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65 俺はお前の親じゃない



 ズカズカとローランの前まで来るアイラにリュカは、


「お、おい、アイラ」


 と声をかけ慌ててアイラの腕を取り止める。


「リュカ、あなたも言い返しなさいよ! 戦っていたら私達の方が勝っていたわよ!」


 いや、そうだとしても今それを言ったら揉めるだろと、サラとカミールは肩を窄め、ライアンは苦笑し、リュカは嘆息した。今世でわかったことだが、アイラはけっこう怒りの沸点が低い。前世のアイラは感情を露わにするようには見えなかった。


 ――いや、そうでもないか。


 マティスには静かに怒っていたことを思い出す。そこは大人になったということかと思うが、今のアイラは時を戻したわけなのだから精神年齢は変わらないはずだ。ジンが言っていた「精神年齢は体の年齢に引っ張られる」らしいから、精神年齢は学生に戻っているのかもしれない。現に自分もそうなのだから。

 そう物思いに浸っていると、ローランの蔑ました声が聞こえてきた。


「は? 俺達よりも強い? お前、何もしてなかったじゃないか!」

「うっ!」


 図星のためアイラは反論できずに黙る。すると、


「確かにアイラ、ほとんど立ってるだけだったわよね」

「だな。お飾りだったな」

「確かにそうだったね」


 と、サラとライアン、カミールが無情にもローランの言葉に賛同し頷いている。どっちの味方だとアイラはムッとし言い返す。


「そ、そうだけど! マティスとリュカならあなたに負けなかったわよ!」

「うるさいぞ! Eクラスの平民のくせに殿下を呼び捨てにするな!」


 マティスを呼び捨てにしたことにローランは怒りを露わにし声を荒げてアイラに言い返す。アイラもこめかみにピシっと筋が入る。


「平民で悪かったわね! 平民だからって何が悪いのよ! あんたもただの貴族じゃないのよ!」


 ムカつきからアイラは勢いで意味の分からないことを言い返す。案の定サラが「ただの貴族ってなによ」と突っ込み、確かにそうだと恥ずかしくなり聞こえなかったことにする。

 リュカもアイラの素っ頓狂な言い返しに苦笑しアイラの腕をひっぱりローランから引き離す。


「お前はもう話すな」

「な、なんでよ!」

「落ち着け。おまえがしゃべると余計おかしくなる」

「はあ?」


 言い返そうとしたところでアイラの額にリュカが人差し指でトンと叩いた。刹那、アイラの力が抜けその場に立ち尽くし動けなくなる。


「え?」


 驚いていると足が勝手に後ろに動き椅子に座る。立ち上がろうとするが尻が接着剤が付いたように離れず立ち上がることが出来ない。そして声も口が開かず発することもできないのだ。そこでリュカに魔法で制御されたのだと気付く。


 それを見たカミールは笑顔を見せる。


 ――へえ、杖も使わず魔法陣を省略して魔法を繰り出せるんだ。


 魔法を確実に繰り出すためには魔法陣は欠かせない。だが相当な魔力と経験があれば魔法陣を省略して繰り出すことが出来る。それだけ時間短縮出来るからだ。だがまず出来る者は限られている。それを学生のリュカがしたことにカミールは驚いた。


 ――リュカは学生にしては飛び抜けて経験値が高い。凄いね。ランカル学園に行く学生はみなこのレベルなのかなー。


 高校入学前に行われる魔力測定で、魔力量が多い者は自動的にランカル学園に行くようになっている。なのにリュカはなぜかエリート学園のランカル学園ではなく魔法学園アデールに来た。リュカの実力ならば絶対にランカル学園のはずなのにだ。その理由はなんとなく分かる。


 ――リュカのことだ。何かしたんだろうね。


 リュカの魔力量と技術を考えたら出来るだろう。カミールもやろうと思えば出来るからだ。だが見つかった時のリスクを考えるとやろうとは思わない。そんな危ない橋を渡ろうと思わないからだ。だがリュカはした。それだけリスクを負ってまでしたいことがあるのだろう。だがそのことを問い詰めようとは思わない。まず聞いてもリュカは応えないだろう。


 ――僕と一緒でランカルが嫌だったのかな?


