。俺がユーゴの能力をこの前の建国100周年の祝いの儀の事件の後に教えたんだ」
オーエンがさも悪かったと言わんばかりの顔をしてユーゴに説明する。そんなオーエンにユーゴは嘆息する。
「そうだったのですね」
「ああ」
オーエンはリュカの隣りに来ると周りを見渡す。すると一気に空気が重くなった。
「!」
そこにいた全員が恐怖で動けなくなる。リュカもユーゴも例外ではない。
「ユーゴ、これはどういうことだ?」
――父上?
リュカは隣りのオーエンを見る。この膨大な魔力はオーエンのものだ。それも今まで見たことがないほどの魔力量だ。
――これが父上の魔力!
リュカは産まれて初めてオーエンの魔力を目の当たりにした。
――これほどまでの魔力量だったとは! 俺より多い!
そしてオーエンを見て気付く。もの凄く機嫌が悪いのだ。するとユーゴがオーエンの前に跪いた。
「申し訳ございません。僕が息子さんを勝手に呼び出し協力してもらいました」
今まで見たことがないユーゴの態度にリュカやブレッド達魔術師団員は驚く。
「リュカはまだ学生だ。魔術師団員でも何でもない。まだ親の保護下にある。まず俺に許可を取るのが筋ではないのか?」
「……はい。それは本当に僕の不徳の致すところであり、深く謝罪申し上げます」
ユーゴは深々と頭を下げる。すると団員達がブルブルと震え始めた。
「先輩、どうか魔力を抑えていただけないですか。うちの者達がもう限界です」
するとオーエンは大きく嘆息すると魔力を隠した。その瞬間、団員達は大きく深呼吸してその場に座りこんだ。
「今回はお前の命もかかっていたこともありこれくらいにしてやるが、もし今度勝手にリュカを巻き込んだ時は俺はお前を許さんぞ」
「はい! 申し訳ございませんでした」
「リュカ、行くぞ」
「え、あ、はい」
オーエンはリュカを連れて練習場を後にした。
2人がいなくなった後、ユーゴは冷や汗を掻きながら「はあ」と安堵のため息をつく。
「久しぶりにオーエン先輩の本気モードを見たよ」
するとブレッドが驚き言う。
「オーエン様、話には聞いてましたけど、あれほどの魔力の持ち主だったのですね」
「ああ。凄い魔力量だね。昔よりも多くなってる。それに技術も凄い」
「え? 技術ですか?」
「ああ。気付かなかったかい? 僕はここに強靱な結界を張っていてまだ解いてないんだよ」
「あ!」
「それなのにオーエン先輩はその結界を簡単に通り抜けてきていた」
「ほんとだ!」
ブレッドはそこで気付き驚く。そして思ったことを口にした。
「団長、今回のこと、オーエン様に頼んだほうがよかったのでは?」
それにはユーゴも同感だと頷く。
「確かにそうだね。失敗したねー」
苦笑しながら言うがユーゴはまだ心臓の鼓動は早い。
――それにしても久しぶりに恐怖を感じた。
オーエンが先輩だったのはもう10年以上前の話だ。
――僕も10年前よりも力も魔力量も強くなったはずなんだけどなー。それなのにまったく勝てる気がしなかった。
そしてため息をつく。
「はあ。あの親子を敵には回したくないねー」
ユーゴの言葉にブレッドも他の団員達も同感だと頷くのだった。
オーエンはリュカと練習場を出ると、立ち止まりリュカへと体を向ける。そしてリュカの額に手を当て、治癒魔法をかけ、自身の魔力をリュカへと流す。
「ったく、まだ体が未熟なのに膨大な魔力を使い過ぎだ。今にも倒れそうではないか」
確かにもう体は限界で、魔力もほとんど枯渇状態だった。それを見ただけで見抜いた父親はやはりすごいとリュカは改めて思う。
しばらくすると、どうにか普通に動ける状態にまで回復した。
「これでよし」
「ありがとうございます」
「おまえ、相当疲弊していたな」
リュカもここまで疲弊するとは思っていなかった。前世で同じことをしてもここまでにはならなかったはずだ。やはり体は未熟だと思い知らされる。もしオーエンの治癒がなければ1日寝込むケースだっただろう。
「もしかして治癒をしてくれるためにわざわざ来てくれたのですか?」
オーエンは家にいたはずだ。
「ああ。あれだけの魔力を使えば倒れるのが目に見えていたからな」
わざわざ心配して来てくれたことに嬉しく思う。だがなぜオーエンは分かったのか? あの場所にはユーゴが強靱な結界を張っていて魔力は漏れなかったはずだ。現に王宮の者達は誰1人と気付いていなかった。
「なぜ父上は気付いたのですか?」
するとオーエンは、
「当たり前だ。家族なら分かるものだ」
と理解不能なことを言った。
――家族なら分かる?
どういうことだと思っていると、そこへエタンが血相を変えて飛んで来た。
「父上! リュカ!」
「兄上?」
「エタンか」
エタンはリュカ達の所へ来ると、
「父上! 何があったんです!」
と言ってきた。それにはリュカは驚く。エタンは魔力はあまり強くはない。やはり強くない場合、魔力を感知する力も低くなる。エタンがいる宰相の部屋は練習場からかなり離れた場所だ。ましてや今回はユーゴの結界が張ってあった。絶対に気付くわけがないはずなのだ。それなのに気付いたというのか? まったく意味がわからないリュカだ。
「兄上は父上の魔力に気付いたのですか?」
「当たり前だ。父上が魔力を全開にすれば、ここの魔術団員達全員が気付く。それに父上の魔力だけはなぜかどこにいても俺は感知できるんだ」
「そうなんですか?」
初耳だ。するとオーエンが苦笑しながら言う。
「そうなんだ。こいつ、俺が全開で魔力を出すと体が反応するみたいでな。小さい頃からよく聞かれたよ。今日魔力を解放しましたかってな」
――それはやはり家族だからと言うことなのだろうか。
するとエタンが言う。
「全身がぞわぞわってするんです。怖さはないですが気持ち悪い感覚なんですよ」
その感覚にリュカも覚えがあった。小さい頃確かにその感覚があったのだ。それがオーエンが魔力を解放した時だったのかと今になって分かった。だとすれば、リュカの魔力もオーエンは何らかの感覚で察知したのだろう。
「で、何があったんです?」
エタンの言葉にオーエンとリュカは顔を見合わせる。その2人の態度でエタンの目が据わる。
「父上、リュカ、隠さずちゃんと説明してもらいましょうか」
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