73 ダークの方
「失敗したんですか」
国王とマティス殺害計画失敗の報告を聞きレイは言う。
「お前んところの計画が駄目だったんだろう!」
依頼人の男カール・キューネルが怒りを露わにし叫ぶ。
今回国王とマティスの殺害をグレイに依頼したのが元伯爵のカールだった。カールは元官僚だったが、横領、強姦などが発覚し、爵位を剥奪されていた。その腹いせに国王とマティスの命を亡き者にしようと計画をし、グレイに依頼してきたのだ。
グレイの表の顔は商社の社長だが、裏の顔は、暗殺の計画、実行の手助けをする暗殺組織の代表だ。だが依頼は紹介制のみ。理由は、紹介者も元依頼者の成功者のため、外に漏れることがないからだ。
そして少しでもリスクがあると判断すれば、実行はせず計画をしアドバイスをする形を取っていた。今回の国王、マティスの暗殺に関してもリスクが高いと判断し、手を下さず、アドバイス的な助言に留めていたのだった。
「こっちはお前達が言った通りに人材を用意し実行したのだ! 責任はそっちにあるだろう!」
「おかしいですね。本当にこちらの指定した優秀な人材を用意されたのですか?」
レイはわざとらしく首を傾げてみせる。その姿にカールは顔を真っ赤にし言い返す。
「わ、私はちゃんとしたぞ! 計画通りだった!」
「じゃあなぜ失敗したのでしょう?」
首を傾げて言うレイにカールは舌打する。
「お前じゃ話にならん! グレイはどこだ! グレイを出せ!」
「マスターは今、手が離せない仕事がありましてね。今出かけております」
「ならすぐ戻るように伝えろ! 言うことを聞かないとお前達のこともばらすからな!」
カールは怒鳴り付ける。
「それは契約違反ですよね?」
「そんなもの知るか! 成功すると最初に言ったのはお前達だろ! 契約違反はそっちが先だろ!」
「何を言ってるんですか。最後にお伝えしましたよね? この計画は絶対ではないと。イレギュラーなことがあれば成功しないですが、それでもよろしいですかと聞いたはずです。それでもいいとキューネル様はご了承の上でうちと契約を交わしたのではありませんか? 書面にもきちんと記載されてます」
「ぐっ!」
「それを私達のせいにしてもらっては困りますね」
「きさまー!」
カールは事実だと分かっていても怒りが収まらない。失敗した時点でもう後がない。契約であっても自分だけが捕まるのはどうしても腑に落ちない。
「お話は以上です。失敗したのはお気の毒様でした。ですがご安心ください。あなたが犯人だということをこちら側から話すことはございません。ではお帰りください」
レイは立ち上がると出入り口を手を差し出し言う。
「覚えておけ。ただですむと思うな」
その言葉でレイの目が据わる。
「それはどういう意味でしょうか?」
「お前達も道連れだということだ」
そう言った瞬間、カールの首が飛び、肢体はその場に崩れ落ちた。
「おっと言い忘れておりました。契約違反をされた場合、そのお命をいただくということを」
そして部屋を出ると、廊下にいた者に一言、「処理しておいて」だけ伝え、廊下の奥へと歩みを進めた。そして一番奥の部屋のドアをノックをし中へ入り一礼する。
「終りました。マスター」
「ご苦労だった」
そう答えたのはマスターことグレイだ。
「何があったんだい?」
グレイの机の上には監視部屋の映像を映し出す魔術玉が映像を映していた。部屋の様子を見られていたのだと気づきレイは説明する。
「ああー、契約違反がありましたので処理しました」
「そうか。だがあの場所でするのはよしてくれ。またすべての絨毯と家具を変えなくてはならないからね」
「気をつけます。それにしてもまさか失敗するとは思いませんでしたね。どんな感じだったんですか?」
きのう行われた建国100周年の祝いの儀にグレイも出席していた。
「途中までは完璧だった。だが1つこちらの想定外があった」
「想定外ですか?」
レイは首を傾げる。
「ああ。オーエン・ケイラーが出席していたことだ」
「ケイラーといえば、『罪人の墓場』であったあの青年と同じ名前ですね」
「その父親のケイラー伯爵だ。今宰相の補佐でもあるエタン・ケイラーの父親でもあり、元魔術師団副団長で今は船乗りの船長だ」
「船乗りですか? また異様な経歴ですね」
「元々海が好きだったようだ。妻が亡くなったのを境に魔術師団を辞め船乗りになった異例の経歴の伯爵だ。だが魔力量が多く強い。そして船乗りだからか感も鋭い。今回そのオーエン・ケイラーにやられた感じだね」
グレイが人々に紛れて気付かれないように見ていると、オーエンがリュカに何やら耳打ちしているのに気付いた。よくよく見ていると、カールが用意した剣士達に目線がいっていたことに気づく。
――まさか気付いたのか?
