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6 2度目の人生の始まり



「まさか本当に人生をやり直すとは」


 アイラは魔法学園アデールの門を潜りながら呟く。


 地下牢で息を引きとり、気付いたら入学式の半年前に戻っていた。

 初めは驚いたが、これは人生をやり直して幸せを掴めということなのだろうと都合のいいように解釈することにした。

 だから2度目の人生は、王家とは関わらずに平凡に静かに暮らそうと決めた。

 それには精霊魔法が使えることを隠さなくてはならない。なぜなら精霊魔法を使える者が極端に少ないため、知られれば王宮に仕えることが義務付けられていたからだ。


 アイラはまず入学手続きを『魔術師専攻』で登録した。両親にも精霊魔法が使えることを内緒にするように頼んだ。


「あとは、マティスと友達にならないことね」


 前回の時は、皇太子であるマティスと同じクラスになり友達になった。そのせいで学園生活では「皇太子に色目を使っている」とか「身分が違うのに何様のつもり」などと他の貴族の女子生徒からずっと疎まれ無視された。学園を卒業して王宮で働くようになってからも良いことがまったくなかった。そんな最悪な人生を繰り返し歩むつもりは毛頭ない。


 だから今回はマティスとは極力距離を置くことにした。


 クラス決めは入学前テストで決まる。だから今回は回答を半分以上白紙で出した。その甲斐あって一番下のクラスになることが出来た。


「これで大丈夫だわ」


 アイラはここまでの経緯を振り返りながら満足して歩いていると、前から1人の男性生徒がやってきた。アイラはその人物を見て驚き目を見開く。


 ――リュカ・ケイラー? なんでいるの? 


 前回は魔術師のエリート学校のランカル学園に通っていたとマティスから聞いていた。だからこの学校にいるはずはないのだ。

 アイラは動揺しながら顔を下に向け、リュカに顔を見られないようにしすれ違う。リュカといえば、アイラとすれ違った後、振り向きアイラの背中を見て眉を潜める。


「Eクラスだと? どういうことだ?」


 リュカがマティスから最期の命令を受け、時を遡る魔法で戻って来たのが今から半年前。

 本来は魔術師のランカル学園に通う予定だったが、今回はこの魔法学園に変更した。理由はこの学園には守る対象のマティスとアイラがいるからだ。


 時を遡る魔法は、自分にとってターニングポイントの時代に戻る。

 リュカが戻った時期は、高校を決めるための試験の2日前だった。この時期に遡ったということは、前回と学校を変えろということを示唆しているのだと理解した。どちらにせよマティスとアイラの近くにいた方が何かと状況が把握できるという理由もあった。


 だが魔力が強いリュカがマティスと一緒の学園に通うためには、1つ問題があった。


 入試試験で成績が優秀な者は、魔術師のエリート学校ランカル学園へと強制的に行くのが決まっていて、その判断基準が魔力量だった。

 魔力測定は機械に手を翳し測る。そのため、その測定器を欺かなければならなかった。ここで役に立ったのが、前回の人生で密偵の仕事をしていた経験だった。潜入する時に機械を欺くことをよくしていたからだ。

 今回もその技でどうにか測定器を欺き、魔力が強いことを隠すことが出来き、マティスと一緒の学校に通うことが出来たのだった。


 同じ魔法学園に通うことをマティスに報告すると、大いに驚かれた。

 小さい頃からの知り合いで親友でもあるマティスは、リュカの魔力の強さを知っていたからだ。案の定マティスの第一声は予想通り、


「なんでランカル学園じゃないんだ?」


 だった。

 それに対しリュカは体調が悪かったんだと嘘をついた。それを素直に信じたのか、それとも信じていないのか分からないが、


「珍しいね。リュカが体調管理を失敗するなんて。でもまた一緒に通えて嬉しいよ」


 と最後には喜んでくれた。


 そして入学式の今日、まずアイラを探した。すぐに彼女を見つけ、確認するためにわざと横を通り過ぎ、そしてバッチを見て驚き、振り向いたわけだ。


 マティスから聞いた話では、アイラはマティスと同じクラスのAクラスだったはずだ。成績も優秀でいつもトップ3には入っていたと聞いていた。だが今アイラが胸に着けていたクラスバッチは、成績が一番下のクラスのEクラスのバッチだったのだ。


 それよりも、もっと驚いたのが専攻バッチの種類だ。

 バッチには魔術専攻と精霊魔法専攻がある。アイラは王宮では精霊魔法士だった。だから精霊魔法専攻のバッチを付けているものだと思っていたら、魔術専攻のバッチではないか。

 アイラは魔力が強いわけではない。それならば最下位のクラスで納得がいく。


 だがなぜ?


 ――俺が学校を変えたからか? だから前と状況が変わってしまい、過去が変わったのか? それともまだ精霊魔法に目覚めていないのか?


 精霊魔法は稀に途中で開花することがある。アイラは晩成型だったのかと考える。だがマティスからそのように聞いたことがなかった。マティスはアイラとの出会いを、アイラの精霊魔法を見て惹かれ声をかけたと言っていた。だとすれば最初からアイラは精霊魔法が使えたことになる。


 ――意味がわからない。


 混乱するリュカに背後から軽快な声がした。


「リュカー!」


 呼ばれて振り向けばマティスだ。その後ろには2人の護衛が付いていた。ケインとジルだ。高校に上がったことで護衛がこの2人に変わったようだ。


 ――2人はこの時からマティスを護衛していたんだな。


 前回の人生では、ケインとジルはテロが起こった時、最後までマティスを守っていた。だが最後2人は殺されてしまった。その時の最期の無残な姿が蘇る。

 じっと2人を見つめるリュカに、ケインとジルは怪訝な顔を見せ、マティスは首を傾げる。


「あ、リュカは2人に会うのは初めてだね。新しく僕の専属護衛になった魔術師のケインと剣士のジルだ」


 リュカ達はお互い頭を下げる。


「ケイン、ジル、僕の親友のリュカだ。卒業したら王宮魔術師になる予定だから」


 マティスの説明にリュカは言う。


「まだ分からない。王宮がいらないと言うかもしれないからな」


 前はランカル学園だったため無条件で入れたが、この学校では学校の推薦と成績、試験を受け採用が基本だ。


「絶対にそれはないよ。僕が推薦するからね」


 マティスは笑顔でなぜか勝ち誇ったように胸を張り言う。確かに推薦枠はあるが。


「やめてくれ。コネで入ってもいいことがない」


 嫌そうな顔で反論するとマティスは笑い飛ばす。


「あはは。でもリュカの実力なら、誰も何も言わないよ」

「……」


 ――確かに前回の人生で魔術師団長まで昇り詰めた経歴がある。だから間違ってはいない。


 そこで黙ったリュカにマティスが勝ち誇った笑顔を見せ、


「さあ行こうか」


 と歩き出した。リュカは嘆息しマティスの後に続く。


 ――アイラ・フェアリのことは後に分かることだ。まだ時間はある。焦ることはない。


 そして前を歩くマティスへ視線を向け、


 ――絶対に今度はお前を死なせない。


 と誓うのだった。




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