85 ユーゴとグレイ
「魔晶箱はある人物からもらったものだ。その人物はグレイ・ホルスマン伯爵だよ」
「!」
リュカは目を見開く。
「この前の陛下と殿下の暗殺の実行犯がどんな奴らなのか判明した。君の父親にも話したが、暗殺組織『スネーク』だ。記憶を消されてたが、隠密部隊の協力で武器の出所などからどこの組織かまでは突き止めたんだ」
さすが隠密部隊だとリュカは感心する。その辺のことは朝飯前だ。
「で、どうせとぼけるだろうと思って直接乗り込んだんだ。案の定認めなかったけどね」
「でしょうね」
誰が認める者がいるだろうかとリュカは半笑いする。
「だからちょっと話し合いをしたんだ」
――ああ、力尽くでしたんだな。
リュカはユーゴの言葉をそのままの意味で捉えない。言い方からして、その場にいた組織全員を倒したということだろうとリュカは解釈する。
それは前世で把握済みだ。
ユーゴは、話し方や仕草でとても穏やかで怒らないイメージに見えるが、実際は違う。けっこう沸点が低い人物だ。そして、こうと決めたことは周りが反対しても力尽くで行く猪突猛進タイプだ。
そして今回もそうだったのだろう。現にブレッドが罰が悪そうに目を逸らしているのが証拠だ。
相変わらずなとリュカは内心嘆息する。
「その結果、ある人物の名前が出てきた。それがグレイ・ホルスマン伯爵だ。『スネーク』の奴らの話によると、元々の依頼人カール・キューネルがホルスマン伯爵から暗殺計画のアドバイスを受けたと言っていたらしい」
「アドバイス……ですか」
「カール・キューネル本人はそう言っていたが、たぶんホルスマン伯爵が提案した計画をそのまま『スネーク』に持ち込んだのだろうと『スネーク』の奴らも言っていた」
そこまで聞いてリュカは嫌な予感が過り訊く。
「もしかしてその確認をするために、ホルスマン伯爵の元へも直接乗り込んだりしてませんよね?」
果たしてユーゴは、目を細め両端の口角を上げて「よく分かったね」と言った。
やはりと唖然としていると、
「周り口説く行くよりも単刀直入で聞いた方が良いと思ってね」
とユーゴは屈託のない笑顔で言葉を繋ぐ。
「返答は言わなくても分かっていると思うけど、ホルスマン伯爵は、聞かれたから自分ならこうするとだけ話しただけで実際にするとは思っていなかったと言われたよ」
リュカは予想通りのグレイの反応に目を眇める。
――そうだろうな。あえて共犯者になるやつなんていない。
「そしたらこの魔晶箱をもらったんだ」
「……」
ユーゴがこのように途中の説明をしない時は、ユーゴにとって都合が悪い時だ。これも前世での経験から分かっていることだ。だから前世の時と同じように突っ込む。
「あまりにも端折られて意味がわからないんですけど」
するとブレッドが苦笑しながら横から口を出す。
「だよね。リュカ君にはさっぱりだよね。僕が説明するよ」
ブレッドの説明では、最初はお互い様子を見ながら話をしていたらしい。だがそのうちにユーゴの尋問のような感じになっていったと苦笑しながら説明し始めた。
◇
「グリフィス魔術師団長は私がカール氏に暗殺計画を持ちかけ実行させたと言うのですか?」
ソファーで脚を組み、向いに座るユーゴの説明を黙って最後まで聞いたグレイが質問する。
「ええ。違うのですか?」
笑顔で応えたユーゴにグレイは嘆息し首を横に振る。
「違いますね」
「どう違うのですか?」
「私はカール氏から商品の注文を受けていたんですよ。そして商品をお渡しする時にカール氏から、もし陛下を殺害するとしたらどうするかと訊ねられたのです。私はそんなことを考えてはいけませんと注意しましたよ。ですが、何度もしつこく聞いてくるので、そこで私ならこうしますとお話しただけです」
「そうですか」
やはり認めないかとユーゴは目を眇め、質問を変える。
「そのカール氏は何を注文したのですか?」
「身を守るシールドが張れる魔術玉を20個ほどですよ。それがまさか本当に陛下と殿下の暗殺に使われるとは思いもよりませんでしたけどね」
さぞ悲しそうな顔をするグレイにユーゴは冷めた目つきで言う。
「では伯爵はまったく暗殺計画のことは知らなかったと?」
「ええ」
「それにしては、100周年の祝いの儀のパーティーの時は存在感をあえて消していたみたいですが?」
「まさか。何かの見間違いでしょう。私はただの成り上がりの商人ですよ。そのようなことが出来るわけありません」
まったく表情を変えず笑顔で言うグレイにユーゴは肩を窄める。
「そうですか。では確認をさせてもらってもよろしいですか?」
「? 確認ですか?」
「ええ」
刹那、ユーゴが無数の釘をグレイへ飛ばす。
「!」
驚いたのは、ユーゴの後ろで立っていたブレッドだ。
「団長⁉」
貴族に何をしてくれたんだと驚き叫びグレイを見れば、グレイは咄嗟に防御壁を目の前に展開していた。だが無数の針はその防御壁を貫通しグレイも貫通した。
「!」
そこですべてが幻想だったとグレイは気付く。そしてユーゴの思惑に気づきユーゴに一瞬敵意の目を向けた。それを見てユーゴは片方の口角を上げる。
「やはり伯爵、あなたは相当な魔術師だ」
「……」
「騙すようなことをしてすみません。こうしないと本性を見せてくれないと思いましてね」
そう言ってユーゴは立ち上がる。
「帰られるのですか?」
グレイが言うと、ユーゴは笑顔を見せて頷いた。
「ええ。確認は出来ました」
「そうですか。ではお土産をお渡しします」
グレイは部屋にいた部下に合図を送る。すると隣りの部屋から台車に乗った直径1メートルの正方形の箱――魔晶箱を持ってきた。
「餞別です。受け取ってください」
「これは?」
「見ての通り魔晶箱です。ある場所で拾ったんですが開けることが出来なくて困っていたんです」
「なぜ僕に?」
「たぶんあなたならこの箱を開けることは容易に出来るでしょうから」
「なるほど。でも遠慮しておきます」
「そう言うと思いました。でもこれを聞いたら、いらないと言えるでしょうか?」
「?」
ユーゴは目を眇める。
「これが四凶に関する箱だとしたら?」
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