82 ダンテの助言
「リュカ・ランガーです」
挨拶するリュカにアイラと違いダンテは開口一番、
「お主、時を戻したのう」
とはっきり言った。だがリュカは驚くことなく頷き返す。
「はい。その通りです」
「そしてわしは前世の君に何かをしたみたいだね」
「はい。前世であなたに魔力を制御する魔法をかけてもらいました」
そういうことかとダンテは合点がいった。
ダンテがリュカを最初見た時、二つの疑問を感じた。
一つは、自分の魔力の残滓がリュカの中にあったことだ。なぜ初めて会ったリュカから自分の魔力を感じるのかがどうしてもわからなかった。そしてもう一つの疑問、リュカの魂と魔力の質と体の3つのバランスが微妙にズレがあったことだ。
こちらの原因はすぐに分かった。時を戻した者がなる現象だからだ。
時を戻した者は魂と体のバランスがズレる者がいる。それは前世での経験を積んだ魂と今世でまだ経験していない体の差が大きい場合だ。
普通は自身の魔力が上がり新しい魔法が出来るようになるのと同時に魂も体もそれを記憶し、魔力や魔法に耐えれるようになる。だが時を戻した場合、魂は前世での魔力量と魔法を記憶しているが、今世の魔力量は魂が記憶した魔力量とは異なっており、体はまだ記憶をしていないためにバグが起こりズレが生じるのだ。
それがリュカだった。
ということは、一つ目の疑問は、前世でダンテがリュカに何か魔法をかけたのだろうと推測できた。だがリュカが魔力を隠しているため、何をしたかまでは分からなかったのだ。
そして今リュカから説明を受けて納得した。
「なるほどのう。だから今日初めて会ったはずの君から、わしの魔力を感じたのだな」
「はい」
前世でリュカは、王宮での最初の1年間密偵部隊で働き、その後魔術師団員として働くようになった20歳を迎えた頃から魔力が急激に上がり始めた。その影響から体と精神のバランスが崩れ、体が思うように動けなくなり魔力が暴走しそうになったのだ。その時ダンテに魔力を制御する魔法をかけてもらい、事無きを得たのだった。
「だがもう必要ないであろう?」
ダンテは右手の人差し指をリュカへと向けると、くいっと自分の方向へと向ける。すると何かが弾け飛んだ。リュカにかけていた魔力を解いたのだ。
それにはリュカは不安に思う。体が自分の魔力の強さに堪えられなかったから前世でダンテにかけてもらったのだ。今回もまだ自分の体は学生で未熟だ。なら魔力に体が追いつかないのではないのかと思ってしまう。
その不安に気付いたダンテが言う。
「心配せんでよい。もう君はその膨大な魔力を制御できておるであろう。現に魔力をここまで完璧に隠せておる」
「!」
「それにわしの制御の魔法が今後邪魔になるらしいから外せという国守玉の指示だったしのう」
「国守玉の?」
「うむ。けっこう口うるさいのじゃ」
ダンテは苦笑する。
「ダンテ様は国守玉の言葉が分かるのですか?」
「分かるようにしてくれたと言ったほうがいいかのう。そうしなければわしが動かなかったからだろうな」
そこでリュカは気付いた。
「100年に1度と言われた大災害の時、もしかして?」
「さすが頭の回転が速いのう。そうじゃ。国守玉からの指示と助言でわしは動いただけじゃ。だからわしの力だけでは無理だった。だからわし1人の力ではないのだよ」
謙虚にいうダンテにリュカは首を横に振る。
「それは違います。国守玉はただ指示を出すことしかできません。ダンテ様ほどの力があったからこそ、国守玉が力を貸して欲しいと願ったものです。だからダンテ様のお力で救われたのは確かです」
リュカは真剣に訴える。結局最後は人間がやらなくてはならないことをリュカは知っているからこその言葉だ。
「そう言ってもらえると、すこしは救われるのう」
これまでダンテは自分の力ではないと思っていたため、国中から褒め称えられたことが後ろめたさがあり、心から喜ぶことができなかった。だが今リュカに言われ、少し救われたように思えたのだ。
「君の言葉は重みがある」
「それは俺も国守玉に使われた駒だからかもしれません」
「なるほど。君もアイラさんと同じ道を歩んでいるということだな」
「!」
リュカは驚きダンテを見る。
――アイラの時が戻ったことを知っている?
「そう驚くことでもあるまい。わしは国守玉の声が聞こえる。まあ『国守玉の脚』の者と同じ存在じゃ。アイラさんのが気付かないわけはないであろう」
確かにそうだとリュカは微笑む。
「それを分かった上でのわしからのアドバイスだ」
そう言ってダンテは笑顔を消す。
「君は今世、他人のために時を戻したと思うが、そうじゃない」
「え?」
「君自身の間違った人生を変えるためでもあるのだよ」
「!」
「きちんと前世の自分に向き合い、今世に生かしなさい」
「――」
「これはわしが言わずとも頭のいい君なら分かっていたはずだ。だが君はきちんと向き合わなかった」
リュカはダンテから視線を外し下を向く。ダンテの言う通り分かっていたことだ。
前世では、学生の時は全員がライバルだったため友達などいなかった。魔術師団に入ってからはユーゴがいたが、亡くなり頼れる者がいなくなった。その後はがむしゃらに走った。ただ黙々と仕事をこなしていった。魔力も抑えることをしなくなった。そんな日々が過ぎ、いつの日か『冷徹な大魔術師』などと言われ恐れられるようになり、会う者すべてが自分を恐れた。だからマティス以外とは話す事を止め距離を取った。同時に迷惑をかける理由から父や兄とも連絡を取らなくなったのだ。
気付けば周りにはリュカが心を許せる者は1人もいなくなり、表情も乏しくなり、無表情が普通になっていた。
その時はそれが普通だったため何とも思わなかった。寂しいとも悲しいとも思わなかった。そのような感情はユーゴが死んでからは捨てたからなのだろう。
だが今世でアイラと仲良くなり、すべてを知ったジンと知り合い、ライアン、カミール、サラとも友達になって分かった。
前世の自分はとても暗い悲しい人生を歩んでいたのだと。
だがそのことに真剣に考えることはしなかった。いや考えたくなかったのだ。
虚しくなるから。
それをダンテに指摘された。リュカはフッと小さく笑う。
――情けないな……。
「そうです。俺は前世の自分が惨めで悲しい人間だと分かってしまったから考えるのが怖かったんです」
正直な気持ちを伝える。するとダンテが笑顔で言う。
「惨めに思う必要はない。その闇の人生があったからこそ光ある人生に気付いたのだ。孤独というものがどれほど悲しいことなのか、君は今世で気付いた。だから前世の経験も大事なことだったのだよ」
思いも寄らなかったことをダンテに言われ、リュカは顔を上げる。
「完璧な人間はおらぬ。何度も失敗をし成長していくのが人間じゃ。偉そうに言うわしもそうじゃ。この年になってもまだまだ未熟者よ。学ぶことは一生終わらぬのだろうよ」
「ダンテ様……」
「だから1度しっかり前世の自分と向き合いなさい。そうすれば自ずと道は開けるはずじゃ」
「……はい」
「そして何事も1人で解決しようと思わないことだ」
「!」
「頭でわかっておっても昔からの癖はなかなか直らないものだ。まあ君にはいい助言者がいるようだから心配はないようだがのう」
そこでジンとオーエンの顔が浮かぶ。
「はい。とても信頼している人達です」
リュカの笑顔を見てダンテはうんうんと頷く。
「そのようじゃ。ならば安心じゃ。これから大変だろうが頑張りたまえ」
「はい」
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