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8 それぞれの上司への思い


 入学してから3日が過ぎた。

 2回目の学生生活は、すべてが新鮮で毎日が楽しい時間を過ごしていた。


 そして今日、初めての1年生全員での合同授業が野外で行われることになった。


 皆、外にクラス別に集合する。といっても、まずC・D・Eクラスが運動場に集まり、その後にA・Bクラスがやって来るというのが決まりだ。一応皇族や貴族の身の安全を考慮した形だ。

 アイラ達が集まり整列した後に、Bクラス、そしてAクラスとやって来た。

 やはり注目は次期国王のマティスだった。マティスと一緒にいる4人にも注目がいく。アイラはその者達を見て懐かしく思う。


 ――ミゲルにダリオにハーツ。懐かしい。


 この3人はマティスの学生時代の友達で貴族の中でも地位が高い者達だ。学生時代はマティスの友達だからか、アイラにも気さくに話しかけてくれていた。卒業してからも何かとマティスの力になっていたことを思い出す。

 そして前回とは違う1人。


 ――リュカ・ケイラー。


「ねえ。殿下も素敵だけど、その後ろにいる4人も素敵よねー」

「私達には恐れ多い方達よねー」


 周りのC・D・Eクラスの女子から憧れと感嘆の声が上がる。前回の人生では同じクラスだったから気付かなかったが、マティス達はとても女子から人気があったのだとアイラはそこで気付く。


 ――確かに顔だけはいいからね。


 だからと言ってまた知り合いになりたくないとアイラは思う。


 ――今度こそ平凡に過ごすんだから。


 まず学園長の挨拶に始まり、その後、副学園長から講師の紹介がなされた。


「今日は王宮から魔術師団長と副団長とその部下の方数名、そして王宮の精霊魔法士長と副長が教えに来てくれた。なかなか会うことが出来ないお方達だ。よーく話を聞き、ちゃんと学ぶように!」


 アイラは精霊魔法士長を見てじんと目頭が熱くなる。


 ――イライザ・マーティン精霊魔法士長、生きてる……。


 イライザ・マーティンは、若くして精霊魔法士長に抜擢され、女性では初めて長の座に付いた者だ。前回ではアイラの良き理解者であり指導者だった。だがアイラが働き始めて3年後に病気で亡くなってしまったのだ。


 ――会うのは何年ぶりかしら。私が死んだのは士長が死んだ3年後だったから3年ぶりだわ。


 懐かしさでいっぱいになる。だが今の彼女はアイラのことを知らない。


 ――士長ごめんなさい。今回私は精霊魔法士として働くことはしません。


 そう心で呟き、昔に浸るのをやめる。もう自分は新しい人生を歩み始めたのだ。


「では、魔術を選考している者はこちらに移動しろ」


 教師の号令でアイラはイライザから背を向けた。


 リュカも魔術師団長のユーゴ・グリフィスや副団長のブレッド・オルグレン達を見て懐かしく思う。

 特にユーゴ・グリフィスは、リュカの学生の時の先生であり、王宮魔術師団として働き始めた時の魔術師団長だった。優秀だったがリュカが王宮で働き始めた4年後、1人遠征中に原因不明の死を遂げた。結局何が原因だったかわからなかった。それは死体が見つからなかったからだ。海に落ちたことはわかっていたため、その後捜索がされたが遺体は見つからなかった。


 ――グリフィス団長、あなたはあの時、何があったのですか?


 だがこの時点では、ユーゴが分かるはずがない。まだ先の未来の出来事なのだ。でも今回はその原因を突き止め、ユーゴを死なせないようにしたいと思う。

 今はリュカはまだ知り合いではない。だから一瞥しただけで視線を外した。

 ユーゴクラスの魔術師になると、ちょっとのことで魔術が強いか強くないか気付かれる。今はまだ気付かれたくない。


 ――下手に目を付けられるとあの人は厄介だ。極力避けよう。


 そしてアイラとリュカの2人は、お互い自分の能力を隠すことに集中するのだった。


 だが2人の願いは叶わなかった。


 イライザは1人の女性――アイラに目が行く。それは精霊魔法の生徒ではない。魔術の授業を受けている者だ。理由は分からない。だがなぜか気になるのだ。


 ――あの生徒は魔術専攻よ。なのになぜ?


 そこでアイラに少し違和感を感じる。


「これは……」


 だが今は授業中で、精霊魔法専攻の生徒の指導をしているためどうすることも出来ない。結局イライザはアイラから目を離したのだった。


 そしてユーゴもリュカに目が止まる。


「ブレッド」

「はい」


 ユーゴに呼ばれ副団長のブレッドは返事をしてユーゴを見る。


「あの黒髪の男子生徒をどう見る?」


 ブレッドはユーゴの視線を追ってリュカを見る。リュカは火の魔法を出していて、他の者と何の代わりもなかった。それよりもマティスやマティスの友のダリオやミゲルの方が炎も大きく魔術の力は上に見えた。


「普通に見えますが?」

「本当にそうか?」

「と言いますと?」

「よく見てみろ。あの者はわざと弱い炎を出している」

「え?」


 ブレッドはリュカをもう一度慎重に見る。だが何度見ても普通に出しているようにしか見えない。


「すみません、私にはよくわかりません」

「そうか」


 だがユーゴはそれ以上言うわけでもなくただ笑顔だ。ブレッドは嫌な予感がした。こういう顔をする後はろくなことがないのだ。だがブレッドの心配するようなことは授業中は起きなかった。

 起きたのは、授業が終わり生徒達がそれぞれ教室に戻り始めた時だった。

 ユーゴは一瞬にしてリュカの後ろに移動すると、最大限に魔力を手に込め攻撃の姿勢を取った。


「!」


 リュカはすぐに反応し振り向く。そこにはユーゴがリュカがよく知る悪戯な笑顔を浮かべていたのだった。





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