75 兄の熱い思い
エタンが王宮に戻ると、宰相室にユーゴが来ていた。
「グリフィス魔術師団長」
「おー、エタン君久しぶりだね」
ユーゴは笑顔で応える。
「建国100周年の祝いの儀の時にお顔は拝見したのですが、声をかけることができませんでした。すみません」
「気にしないで。お互い忙しかったからね、仕方ないよ。そうだ、弟君は元気かい?」
「リュカですか?」
なぜリュカの名前がとエタンは眉を潜め警戒する。
「この前は君の父のオーエン先輩とリュカ君のおかげで国王とマティス殿下の命が救われたからね」
そういうことかとエタン警戒を解くと、
「父親に強制的に手伝わされたものですので。リュカは意味が分からずやっていたと思います」
「暗殺者に立ち向かわせるだけの実力があるからオーエン先輩はリュカ君を同伴させたんだろ? それだけリュカ君が強いということだ」
そこでエタンは目をすうと細める。
「グリフィス魔術師団長、リュカを勧誘したり変なことを吹き込まないでください」
「え?」
急に機嫌が悪くなったエタンにユーゴは目を瞬かせる。
「エタン君?」
「もしリュカが嫌がることをしたら俺はグリフィス魔術師団長でも許しませんから」
すると横で聞いていた宰相のアルノー・バルベが笑う。
「あははは。ユーゴ団長、エタンの地雷を踏んだね」
「え?」
「エタンは弟君が大好きなんだよ。親以上にね。だから弟君のことになると目の色変えて凄いんだから」
「アルノー様!」
エタンが声を上げる。
「本当のことだろ。いつも子供とリュカ君の話ばかりじゃないか」
その通りなのでエタンは何も言えずに黙る。
「だからユーゴ団長、弟君の勧誘は諦めたほうがいい」
「あはは、そういうことですか。これは思ったより周りの防壁が厚そうだ」
「?」
「では宰相、僕はこれで」
ユーゴはエタンにも笑顔を見せ部屋を出て行った。
「グリフィス魔術師団長は何しに?」
エタンはアルノーに訊ねる。
「ああ、グレイ・ホルスマン卿に関する知っていることを教えてくれと」
「え?」
「なんか気になるみたいだよ」
エタンは踵を返すと部屋を出てユーゴを追いかける。
「グリフィス魔術師団長!」
「エタン君? どうしたんだい?」
ユーゴは驚き見る。
「あの、アルノー様にホルスマン卿のことをお聞きに見えたと聞いたのですが?」
「ああ、君も気付いたのかな?」
「いえ、私ではなく父親が……」
「そうか。オーエン先輩はなんて?」
「犯人だとは断定出来ないが、注視したほうがいいと」
「そうか」
「団長はホルスマン卿が犯人だとお思いですか?」
「君のお父さんと一緒だよ。怪しいってやつだね。あと、犯人はホルスマン卿じゃない。犯人はカール・キューネル氏で間違いないだろう。ただ助言した者がホルスマン卿ではないかということだね」
オーエンと同じ考えだとエタンは思い、疑問に思っていたことを述べる。
「だとしたらなぜホルスマン卿は、父親を気にしながらあの場所にいたのでしょうか。助言したことがばれないように犯人達に記憶を消す魔法までかけて用意周到にしているわりに、その辺がおろそかです」
エタンの言葉にユーゴは目を見開き感心する。
「へえ。あのホルスマン卿は、君のお父さんを気にしてたんだ。そんなことがあったなんて知らなかったよ」
「父がそう言ってました」
「そうか。さすが先輩だね」
そこでエタンは疑問が沸く。オーエンのように見られていて気付いたのではないのなら、ユーゴがどうやってグレイに辿り付いたのか?
「グリフィス魔術師団長は、なぜホルスマン卿を怪しいと思ったのですか?」
「ん? 僕かい? あの日いつものように怪しい者がいないか魔法で探っていたんだよ。その時あのホルスマン卿だけが反応しなかったんだ」
よく魔術師団は怪しい者がいないか、魔力が強い者を感知する魔法や、剣術に優れている者をあぶり出す魔法など、いろいろな魔法で探索する。それをしていただけだと言う。
「反応しないのならいいのでは?」
「そうなんだけどね。僕は色々な条件での探索魔法を試したんだ。そうなると必ず1つは大小はあるけど何かしら感知するものなんだよ。だがホルスマン卿だけがすべて感知しなかった。怪しいだろ?」
確かに怪しいとエタンも頷く。
「たぶんあらゆる探索魔法に感知しない魔法でもかけてたんだろうね。でもそれが仇になった形かな。まあ僕を騙そうとしても無理だけどね。さあどうしようかなー。ふふふふ」
そう言って含み笑いをするユーゴにエタンは背筋が凍る思いになる。
――この人、怖い。
なぜ父親がユーゴが苦手なのか分かった気がした。
――リュカにユーゴ団長には気をつけろと言わなくては!
その頃、リュカはジンの家で建国100周年の祝いの儀の時の暗殺未遂の件を話していた。だが途中で話を止めブルッと体を震わせる。
「どうした?」
「ちょっと悪寒が……」
「風邪か?」
「いえ、この感じ、兄上かも……」
「え? お前の兄?」
リュカは何かしただろうかと本気で悩むのだった。
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