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69 建国100周年の祝いの儀③



 ――あれは!


 ユーゴは目を見開き叫ぶ。


「あの者達を阻止しろ!」


 だがその時には遅かった。一瞬にして覆面男達を境に透明なシールドが天井へと張り巡らされた。それはユーゴ達魔術師団と国王とマティスがいる奥の場所を遮断する結界だった。

 そこで気付く。結界が張られた国王達がいる奥の場所には何人かの魔術師団達の姿が見えるのだ。それを意味することは――。


 ――狙いは僕を陛下と殿下から離すためか。


 ユーゴは魔力量と技術もさておきながら、ある能力を持ち合わせている。

 その能力とは、あらゆる魔法の分析に長け、結界などの複雑な構造の魔法も瞬時に解読し解除できるというものだ。

 この世界には、稀に特殊能力を持って生まれてくる者が少人数いる。これは持って生まれた先天的なもので後天的に出ることはない。どれだけ取得しようとしても出来ない能力だ。ユーゴが持っている能力がそれにあたる。


 「ユーゴは一度知った魔力は忘れない」と言われるのは、頭が勝手に相手の魔力を分析し蓄積しているからだ。そのためどんな魔法を繰り出しても大概阻止することも出来る。ユーゴを敵に回すなと言われる所以だ。


 ユーゴはすぐに目の前のシールドを見ると、脳が勝手に分析を始める。無意識にしているということは、目にも何か特殊能力があるのかもしれない。だが本人は産まれた時からのため、それが普通だと思っているのだが。


 分析から、やはり特殊なシールドのようだ。


 ――なるほど。複雑だな。時間稼ぎか。僕対策をしてきているってわけね。


 するとマシューの代わりに新しく副団長に任命されたデリックが走って来た。


「団長!」

「覆面の男達は?」

「全員確保しました!」


 デリックは目の前のシールドが解除されていないことに眉を潜める。


「団長でも解除できないのですか?」

「すぐには無理だね。相当複雑に作られている」

「やはりあの4人は?」

「ああ。このシールドを張るためだけに送り込まれた者達だろう」


 そこでデリックも気付いたようだ。眉根を寄せトーンを低くし言う。


「それは団長対策ってことですね?」

「たぶんね。僕も有名になったものだ」


 性格なのか、こういう切羽詰まった時でも冗談は怠らないユーゴを無視しデリックは国王とマティスが消えた奥の部屋へ視線を向け不安げに聞く。


「国王と殿下は大丈夫でしょうか?」

「ブレット達がいる。大丈夫だと信じよう」


 ――それに、あの二人の姿が見えない。なら大丈夫だ。


「まずこのシールドを解除することに全力を尽くす。デリック、団員達に他の侵入者がいないか見回るように伝えろ」

「はい!」


 ――後は頼みますよ。オーエン先輩。



     ※※※



 その頃、ブレット達は国王とマティスを守りながら一番奥の部屋へと向かっていた。その部屋へ行けば国王達を守る為のシェルターもあり、万が一の逃げ道はある。他の警護の者達も数人待機しているはずだ。これは、もし何かあった場合に想定されたものだ。

 その場所まで行けばどうにか国王とマティスの安全は確保されると、早足に前後に注意を払いながら向かう。大広間から奥の部屋へと続く真っ直ぐな長い廊下を行き、突き当たりのT字を左に曲がった時だ。目の前に2人の剣を持った覆面の男と魔術師1人が待ち伏せをしていた。


「!」


 ケインが剣を構え前に出る。ブレットといえば杖を構えながら、目の前の有り得ない光景を見据え眉を潜めた。


 ――どこから入った? 警護の者達がいたはずだ。


 奥に続くこの廊下には2人の警護の者がいたはずだ。だが姿が見えない。嫌な予感が過りブレットは覆面の男達の足下を見て舌打ちする。靴が警護の者と一緒だった。


 ――最初から入れ替わっていたか! いつから?


