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80 朝食を一緒に



「もういい。わかったから」

「うん……」

「お前の気持ちは受け取ったから」

「うん……」

「あの時助けてやれなくてすまなかった……」

「ううん。リュカは悪くないわ。看取ってくれただけで嬉しかったんだから……」


 リュカはぐっと奥歯を食い縛り、アイラを抱きしめる腕に力を入れ、


「ごめんな……」


 と、何度も謝った。


「ああー、やっと言えた……。ずっと言いたかったんだー……ありがとね、リュカ」

「わかったから。もう寝ろ」


 リュカはアイラの額に人差し指と中指を立てる。するとガクッと意識を無くしたアイラはリュカへともたれるように倒れた。


「辛かったな……」


 リュカはアイラをベッドに寝かせると帰ろうと玄関へと向かう。だが心配だったため、少し様子を見て帰ろうとしたが、そのままその場で寝てしまった。



 そして次の朝、アイラはこの状況を見て固まった。


 ――これはどういう状況?


 なぜ床にリュカが寝ているのか? そっと寝返りをうちリュカに背を向け、きのうのことを考え、そして気付く。


 ――やばい。飴を舐めてからの記憶がまったくない。


 どうしようかともう一度寝返りをうちリュカを見たら、目があった。


「あっ!」

「おはよう」

「おはようリュカ、あのーこれは?」

「……きのうのことは?」


 リュカは眉根を寄せ探るようにアイラに訊ねる。真剣な顔をして聞くリュカに、何かやらかしたのだろうか不安になりながらアイラは、


「えっと、飴を舐めた後の記憶がなくて……」


 と応える。するとリュカは安堵のため息をついた。だがアイラは、リュカが呆れてため息をついたのだと勘違いをし、不安になり訊ねる。


「私、何かやらかした?」


 すると、リュカは少し考え、間を空けて応える。


「……いや、何も……」


 その間は何だとアイラは不安に思っていると、


「ただ俺の特訓の不満を言っていただけだ」


 とリュカは付け加えた。アイラは驚き顔の血の気がサーと引く。


 ――やってるじゃない。

 

「私、何を言ってたの?」

「え?」


 咄嗟に思いついたことを言ったため内容まで考えていなかったリュカは急いで理由を考え、呟くように応えた。


「特訓がきついぐらい……か」

「!」


 アイラはリュカから視線を外し項垂れる。それを見たリュカは、


 ――思っていたのか? 


 と、図星だったのかと驚く。

 魔術師団長の時は団員にもっときつい特訓をしていた。それが普通だったからだ。アイラにはけっこう譲歩して甘々の特訓をしているつもりだ。なのにこれでもきついのかと真剣に腕組みをして考える。お互い物思いにふけり沈黙の時間が流れた。そして先に沈黙をやぶったのはアイラはだった。


「そうだ、なんでリュカはここにいるの?」

「!」


 そこで今度はリュカが目を見開く。本当はアイラが気付く前に帰るつもりだったのだ。仕方なく、店でのことを簡潔に話し、家まで送ったが帰るなと強引に家の中に入れられたことを話した。話を聞いていたアイラは、


 ――何てことをしたのよ。私!


 と、だんだんと青ざめる。最後、


「悪い。疲れて寝てしまった……」


 と謝るリュカにアイラは首を横に振った。


「いや、そんなこと気にしないで。私が悪いんだから。ほんと、ごめんなさい」


 どうみても自分が悪いとアイラは反対に申し訳なかったとリュカに謝る。そんなアイラにリュカは、変に思われなくてよかったと安堵した。


「あ、今日休みだけど予定ある?」


 とアイラが聞いた。


「いや」

「じゃあ朝ご飯食べてって。用意するよ。迷惑かけたからそのお礼」


 アイラは立ち上がるとキッチンへと向かう。それにはリュカは目を瞬かせた。


「いつも自分で作っているのか?」


 まず貴族は自分では作らないのだ。


「そうよ。当たり前じゃない。あのね、一般市民はみんなそうよ。お手伝いなんていないんだから」

「そうか……」


 アイラは手早くパンを焼き、ベーコンを焼いていく。リュカはアイラの隣りに立つと興味津々にアイラの手元を覗き込んだ。料理をしているところを見たことがないため珍しかったためだ。だがアイラは落ち着かない。真横で覗いてくるため、リュカの顔が自分の顔の真横にあるのだ。変に意識してしまう。


 ――近いんだけど。なんか恋人同士みたいじゃない。


 恋人が出来たら憧れていたシチュエーションが今まさにこの状態だった。いつか恋人のために朝ご飯を作り一緒に食べるのが小さい頃の夢だった。だが前世ではそのような考えはすっかりなくなっていた。自分の置かれた過酷な環境も影響していたのだろう。そのような甘い夢は自分には無縁だと思っていたのだ。

 それが今世で恋人ではないがリュカとそれが叶ってしまった。嬉しい反面、恥ずかしい気分になり顔が赤くなってしまう。これ以上考えるのは危険だと普通を装い話を振った。


「リュカは料理を作るところを見るの初めて?」

「ああ」

「さすが貴族ね」


 だが変に意識してしまったからか、それ以上言葉が出てこない。そんなアイラの心境など気にすることもなく、リュカはアイラの手元に釘付けだった。

 そして卵でオムレツを作り始めると、


「うまいな」


 と感心する。子供のような意外な反応を見せるリュカにアイラはクスッと笑う。前世の冷徹な大魔術師と恐れられてた者だとは想像がつかない反応だ。照れていたことなどすっかり飛んでしまった。

 

「リュカもやってみる?」


 フライパンを渡すと、リュカは素直に受け取った。やってみたかったようだ。アイラは微笑み、そしてリュカに教える。


「思ったよりうまいじゃない」

「昔から器用だとは言われていた」


 そう言いながら一生懸命オムレツを作っているリュカを見てアイラは微笑む。


 ――大魔術師さまがオムレツ作ってるわ。


 これはレアだ。


「料理も楽しいでしょ?」

「そうだな。それに1つ作るのにこれほど時間がかかるもんなんだな。料理をする者達に感謝だな」

「そうよ。感謝してあげて」


 そしてテーブルにオムレツにベーコン、サラダ、パン、そしてハーブティーが並んだ。


「さあ食べましょ」


 2人で朝食を食べる。


「うまいな」

「自分で作ったから余計においしいでしょ」

「ああ」


 素直に頷くリュカが少し可愛く見える。初めて自分の料理を食べてもらって喜んでもらえるのはやはり嬉しいとアイラは自然と笑顔になった。


「庶民のご飯が食べたくなったらいつでも作ってあげるわ」


 そう言ってハッとする。


 ――私、何言ってるのよ。


 恋人でもないリュカに言うのは変な意味で取るんじゃないかと思えば、


「ああ。そうさせてもらう」


 とリュカは普通に返事をした。それを見たアイラは、


 ――そうだった。この人こういうことに関しては疎かったわ。


 と苦笑するのだった。




 その後、ライアン達にアイラが言った1度死んだとはどういうことだと詰め寄られたが、


「あ、小さい頃川に落ちて1度息が止まったことがあったの。それで言ったんだと思う」


 と誤魔化した。そして言いたいことは、水が嫌いなのだということを話し、リュカの特訓がきついとリュカに話していたことを説明した。皆疑うこともなく信じたようだ。


 ライアンも結局カミールに朝までグダグダ言っていたらしく、


「もう2度とあの飴は使わねえ」


 と瓶ごと捨てたのだった。






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