表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/158

68 建国100周年の祝いの儀②



「鼠が入り込んだようだ」


 リュカはオーエンの視線の行方を目だけで追う。すると1人のウエイターがいた。


 ――ウエイター?


 だが遠すぎて顔までは見えない。リュカはウエイターを探るため魔術を使おうとした時だ。


「リュカ、魔術は使うな。気付かれるぞ」


 とオーエンが制する。


「あいつは剣士だ。少しの魔力でも気付く」

「!」


 そこでオーエンの弟でリュカの剣の師匠、バロン・ケイラーが浮かぶ。

 バロンは魔力がほとんどないが、身体能力が高く剣の腕前が並外れた剣士だ。


 ある時、リュカとオーエン、バロンと食事をする機会があった。その時にオーエンとバロンが色々と昔の話をしていたのを興味深く聞いていたことを思い出す。その1つにオーエンとバロンが魔法と剣で戦った時の話をしていて、リュカはその結果を聞いて驚いた。


「師匠が勝ったのですか?」

「ああ。そうだ。凄いだろう」


 その時はどうしてだと思った。絶対に魔術を使う父親の方が強いと思ったからだ。そのことを正直に言うと、


「普通はそう思うよな。だがリュカ、その考えは大きな間違いだぞ」

「そうだな。どんなに強い魔術師でも負ける場合がある。俺みたいにな」


 そこでどのようにしてバロンがオーエンに勝ったのかが気になった。


「どうやって師匠は父上に勝ったのですか?」

「この魔力を弾く剣の力も大きかったな」


 そう言ってバロンは腰に付けていた剣を触る。世界には魔術を使う者が多い。そのため対魔術師にはこの魔力を弾く剣を持つ剣士がほとんどだった。


「だがそれだけでは到底魔術師には勝てない。バロンの強さと作戦が大きかったな」


 オーエンが言うとバロンが苦笑しながら応える。


「魔術師は魔力が使えるため、魔力を感じることに慣れ過ぎている。だからそこを突いただけだよ」


 その当時のリュカにはバロンが言う意味が分からなかった。だが今なら分かる。魔術師は魔力で人の場所や強さを把握する傾向がある。そこを逆手に取ったのだ。


「強い剣士は自分の気配を消すことが出来る。そして中には魔力と気配を感知する能力が高い者もいる。だがそのことを剣士は魔術師には言わない。バロンがいい例だ」


 オーエンの言葉にリュカは驚きバロンを見る。


「師匠は魔力が分かるのですか?」


 バロンは魔力をほとんど持っていない。なのに魔力が分かるのかがその頃のリュカには分からなかった。そんなリュカにオーエンが言う。


「そこが魔術師の弱点だ。魔力を持っているから魔力が分かる。魔力を持っていないから魔力が分からないというように先入観で物事を見てはいけない。誰しも魔力は少しは持っている。特に剣を極めた剣士は魔力と気配には敏感になるもんなんだよ」

「そうなのですね」


 するとバロンが笑いながら付け足す。


「でもこれは、兄上と俺だから分かったことなんだ」


 小さい頃からバロンは魔術に憧れていた。だが自分には魔力がほとんどないため魔術を習うことは出来ない。だからその不満をオーエンの魔術の練習を見て解消していた。するとそのうち魔力を感知出来るようになり、オーエンが何の魔術を繰り出すのかも把握でき、その対処法を考えるようになったのだと言う。

 そんなことをまったく知らないリュカと同じ考えだったオーエンは、バロンは魔力を感知出来ないと決めつけ、普通に魔術を繰り出した。だが案の定それは防御された。刹那、バロンは地面の砂を巻き上げ視界を消し自分の気配を消した。オーエンは結界を張り探査魔法で探そうとしたが、その瞬間を狙われ、結界を破壊され背後から攻撃され負けたらしい。


「父上も俺と一緒じゃないですか」


 ムッとして言うリュカにオーエンは「そうだな」と苦笑し、バロンは大笑いした後、


「でも俺が兄上の戦い方を把握していたから勝てただけさ。それにこの方法は一度しか使えない。もう兄上に俺が魔力を感知出来ることはばれてしまったからね。今後二度と俺は兄上には勝てないよ」

「確かに俺には勝てないが、そう自分を卑下するな。お前の剣の強さは俺でも脅威だ。味方でよかったと切実に思うよ。まあ俺以外の魔術師なら勝てるだろうよ」

「兄上にそう言ってもらえると嬉しいな」


 と奢らず謙遜なバロンに感銘を受け見習おうと思ったことを思い出す。


 ――そうだ。師匠は探ろうとした父上の魔力を感知して攻撃したんだった。だとしたらここに送り込まれたやつらも師匠と同じ魔力を感知出来る者がいるかもしれない。ならば使わない方が賢明だろう。


