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66 オーエンと



 リュカは実家から連絡を受け帰っていた。父親のオーエンが戻ってきたからだ。


「今回は早いんですね」


 リュカは会うなり言うとオーエンは苦笑する。


「エタンにも言われたよ」


 まだ帰ってきたばかりだからか、無精髭は伸び、髪も伸びて後ろで1つに結び、ワイルドさが増していた。


「今回は建国100周年の祝いの儀があるからな」


 大事な行事のため必ず出席しなくてはならないためだった。


「兄さんは?」


 リュカはエタンの姿がないことに気付く。


「顔を見せに来てすぐに王宮に戻った。仕事だ。建国100周年の祝いの儀の準備で王宮で缶詰状態らしい」


 そう言えばエタンは宰相の補佐の任に就いたことをこの前聞いたことを思い出す。


 ――前世でもそうだったな。


 時期は違うが、前世でもエタンは宰相の補佐に任命され仕事をこなしていたことを思い出す。もし国が滅ばなかったらそのまま宰相になっていたかもしれない。

 そんなことを思っているとオーエンが誘ってきた。


「リュカ、家族水入らずで報告会といこうか」


 それは2人だけでということを使用人に分からせるための言葉。だが執事の白髪の老齢のモーリスが言う。


「旦那様、その前にまず身なりを」

「駄目か?」

「はい。駄目です」


 モーリスははっきりと言う。それに対しオーエンはしゅんとなり、


「リュカ、先に書斎で待っていてくれ」


 と言う。


「はい。わかりました」


 リュカは返事をすると、オーエンはモーリスに連れられ奥へと歩いて行った。そんなオーエンとモーリスを見てリュカはフッと笑う。相変わらずオーエンはモーリスには頭が上がらない。オーエンが幼い時からずっとオーエンの面倒を見てきたモーリスは父親のような存在だと言っていた。だからかオーエンはいつもモーリスの言うことは素直に聞いている。

 するとモーリスが振り向きリュカへ言う。


「リュカ坊ちゃん、髪が乱れていますよ。きちんとなさってください」


 と注意してきた。リュカはすぐに髪を手ぐしで直す。それを確認するとモーリスは笑顔を見せて歩いて行った。自分もやはりモーリスに育てられたこともあり、体が反射的に動いてしまう。父親のことは言えないなと苦笑し書斎に向かった。


 結局1時間ほど待たされた。


「待たせたな」


 書斎にやって来たオーエンを見てリュカは目を見開く。腰近くまであった長い髪は肩までばっさり切られ綺麗に整えられ、無精髭も綺麗に剃られていた。


「さっぱりしましたね」

「ああ」


 疲弊した表情を見せるオーエンは、相当モーリスに小言を言われたのだろう。クスッと笑うとオーエンが目を瞬かせる。


「リュカ、表情が豊かになったな。お前の笑った顔を久しぶりに見た」

「そうですか?……」


 リュカは恥ずかしくなり目を泳がす。


「あはは。気にするな。褒めてるんだ。良い友が出来たようだな」


 そこでリュカはアイラの顔を浮かべる。確かにアイラといるようになってからよく笑うようになった。


 ――あいつのおかげか……。


 そう思いながら微笑んでいるリュカを見て、オーエンはただ笑顔を見せる。


「で、どうだ? あれから何かあったか?」


 そこでリュカは表情を硬くし、オーエンに王宮の魔獣が現れたこと、そしてアイラが『罪人の墓場』に転移され、その後謎の2人組に遭遇したことを話した。オーエンは大いに驚いた。


「そんなことがあったのか」

「はい」

「その2人組は誰なのか分かったのか?」

「いいえ。逃げられてしまいました」

「そうか」


 オーエンは顎に手をあて考える。


「その2つの接点は?」


 なぜ接点を聞くのかとリュカは首を傾げながら応える。


「両方とも国守玉関連です」


 王宮に現れた魔獣は『国守玉の肢体』の1つが崩壊したため、国守玉に戻った魔獣が暴れたものだ。そして『罪人の墓場』の件は、元『国守玉の肢体』であったであろう場所だ。


「お前はその2つの出来事をどう思う?」

「それはどういう意味ですか?」

「言葉の通りの意味だ」


 『罪人の墓場』の件は人災だが、王宮に現れた魔獣は『国守玉の肢体』が崩壊し処理できなかったため人災ではないのだ。だがオーエンの言い方だと――。


「父上はこの2つの事件が繋がっていると思っているのですか?」

「その可能性も無きにしてあらずということだ。まったく別の出来事でも、どこかで繋がっていたという話はよく聞くからな。ましてや時期が同じだ」

「確かにそうですが、何のために?」

「リュカ、お前は見たものだけで判断し過ぎだ。お前は前世での出来事が衝撃過ぎてお前の見たものがすべて正しいと勘違いしている」

「!」

「お前の見解、国王の弟ブノア・ビクラミ公爵が首謀者だというのは間違っていないだろう。だがもしかしたらその裏に本当の首謀者が隠れているかもしれん」

「どういうことです? 犯人はブノア・ビクラミではないと父上は考えているのですか?」


 リュカは体を前のめりにして訊く。


「それはわからん。ただ俺の知るブノア・ビクラミ公爵ではここまでの計画を立てることは無理だと思ったからだ」

「え?」

「ブノア・ビクラミ公爵は国王とは違い、考えが浅はかなところがある。ましてや策士でもない。元々国を治める器ではないのだ。そのブノア・ビクラミ公爵がこのような大それたことを考えるとは到底思えないのだ」