 そんな事よりも今だと前で剣を構えて攻撃に備えるケインの背中にブレッドは言う。


「ケイン行けるか?」

「はい。持たせます」


 持たせるとは勝てないが国王とマティスを逃がす時間稼ぎをするという意味だ。

 ブレットは考える。今いる廊下は大人2人が横一列になり両手を広げたぐらいの幅だ。そして後ろ――今大広間から来てブレット達が左に曲がった反対側、右に上がった廊下の先は先ほど国民に手を振った場所、テラスだ。逃げ場はない。そして目の前の覆面2人と魔術師の強さが分からない今、ユーゴがいないこの場で国王とマティスを庇いながら闘うのは不利だ。ならば、


「ギルバート、ダリル、陛下達を連れて大広間に戻れ」

「はい!」


 その意図を瞬時に察したギルバートとダリルは、国王とマティスを連れて大広間への廊下を戻る。


 ――ここよりは安全だ。あそこには団長達がいる。


「副団長!」


 ケインの叫び声に前を見れば、今いた3人がいない。


「いきなり消えました!」

「!」


 ブレットはバッと後ろに振り向きギルバート達を追いかける。そして大広間へ繋がっている廊下へと曲がった瞬間、目の前の光景に目を見開き足を止める。それはブレッドが一番恐れていた光景だった。


 ――やはりあの男達は幻影で陽動!


 ギルバート達はブレットに言われ、来た道を国王達を引き連れて引き返し、もう少しで大広間だと言う時だ。いきなり2人の杖を持った魔術師の男達が転移魔法で現れ行く手を阻んだ。


「!」


 ギルバートとダリルは国王とマティスを守るように2人の前に立ち、2,3歩前に出た時だ。国王とマティスの前後を壁を作るように下から分厚いシールドが這い上り遮断したのだ。


「!」


 すると魔術師は一瞬のうちにその場からいなくなった。その行動にギルバートとダリルは目を見開く。


 ――転移魔法? 何もしないで逃げたのか? そうか! このシールドを張るためだけか!


 ブレットがちょうどその時に走ってきて、この光景を目にしたのだ。


 ――やられた!


 ブレットの後に来たケインもその光景に目を瞠る。


「殿下!」


 ケインは立ち尽くしているブレットを追い越しマティス達を囲っているシールドに剣で斬りかかった。だがバチっと電気が迸り弾かれる。ダリルもケインに続き剣でシールドへ攻撃するがビクともしない。


「くそ!」


 そこでブレットとギルバートがただ立ち尽くしているのが視界に入った。ケインは怒りまじりの声で2人に怒鳴る。


「副団長! ギルバート! 何をしているのですか! 早く陛下と殿下を!」


 だがブレットもギルバートも苦渋の顔を向けるだけで動こうとしない。ケインはなぜだと怪訝な顔を向ける。ブレットといえば、ケインの視線にも気付かず眉根に皺を寄せ、頭をフル回転させ打開策を考えていた。だがやはり見つからない。見つかるわけがない。わかりきっていたことだ。


 ――無理だ。これはシールドの中でももっとも強靱と言われている類いのものだ。外からの魔術や剣は効かない。団長でもちょっとやそっとじゃ外せないだろう。


 この強靱なシールドが意味するものは、ユーゴがいることが想定されたもので、すぐに外されないため。

 最悪なシナリオがブレットの頭を過り背筋が凍る。

 そして無情にもブレッドの目の前――国王とマティスが閉じ込められているシールドの中に突如として剣を持った4人の覆面の男達が転移魔法で現れた。


「!」


 ――やはりそうか!


 ブレットが危惧した通りになり戦慄が走る。助けたくても助けることが出来ず、ただ最悪な結末を見るだけしか出来ないブレット達の前で、無情にも覆面の男達が国王とマティスへと剣を振りかざしながら襲いかかった。


「陛下ー! 殿下ー!」


 4人の剣先が国王とマティスへまさに届こうとした時だ。


 カキーン!


 金属音のぶつかる音が響き、国王とマティスの前に2人の影が立ち塞がった。


「こんなことだろうと思った。ほらリュカ、俺の読みは正しかっただろ?」


 自身の右手に握られている剣で1人目の覆面の男の剣を頭上で受け止め、左手に持った剣の鞘でもう2人目の覆面の男の剣を受けながらオーエンが言う。リュカは右手で3人目の覆面の男の剣を自身の剣で防御し、もう4人目の覆面の男は魔法の鎖で縛り上げ、そして国王とマティスへ結界をかけながら応える。


「いや、半分ぐらい間違ってましたよ。それにこれはユーゴ団長に絶対に怒られる事案です」


 オーエンは苦渋の表情を浮かべ弁解する。


「犯人を全員捕まえるにはこれしか方法がなかったんだからしょうがないだろう。許してくれるさ」





いつも読んでくださりありがとうございます。

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