78 ロシアンルーレット飴
朝起きてアイラは目を瞠る。
――これはどういう状況?
アイラの家のそれもベッドの横の床にリュカが寝ていたのだ。服はきのうのままだということはそのまま帰ってきて寝てしまったということだろうが、きのうのことを途中からまったく覚えがない。
そっと寝返りを打ち、リュカに背を向ける形で横を向き、きのうのことを思い出す。
きのう冬休みに入る前に、リュカとサラ、ライアンとカミールでご飯を食べに行ったのだ。そして終盤になった頃、ライアンが持ってきた不思議な飴を机に出したのが始まりだった。
「これは最近発売されたロシアンルーレット飴だ」
そう言ってライアンは机の上に瓶を置く。その中には色々な色の飴が入っていた。
「ロシアンルーレット飴?」
アイラ達はその瓶を覗き込む。
「そう。知らねえか? 今ちまたじゃけっこう流行ってるぜ」
するとカミールが言う。
「それって飴に魔法が練り込まれているんだろ?」
「そうそう」
ライアンは説明書を見ながら言う。
「この飴の中にはただの飴と今一番思っていることを自白する飴の二種類がある。その効力も大小さまざまで、効力の時間もその者によって違うっつうやつだ」
「おもしろそうだね」
カミールが嬉しそうに言う。
「だろ? 今からやらねえか?」
そしてゲームが始まった。
「まず順番をじゃんけんで決めようぜ」
そしてじゃんけんをして決まった順番が、サラ、カミール、リュカ、ライアン、アイラだった。
「じゃあ私からね。これって色は関係ないんだよね?」
「ああ」
サラは慎重に選ぶ。
「じゃあこの赤色の飴」
選んだ飴を取ると口に放り込んだ。そして舐めながら言う。
「別に普通の飴ね」
「まあ最初はそうだな。そのうちに柔らくなって中身が出る。そこで分かるはずだ」
飴で魔法をコーティングしているみたいだ。少し舐め進めると中が割れた。
「何か出てきた」
すると口の中で何かが弾けた。するとサラの目がピンクに光る。それを見たライアンは、
「お! 当たりだな」
と笑顔を見せた。今一番思っていることを自白する飴だと瞳がピンクに光るのだとライアンは説明する。
「ちょうどいいわ。私、言いたいことがあるの! カミールあなたに!」
サラはカミールを指を指す。指されたカミールは驚くことなく余裕な顔で頬杖を突きながら笑顔で応える。
「なんだい? 僕に言いたいことって」
こういうところはカミールは動じない。ある意味すごいとアイラは思う。普通なら何を言われるのだろうかと動揺してしまうものだ。
「あなたの偉大な賢者のお爺さまに1度会わせて!」
「え?」
「私、大賢者様のファンなのよ!」
皆初耳だと目を丸くする。
「お願い! 今度会わせて!」
カミールの両手を取り切実に言うサラに、カミールは仰け反りながら、
「じゃあ、今度ね」
と半笑いをしながら応えた。
「ありがと。絶対ね! 絶対だからね! 覚えてるから!」
するとすうっとピンク色の瞳は普通に戻った。その瞬間、サラはハッとする。
「今私、何を言った?」
「覚えてないの?」
「なんとなくは覚えているんだけど……」
するとカミールが言う。
「お爺さまのファンだからお爺さまに会いたいから会わせろって言ってたよ」
その瞬間サラの顔が真っ赤になる。
「わー! 誰にも言ってなかったのにー! 恥ずかしい!」
顔を両手で覆い隠すサラに、
「別に恥ずかしいことじゃないじゃない。私も大賢者様に会ってみたし」
アイラが言うとライアンとリュカも頷く。
「確かに会ってみたいな」
「ああ、伝説の大賢者様だからな」
するとカミールが微笑み言う。
「みんなにそこまで言われたらお爺さまに会わせてあげたくなるじゃないか。いいよ、今度会わせてあげるよ」
すると顔を隠していたサラがバッと顔を上げる。
「ほんと?」
「ああ、いいよ」
「やったー! 言ってみるものね」
「じゃあ次はカミールな」
そしてカミールは水色の飴を口に運ぶ。すると何も変わらなかった。
「何だ、普通の飴かよ。つまんねえなー」
「ほんとにー」
ライアンとアイラが口を尖らせて言う。
「じゃあ次リュカな」
「ああ」
ライアンに言われリュカは黄色の飴を1つ取ると口に入れる。そこで魔法が含まれていることに気付く。
――当たりか。
中が割れ魔法が出るが、それを自信の魔力で無力化する。自白魔法で前世のことを言ったら時を戻したことがライアン達にばれてしまうし、ましてやアイラにも時を戻したことがばれてしまう。今はまだそれは避けたい。やはり飴の中に入れられる魔法はそれほど強くないため、簡単に無力化出来た。だがそれに気付かないライアン、サラ、アイラは、
「え? リュカ、お前も普通の飴かよ」
「つまらないわね」
「ほんと、リュカの本音が少し聞けると思ったのに残念ね」
と残念がった。
「残念だったな」
リュカはフッと笑う。残念がる3人とは違い、カミールは何も言わず微笑んでいるだけだ。やはりカミールには魔力を使ったことがばれているようだと気付く。
「仕方ねえ。これもロシアンルーレットの醍醐味だ。よし、次は俺だ。俺は紫の飴だ」
ライアンがバッと口に入れると舐めることなくガリガリ噛む。するとライアンの瞳がピンク色になった。
「ライアン当たりだね」
アイラとサラは目をキラキラさせ、何を言うのかと期待する。
するとライアンがバッと立ち上がった。
「俺も言うぜ! 俺はなー学校に文句があるんだよ!」
「え?」
それにはアイラ達みな、目が点になる。
「学校?」
「そうだ! 親父の経営には納得いかねえんだよ!」
それから20分以上ずっとライアンは学校の文句と親の文句を言い続けた。
「ねえ、まだライアンの効果消えないの?」
サラが横のカミールに聞く。カミールが説明書を見ると、一番強い飴の効力は1時間と書いてあった。
「1時間は消えないみたいだね。まだ当分続くんじゃないのかなー」
「えー」
アイラもうんざりしてきていた。
「じゃあアイラ、ライアンは放っておいて、食べなよ。そろそろ帰らないといけない時間だからさ」
「だね。そうしたほうがいい」
サラとカミールに言われ時計を見れば、9時を過ぎていた。
「わかった。じゃあ私はこのピンク色の飴にする」
そして口に含みライアンと同じ、がりっと中を奥歯で割る。すると中から液体が出てきた。同時、アイラの瞳もピンクに変わる。
「私も今日は言うぞー!」
いきなり立ち上がり右手を上げ宣言するように言った。
「実は私! 1度死んでます!」
「!」
さすがにそれにはリュカはギョッとしてアイラを見た。
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