 ランカル学園に行けば、筆記、実技ともに実力重視、結果重視の世界だ。生徒全員が敵であり勉強三昧だ。そんな場所は性に合わない。基本カミールは自由人だ。

 カミールも魔力量が多く祖父が賢者であったこともあり、小さい頃から祖父から魔術を習っていた。賢者が使う魔法も習得済みだ。本来はランカル学園に行く予定だったがランカル学園に行けば、賢者になることが決められる。それだけは嫌だった。だから祖父に頼み込みアデールに入学出来るようにしてもらったのだ。


 ――リュカも魔術師になりたくなかったのかな? いや違うか。マティス殿下がいるからか。


 そんなことを思いながらリュカを見ていると、ローランが突っかかって面白いことになっているなーとカミールは笑顔で傍観する。


「ほんとEクラスのやつはろくな奴がいないな」


 ローランはアイラに向かって言う。だがアイラはリュカの魔力で言い返すことが出来ないため、キッと睨むだけだ。そんなローランとアイラを交互に見てリュカは「はあ……」と嘆息する。


「ローラン、お前がどう思おうが俺は別に構わない。どうとでも言えばいい。だが今そんなことを言っても何の意味もないだろう。ただお前が俺に幼い子供のようにちょっかいを出したいだけなのだろうと周りに思われるだけだ」

「なっ! そんな風に思っているわけないだろ!」


 ローランは声を張り上げて反対する。


「違うのか? 俺はそう受け止めたが?」

「バ、バカじゃねえのか! 俺はただお前がそう思っているだろうと思って言っただけだ!」

「じゃあ俺と一緒じゃないか。お前もそう思って言ったんだろ? 俺もそう思って言っただけだ」

「くっ!」


 するとライアンが声を上げて笑う。


「あははは! ローラン、お前の負けだ。リュカの方が一枚上手だったな」

「なにを!」

「ローラン、悪いが俺もリュカと同意見だ。どう見ても小さなバカな子供が、勝てない相手にグチグチ言っているとしか見えないぜ」

「ライアン! お前まで何をバカなことを言っている! 俺は違うぞ! まあいい! 負けは負けだ! いい気味だ!」


 そう吐き捨てるように言うとローランは去って入った。


「あいつ、いい気味だってリュカは殿下と同じチームなのにな。侮辱罪で捕まるぞ」


 ライアンはクツクツ笑う。


「それにしてもローランの困った顔、おもしれえ。ざまーみろだ。リュカ、お前やるなー」

「別に思ったことを言ったまでだ」

「確かにそうだ」


 リュカは後ろのアイラへ振り向くと、パチンと指を鳴らす。するとアイラは元の状態に戻った。


「ちょっとリュカ! 何するのよ!」


 アイラは立ち上がりリュカへとズカズカと歩みより睨む。


「アイラ、すぐ挑発に乗るんじゃない。お前がムキになって言い返せば相手の思う壺だろ」

「うっ!」


 その通りなので何も言えずにアイラは黙る。


「お前の悪いところだ。正義感からお前は思ったことをすぐ口にする傾向がある。それは悪いことではないが、立場や場所をわきまえた方がいい。そうしないと……」


 そこでリュカは言い止す。その後に続く言葉――命を落とすぞという言葉が言えない。前世でのアイラの最期が脳裏を過る。だから違う言葉にする。


「そうしないと窮地に陥るぞ」


 するとサラが軽い口調で言った。


「なんかリュカ君、アイラの親みたい」

「え?」


 それにはアイラが声を上げる。するとカミールも頷く。


「ほんとに。アイラのこと、よく分かっているみたいだしね」

「確かにそうだな。ちょうどいいんじゃないか? アイラは魔力もアイラ自身もすぐ暴走する。それを止めるリュカ。いいじゃねえか。お前ら相性がいいぞ」


 茶化すように言うライアンにアイラは反論するかと思いきや、


「確かに」


 と納得し頷いている。そんなアイラにリュカは、


「俺はお前の親じゃないぞ」


 と嫌そうな顔で突っ込むと、笑いが起きたのだった。





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