「では他に誰か糸を引く者がいると?」

「俺はそう思っているだけだ。だがリュカの先ほどの話を聞く限り、その2人が首謀者の可能性は大いにあるな」


 オーエンは葉巻に火をつけると口に吸い込み、そしてゆっくりふうと吐く。


「あとその者で1つ気になることが」


 リュカはフードの男を思い出す。


「フードを被った男の魔力が何か変だったのです」

「どのように?」

「それが……初めての感覚で……」


 そこで言い止す。説明しようとするが、どう説明していいのか分からないのだ。

 するとオーエンが葉巻をレストへと置くと、眉根を寄せ腕組みをし目を瞑った。オーエンがこのような仕草をする時は何か考えている時のためリュカは静かに待つ。しばらくするとオーエンは目を開け静かに話し始めた。


「何か使役の類いを使っているかもしれぬな」

「使役?」

「ああ。悪魔と契約し召喚し使う召喚魔法だ」

「それは禁止魔法ですよね?」

「そうだ」


 このルカン王国では100年ほど前から召喚魔法は禁止のはずだ。


「では召喚魔法を使っていると父上はお考えで?」

「やっている者はゼロではないだろうな。禁止されているからこそ表には出ない。人間というものは、出来ないと言われればやりたくなる生き物だからな」


 自嘲気味に笑うオーエンに、リュカは母親のために時を戻したことを言っているのだろうことは分かった。


「だが他国ではそれが普通に行われている国もある」


 オーエンは世界中の国へと行っている。ただ運搬と燃料補給のために行っているわけではない。その国の調査も担っている。だから言えることだ。


「もしかしたら他国の者かもしれんな」


 そうなると、他国の者がルカン王国の国守玉を狙う理由は1つ。


 ルカン王国の崩壊と侵略。


 そうなると、ブノアは利用されただけということになる。

 現国王を殺害しても国守玉が機能していればルカン王国は潰れることはない。だが国守玉が衰退すれば、国は崩壊の一途を辿る。それが狙いなのか。

 だとすると、前世での仮定が崩壊する。


 ――国守玉がアイラを殺害したことを怒り放棄したんじゃないのか?


 下を向き、眉根を寄せ考えているリュカにオーエンは嘆息し、レストに置いた葉巻を再び持ち口に運ぶと、ゆっくり口に吸い込み、そしてゆっくり吐き出す。


「思ったより奥が深そうだな。そして『罪人の墓場』にいた者は厄介な人物そうだ」


 リュカは顔をあげてオーエンを見る。


「お前気付いているか?」

「何をですか?」


 リュカは分からず眉を潜める。


「その『罪人の墓場』の場所はどこにあった?」

「地下1000メートル地下です」

「その場所にはお前ほどの魔力がなくては行けない場所だ。そいつらはそこまで魔力はなかったのだろ?」

「はい。ですので魔術玉に転移魔法を付与し、転移してきたのではないのですか?」


 魔術玉に転移魔法を付与することにより、誰でも転移させられるというものだ。それの何がおかしいのかが分からない。


「魔術玉に付与するにもお前があの場所に転移する魔力量と同じ量の魔力を付与しなくてはならないんだぞ」

「!」


 そこでリュカは気づき目を瞠る。


 ――確かにそうだ。あのフードの男は逃げる時に魔術玉を発動させていたため、てっきり魔術玉を使って移動出来るものだと誤解をしていた。


「じゃあ逃げる時に使った魔術玉はフェイク?」

「いや。そのフードの男は1人で転移出来るほどの魔力はあったが、二人で転移するほどはなかったんだろう。だから魔術玉を使って転移したというところか。1人連れてあの距離の移動魔法が出来るのはそういないだろうからな。お前が例外なんだよ」


 そこである疑問が浮かびリュカは訊く。


「父上は出来ますか?」


 はっきり言って今も父親の魔力量が分からないリュカだ。リュカと同じオーエンも魔力を隠しているからだ。探ろうとしてもまったく分からない。それほどまでの性能の高さなのだ。

 リュカの質問にオーエンは笑顔で、


「想像に任せる」


 とだけに留めた。その言葉でリュカは父上も出来るのだと確信した。


「どちらにせよ厄介な相手だろう」

「はい」

「どんな相手か分からない間は、安易に動かないようにな」

「はい」


 そしてオーエンは今までと違いリュカへと笑顔を見せる。


「暗い話はここまでだ。そろそろ孫達もやって来るだろう。久しぶりに家族でご飯を食べようじゃないか」

「はい」


 リュカも笑顔を見せて頷き返した。





いつも読んでくださりありがとうございます。

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