 そして周りを見渡す。やはり魔術を使わないと怪しい者を見分けることが出来ない。どうしたものかと思っているとオーエンが呟く。


「んー今のところ4人か」

「え?」

「鼠だよ」

「!」


 リュカは目を瞠る。


「わかるのですか?」

「まあな。野生の感みたいなもんだな。俺は海で生活していることが多い。毎日変わらない風景の中で過ごしている。だがいつ何時狙われるかわからん。敵国、海賊、怪獣、海には色々と敵が多いからな。毎日神経を張り巡らせていれば、ちょっとした変化や、何が良いか悪いかがおのずと分かるようになるもんだ」


 そしてオーエンは目をすうと細めて言う。


「リュカ、今から言う奴を覚えておけ」


 オーエンは口元を飲み物で隠しながらリュカに4人の場所を教えていく。すべて男性でウエイターばかりだ。


「やはり貴族に化けるのは難しかったんだろうな」


 見たことがない人物ならば、他の貴族の注目を浴びる可能性がある。そうなればすぐに目を付けられて身動きができなくなるからだろう。その点、ウエイターならば注目を浴びることはない。


「いいか。まだ動くな。今目を付けられるのは良くない」

「はい」

「一応ユーゴ団長には伝えておくか」


 オーエンはリュカから離れると、色々な人と話しながらユーゴへと自然に近づき挨拶すると握手をするように見せ紙を忍ばせ渡す。ユーゴも何ごともなく笑顔で握手をし軽く挨拶をし離れて行った。そしてオーエンはまた違う者に話しながら一周するとリュカの元に戻ってきた。


「伝えておいた。これで大丈夫だろう」


 確かにユーゴに任せておけば大丈夫だろうとリュカも安堵する。


 だがそれは打ち砕かれたのだった。




 式典も終盤にさしかかり、国王とマティスは城の外で祝いを待っている国民へ顔を見せるために城のバルコニーへと出て手を振った。すると市民は皆歓喜に沸いた。そして盛大にラッパが鳴り響き、放たれた平和の象徴の鳩が群れで旋回しながら舞い、花火も打ち上げられ、式典も最高潮を迎えた。

 そして国王とマティスがバルコニーから下がり大広間に戻る廊下を歩くのを護衛をしながら副団長のブラットがユーゴに呟いた。


「どうにか無事終りそうですね」

「ああ。だがまだ終っていない。気を緩めてはだめだよ」


 まだ警戒は解いていないが、一番警戒していたのがこのバルコニーだったのだ。

 だが国王とマティスが大広場へと戻った時だ。マティス達とは反対側の入口の扉が爆発した。


「テロだー!」


 誰かが叫んだのがきっかけで大広間にいた者達が悲鳴を上げ逃げ惑い始めた。


「国王! 殿下! こちらへ!」


 ユーゴ達は国王とマティスを安全な場所へと移動させようとすると、また下にいた客人から悲鳴が上がる。2階からユーゴが覗くと、そこには4人の覆面の男達が杖を持って入って来たのが見えた。


「ブレット! ケイン! ギルバート! ダリル! 国王達を! 僕はあいつらを捕まえる!」

「了解!」


 ユーゴは手すりに手をかけると、1階へと飛び下りた。

 覆面の男達は杖を構え、無差別に魔法を貴族達へと放ち始めた。王宮の騎士団や魔術師団達は貴族達を守るのに必死で覆面の男達を捕まえることが出来ない。

 ユーゴも1人の覆面の男へと魔法を繰り出そうとするが、あえて逃げ惑う貴族達の中へと紛れ撃つことが出来ない。だが覆面男達は反対に無差別に魔法を放つため、ユーゴも貴族達を守るを優先しなくてはならないため防戦することしか出来なかった。


「ちっ!」


 何も出来きず歯がゆさからユーゴには珍しく舌打ちする。

 すると4人は横一列に並ぶと、全員杖を地面に突き立てた。


 ――あれは!


 ユーゴは目を見開き叫ぶ。


「あの者達を阻止しろ!」


 だがその時には遅かった。一瞬にして覆面男達を境に透明なシールドが天井へと張り巡らされた。それはユーゴ達と国王とマティス達がいる場所を遮断する結界だった。





いつも読んでくださりありがとうございます。

もし少しでも良かったと思っていただけましたら、ブックマーク、いいねボタンの方よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