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70 父 オーエン




「こんなことだろうと思った。ほらリュカ、俺の読みは正しかっただろ?」


 自身の右手に握られている剣で1人目の覆面の男の剣を頭上で受け止め、左手に持った剣の鞘でもう2人目の覆面の男の剣を受けながらオーエンが言う。リュカは右手で3人目の覆面の男の剣を自身の剣で防御し、もう4人目の覆面の男は魔法の鎖で縛り上げ、そして国王とマティスへ結界をかけながら応える。


「いや、半分ぐらい間違ってましたよ。それにこれはユーゴ団長に絶対に怒られる事案です」


 不満げに応えるリュカにオーエンは苦渋の表情を浮かべ弁解する。


「犯人を全員捕まえるにはこれしか方法がなかったんだからしょうがないだろう。許してくれるさ」

「それはどうでしょう。ユーゴ団長は隠し事は一番嫌いです」

「俺は隠し事は大好きだ」


 するとオーエンの魔力がぶわっと一気に膨張したと同時、剣と鞘が一瞬にしてスライム状に変形する。


「!」


 驚き見るオーエンの前にいる覆面2人をスライム状の物体は口を開けるように大きく広がり一気に飲み込んだ。覆面の男達はどうにかして脱出しようと抗うが、スライム状の物体相手に為す術もなく、徐々に全身を締め付けられていく。そしてだんだんと苦痛の表情になり、最後には2人とも失神した。

 それを見届け、オーエンはリュカに襲いかかっていた2人の覆面の男にも同じくスライム状の魔法で締め付け、失神させたところで魔法を解除する。


「ほんと中途半端な強さの魔術師や剣士は自身を過大評価し過ぎだ。ちょっと違う戦い方をするとこれだ」


 まさしくオーエンの戦い方は海の上での戦い方だ。海の中の海洋生物には火の属性の魔法はあまり効果がない。水の属性のスライム状の魔法が有効だ。そして形を成さず自由自在に形を変えられるため、海の中から攻撃する巨大な海洋生物などにはこの縛り上げと窒息させる魔法が敏速かつ正確に仕留めるのに力を発揮していた。


 これは人間にも同じことだ。剣士が使う剣は、魔術師が繰り出す魔法を弾くか無効にする効果があるものがほとんどだ。そしてそれは魔法が当たって初めて効果を発揮する。オーエンが繰り出すスライム状の魔法は、水の粒子ほどの魔法の粒が重なりあって出来ているため、剣が当たったとしても当たった場所のみが無効になるか弾かれるだけで剣が当たっていない場所は関係なく締め上げることは容易なのだ。


 この魔法はオーエンが生み出したものだ。だが誰でも出来るものではない。相当な技術と魔力がいるのはもちろん、経験と鍛錬、センスなど、有りと有らゆるものが合わせ合って出来る高度な魔法だ。

 そんな高度な魔法を繰り出すことができるオーエンは、やはり魔力量が膨大で、並外れた技術の持ち主だということが裏付けられたことになる。


 ――やはり父上は俺より魔力も技術も先を行っている。そして何より戦い慣れている。


 大広間での敵の見分け方、そしてここまでの考察と戦略など、何をとっても抜かりない。

 海の上は常に敵と向かい合わせだと聞く。10年以上海にいるオーエンは、数え切れないほどの死と隣り合わせの経験を積んで来たからの強さなのだろう。


 だから勝てるわけがない。


 初めて目の当たりにした規格外の戦い方をするオーエンに、リュカは改めて父親の凄さを実感するのだった。

 そんなことを息子に思われているとはつゆ知らず、オーエンは乱れた上着を直しながら首を少し傾け顎を出し、


「俺を欺こうなんぞ100年早いんだよ」


 とあざ笑った。リュカもその通りだと心底思うのだった。



 すべて終わり危険がないか確認すると、オーエンとリュカは国王達に張った結界を解除し跪きこうべを垂れる。すると国王が笑顔で労いの言葉を一言発した。


「ご苦労だった」


 もう一度深々と頭を下げてから今度はオーエンが国王とマティスへと訊ねる。


「陛下、殿下、お怪我は?」

「うむ。大丈夫だ」

「僕も大丈夫だよ。ありがとう」

「いえ。危険な目に遭わせてしまい申し訳ございません」


 オーエンとリュカは幾度と頭を下げる。


 すると4人を囲っていた強靱なシールドが消え去った。それを見たオーエンが笑顔を見せる。


「下も終ったみたいです」


 その言葉でユーゴがすべてのシールドを解除したのだろうとリュカは理解した。


「陛下!」


 シールドが消えたと同時にブレット達が国王とマティスの前にやって来て土下座し謝罪した。


「申し訳ございませんでした!」


 リュカ達がいなければ2人の命が無くなっていたのは明白だ。守り切れなかったことにブレット達はリュカとオーエンにも謝罪し頭を下げる。


「ケイラー伯爵、リュカ君、ありがとうございました。なんとお礼を言えばよいか」


 そんなブレット達にオーエンは気まずそうな表情を浮かべて言う。


「ブレット副団長、そんなに気を落とさなくていい。これは計画されたものだからな」

「え?」


 すると後ろから声がした。


「やはりそうでしたか。僕はまったくオーエン先輩から聞いてませんが?」


 不満顔全開のユーゴがそこにいた。









いつも読んでくださりありがとうございます。

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