77 今世の気づき
建国100周年の祝いの儀から1週間後、カール・キューネルが水死体で見つかった。だが腐敗が激しく水死で自殺と処理された。そして国王暗殺未遂事件の首謀者死亡のため事件は幕を閉じたのだった。
「まあこうなるよなー」
ソファーに座り、暗殺事件の内容の新聞を読みながらオーエンは呟くと、机を挟んで前に座っていたエタンが言う。
「予想通りでしたけどね」
するとドアがバッと開いた。するとエタンの双子の子供アレンとエミリーが走って部屋へ入ってきてオーエンの所へやって来た。
「じいさま!」
「じいちゃま!」
「おう、アレン、エミリー」
するとエタンが双子を叱る。
「アレン、エミリー、部屋に入る時はノックをしなさいといつも言っているだろ?」
「あ、ごめんなさい」
「あ、ごめんなさい」
2人は素直に頭を下げてエタンに謝る。その姿を見てオーエンは、
「そう怒ってやるな」
と2人を庇う。
「父上、こういうことは今からちゃんと教えておかないといけないのです」
「だがなー。まだ3歳だぞ」
「3歳だから大事なのです」
「わかった。わかった。今日だけは許してやってくれないか」
そう言われてしまえばエタンは何も言えない。今日は特別な日なのだ。
「わかりました」
オーエンは笑顔で返し、双子へと視線をむける。
「アラン、エミリー、外は寒かっただろう?」
「ううん。寒くなかったよ」
「ぜんぜん寒くなかった!」
顔を真っ赤にして言う孫にオーエンは2人の頭を撫でながら「そうか、そうか」と祖父の顔になっていた。するとそこへエタンの妻のフィオナがやってきた。
「アレン、エミリー、おじいさまにご迷惑かけちゃいけませんよ」
「フィオナさん、よいよい。子供は元気が一番だからな」
すると執事が来て報告する。
「リュカ坊ちゃまがご到着です」
その後リュカがやってきた。すると今までオーエンにべったりだったアレンとエミリーがリュカへと走って行き飛び着く。
「リュカお兄ちゃん!」
「リュカお兄ちゃんー!」
リュカは2人を抱き上げると、
「また少し見ないうちに大きくなったな」
と笑顔を見せる。それを見たオーエンは、
「はあ、リュカには勝てんなー」
とシュンとする。そんなオーエンにエタンは苦笑する。
「仕方ないですよ。あの2人にとってリュカはよく遊んでくれるお兄ちゃんなんですから。たまにしか帰ってこないおじいさまよりはいいに決まってます」
リュカが双子を抱きながらやってきた。
「すみません、遅くなりました」
リュカは頭を下げる。
「別に遅くないぞ。では行くか」
今日はリュカとエタンの母親の命日だ。この日だけはオーエンは海から帰って来て家族で墓参りに行くのが毎年恒例行事だ。
母親の墓は共同墓地の敷地の一角にあった。用意した花束を備え全員で手を合わせる。
「もうこれで何回目だろうな……」
オーエンば静かに呟く。リュカが小さい時に亡くなったため母親の記憶はほとんどない。あるといえばベッドで寝ている母親の姿しか覚えてない。今では顔や声もほとんど記憶から無くなっていた。だがオーエンとエタンは違う。記憶が鮮明にある分だけ墓参りの思いも違うのだろう。だからいつも2人は手を合わせている時間が長い。そんな2人をいつも羨ましく思っていた。
――そう言えば墓参りに来たのはいつぶりだ?
前世で学校を卒業してからは1度も行けなかったことを思い出す。本当に忙しかったのもあったが、忙しかったのを理由に来なかったのが本音だ。
――俺も若かったんだろうな。まあ今も若いが。
あの頃は身近の大事な人の死というものがあまりわかっていなかった。だからかオーエンとエタンの気持ちが分からなかった。
だが前世で国王や仲間を亡くし、そしてアイラとマティスの最期を目にし、今ならオーエンとエタンの気持ちが分かる。
――父上は母に後悔と謝罪、兄上は心配させないように誓いを立てているのだろう。
もし今前世のマティスの墓の前にいたとしたら、自分も父と同じで、助けることが出来なかったことへの後悔と謝罪、そして今世のマティスとアイラを死なせないと誓うだろう。
リュカは母の墓前で前世では来れなかったことを謝罪し見守ってほしいと祈った。
「リュカ」
オーエンが帰り道に声をかけた。
「学生が終ったらお前も新人の社会人だ。だから無理して同じ日にミリアの墓参りに来なくて良いぞ。自分の行ける日に行ってやってくれればいいからな」
「いいえ。社会人になっても一緒に来ますよ。そうしないと父上に会えませんから」
本当のことだ。前世では墓参りに参加しなくなったことでオーエンと会う機会がほとんどなくなった。魔術師団長になってからは1度も会っていないのだ。
「そうか。それは経験からか?」
「ええ。残念ながら1度もしてこなかったので」
それは前世では墓参りには行かなかったこと言っていた。オーエンは少し驚いたがすぐに笑顔を見せて言った。
「そうか。何かに気付いたのであれば、それはよかった」
リュカはその夜、ジンの屋敷に寄った。
「今日じゃなくてよかったのに」
「呼んだのは先生でしょ」
「だからと言って母親の命日に来いなんて言ってねえぞ」
「俺の実家から先生の家に寄った方が近いからですよ」
「そうか」
「建国100周年の祝いの儀の事件のことですか?」
ジンが家に呼び出す時は聞かれてはまずい時だ。今回はこの前の国王暗殺事件のことだろう。果たしてジンは、
「まあそうだな……」
となぜか歯切れの悪い。
「それにしても大変だったなー」
ジンは建国100周年の祝いの儀には出席をしていない。事件の後リュカから聞いたのだ。
「父がいなければ大変なことになっていました」
「だな。さすがケイラー伯爵だな」
「はい」
「ケイラー伯爵から聞いていると思うが、犯人はカール・キューネルだと表向きは処理されたが、本命は違う」
「グレイ・ホルスマン伯爵ですね」
「ああ。だがまだ確証はない。ユーゴ先輩が調べているところだ」
それはオーエンからリュカも聞いていたことだ。それを言うためにジンは呼び出したのかと思っていると、
「きのう、ケイラー伯爵に王宮であった」
「え?」
「そこで笑顔で言われたよ。息子に何かあったら許さないからねってな」
所謂、牽制と脅迫だ。
「お前の父親、こえーな……」
確かに怒ったら一番怖いだろうとリュカも思う。そこで呼び出した理由はオーエンのことだったのかと気付いた。
「だが最後にはよろしく頼みますって頭下げられた。お前、愛されてるな」
今なら分かる。
「ええ。最近気付きました」
その言葉の意味を理解しジンは笑顔で言う。
「今世で気付けてよかったな」と。
それを聞いたリュカは、
――なるほど。これを先生は言いたかったのか。相変わらずお節介だ。
と笑った。
そしてちょっとした事件が起きた。
朝起きてアイラは目を瞠る。
――これはどういう状況?
アイラの家のそれもベッドの横の床にリュカが寝ていたのだ。