ダミーで用意した剣士は気配や殺気などを消すことが出来るレベルの強者ばかりだ。潜入する時も気付かれることもなかった。だからオーエン以外の者は誰1人と疑う者はいなかった。あのユーゴ魔術師団長さえも。だが気付かれたことに驚きはしたが、見つかるのも計画のうちだったため、あまり気にもしていなかった。
第2段階目に進み、爆発を起こさせ、国王と皇太子を奥の部屋へと移動させるのも計画通りに進んだ。そして避難したところを狙い強靱なシールド結界を張り国王と皇太子を孤立させ、そこを本当の暗殺者4人を魔術玉で転移移動させ、暗殺が成功するはずだった。
完璧だったのだ。
だがそこにオーエンと息子がいきなり転移魔法でやって来て阻止され、そしてまさかの全員があっけなく倒されたのだ。
「まさかあの結界の中に入られるとはな」
あの結界は強靭で縦に張られ強い。転移魔法も通さないものだった。だが縦線からの転移は可能だ。それを知ってかオーエンは結界が張られる前にその下の階に転移した。そして張られたのを確認し、そのまま上に転移移動したのだ。
「オーエン・ケイラー、相当強いね。それにあの息子も学生なのに父親と同等の手練れだ」
グレイは気付かれないように生きた虫に小さな魔術玉を仕込ませ監視していたが、リュカと目が合った瞬間、魔力で狙い撃たれたのだ。ほとんど感知が出来ないほどの魔力だったのに気付かれた。
――密偵部隊ならともかく学生で気付いたとはな。
ただ感心し笑顔になる。
「マスター? 何笑ってるんですか?」
「いや、優れた者がいて嬉しくてな」
「敵ですよね?」
首を捻りながら言うレイにグレイは微笑む。
「さあどうだろうね」
意味深げに笑うグレイの考えは分からない。だからそれ以上は聞かない。
「そんな凄い2人がいたなら、僕も出席したかったですねー」
嬉しそうに言うレイにグレイは言う。
「お前が来たら、すぐばれるだろう。それにあの場所にお前がいたら、全員殺し兼ねない」
「その方が一掃していいのでは?」
全員気に入らないのだ。殺してもいいのではないかと言うレイにグレイは嘆息する。
「はあ。お前は極端過ぎる。気に入らないからと言ってすべて殺していては、そのうちボロが出る。気をつけるように」
「1つ聞いていいですか? マスターはこの国の王になるつもりですか?」
「それもいいだろうが、私はこの国と王にはまったく興味がない」
「じゃあ何故国王暗殺に手を貸したのです?」
今回の件も国王一族を廃除することが出来るので有ればと国王に逆恨みしていたカールに知恵を貸したのだ。するとグレイが思いにふけるように窓の外を見て言う。
「私の願望には国王の命はまったく関係ないが、私の願望を叶えるための過程には必要だったということだよ」
それはあの騒動の最中にしたことを言っているのだとレイは気付く。
グレイは机の上に置いてある試作品の監視虫と名付けた監視をする魔道具を手に取る。
「今回は良い勉強になった。監視虫は改良が必要だな」
リュカに気付かれ壊されたのだ。もっと気付かれない物を作らなければと思考を魔術玉の改良へと移す。そんなグレイを見てレイは口角を上げる。
「マスターは世界一の優秀な技術士のようですね」
魔術玉など魔道具を使うのは魔術師だが作るのは技術士だ。グレイは自ら魔道具を作り使っている。
「ただ自分が欲しい魔道具が既製品にはないだけだよ。無いなら作った方が早いから作っているだけだ」
「そのおかげで商品はバカ売れですけどね」
グレイの趣味で出来た殺人魔道具は、闇市場やその筋の職業の者達には好評で高く売れ、グレイ達の資金源になっていた。
「それはよかった。色々と資金は必要だからね」
「そういえば、捕まった奴らはどうするんですか?」
「大丈夫だ。そこは抜かりないよ」
グレイは含み笑いをした。
レイは部屋を出ると、
「今日のマスターは珍しくダークか」
と呟き歩き出した。
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