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62 考察



「レイ! 下がれ!」

「!」


 レイが後ろに下がったと同時、フードの男はレイの腕を掴み、手に持っていた魔術玉を発動させる。そしてリュカが地面に魔法陣が現れるより一瞬早くその場から2人は消えた。


「一瞬遅かったか」


 リュカは歯噛みしジンへと振り向くと、ジンが口をぽかんと開けていた。


「先生?」

「今のはなんだ?」

「え?」

「今何をしようとした?」

「何って……拘束しようと」


 なぜそのようなことを訊くのだとリュカは首を傾げる。


「拘束? 今のは拘束魔法なのか? それにしては強烈な魔法陣だったぞ」


 瞬間的にリュカの魔力が爆発し、見たことがない魔法陣が現れたのだ。その魔法陣は拘束魔法陣にしてはまったく異物のもののように感じられた。


「あれは俺のオリジナルで、ある程度強い者に対してする拘束魔法です。もしうまく捕まえれば相手の魔法と動きを封じ込めれるため確実に拘束できたんですが、逃がしてしまいました」

「オリジナルだあ?」


 ジンは驚き声を上げる。リュカはなぜそんなに驚くのかが分からず眉を潜めながら説明する。


「魔術師団専用の基本の拘束魔法をアレンジした形で……あっ!」


 そこでなぜジンが驚いたのか気付いた。この基本とした拘束魔法は5年後、リュカが魔術師団に入団した後に、魔術師団が生み出した拘束魔法で、まだこの世に存在していないからだ。


「この基本となる拘束魔法は5年後に出来るもので、今この時点ではまだない拘束魔法ですね」

「そういうことか。どおりでまったく知らないはずだ」


 そこでジンは納得した。


「すみません、捕まえれなくて」


 まさか逃げられるとは思わなかった。やはり前世の魔術師団長の時よりも今の自分は劣るのだと実感する。


「あれは仕方ない。相手が一枚上手だったというだけだ」


 確かにその通りだとリュカも思う。もし前世の全盛期の自分だとしても捕まえられたか疑わしい。


「あの2人は何しにここに来たんですか? 先生がここに来たのと関係ありますか?」


 そう聞きながら関係があることは分かっている。そして理由も予想はついている。

 果たしてジンは「ああ」と肯定し、


「試作品というなら、どうやって犯人はその成果を知るのかが気になっててな。魔術師団が突き止めてくれるだろうと思っていたが、ユーゴ先輩の話を聞いて無理だと分かり、もう一度自分で調べてみようと思ったわけだ」


 と答えた。最初の方はリュカが想像していた答えだったが、後半が想像とは違う。


「? ユーゴ団長?」

「この場所に来れたのが、ユーゴ先輩はとブレッド副団長だったみたいなんだ」

「あーそういうことか……」


 リュカはそこで合点がいく。


「お前なら分かるだろ? あの人のことだ、『罪人の墓場』の場所に興味があるだけで、殺戮転移魔法の件はもっぱら部下に任せていたはずだ。だが部下と言ってもこの場所に来れたのがブレッド副団長しかいなかったことを考えると、本当にきちんと調べたのかは疑わしい」


 ジンは片眉を上げて言う。リュカも同意見だ。その時の2人の風景が浮かぶ。


 ユーゴは『罪人の墓場』に来た瞬間、その場所を調べるのに重視したのだろう。一緒にいたのがブレッド1人なら尚更だ。他の団員がいたのなら立場上自制しただろうが、ブレッドだけなら普段の自由奔放なユーゴになり、すべてをブレッド1人に任せて自分は興味に走っていたに違いない。そしてブレッドといえば、そんなユーゴに振り回され注意力散漫になっていたはずだ。だとしたら見落としがあってもおかしくない。


「リゼットに渡した魔術玉の成果を確認するには、この場所に居続けるか、監視魔法で監視するかだ。だがこの場所にいることは無理だ。ヒルがいるのにいつ来るか分からない者を待つことはしないだろう。監視魔法もそうだ。ずっと魔力を注ぎ続けなくてはいけない。そんなことが可能なのは、どこぞの膨大な魔力の持ち主のバカ大魔術師様しかいないだろうからな」

「……」


 最後、リュカに対して揶揄が入った。最初にリュカがアイラにしようとしていたことだ。だがそれに対して反論することは出来ない。あの時の浅はかな考えは、まさにリュカにとって黒歴史なのだ。思い出しただけでも恥ずかしく思う。事実、今の自分の魔力量では無理な話なのだ。

 目を泳がしているリュカに内心笑い、ジンは話を続ける。


「どう考えてもどちらとも不可能だ。となると、後はこの場所に監視する魔術玉を設置して、誰かが来たら発動するようにしたんだろうな」


 そして発動した後は魔術玉は魔力を失いただの玉になる。見つからない所に設置しておけば、その後も他の者が来ても気付かれることはないということだ。


「じゃあそれを回収に?」

「だろうな。だがこの場所に転移するには相当の魔力の持ち主、まあユーゴ先輩やお前ぐらいの魔力持ちじゃないと無理だ。じゃあ後は移動手段がないのかと言えば、ある」

「魔術玉ですね」

「そうだ。さっき見ただろう? フードの男がまさに魔術玉を使っていた。あれで確信した。あいつらはこの場所へは自力で来ず魔術玉を使って来たんだろう。それにサングラスの男には魔力はほとんどなかったにも関わらず、お前の攻撃を察知し防御結界が張られた。あれはサングラスの男の腕にあった魔道具の腕輪の力だ」


 その時のことをリュカは思い出し、魔道具の腕輪の発動が早かったことに気付く。レイの腕輪はリュカが魔法を繰り出す寸前に発動していたのだ。

 一般的に出回っている同じような防御結界を張る魔道具は、あそこまで早く察知して発動することはない。大体が魔法を浴びた瞬間に発動するのだ。


 ――相当魔法と技術に特化しているということか。敵だとすると厄介な相手だ。


「やはりこの場で捕まえるべきだった」


 自嘲気味に言うリュカの肩にジンは手を置き言う。


「気にするな。お前は今は魔術師団じゃない。責任を感じなくていい」

「ですが」


 どうしてもリュカの中では納得がいかない。悔しがるリュカを見て、前世の魔術師団長だったのが大きく影響しているのだろうとジンは嘆息する。


「俺は逃げてくれてよかったと思っている」

「え?」


 突拍子もないことを言うジンにリュカは怪訝な顔を向ける。


「考えてみろ。もし捕まえたとして、お前、ユーゴ先輩にどう説明するんだ?」


 そう言われ、リュカは良い答えが見つからない。ユーゴにどうやって捕まえたのかと訊かれ、まだこの世にない拘束魔法陣のことを言えば追求されるだろう。だと言って嘘の報告をすれば、すぐにユーゴにはばれ、虚偽の報告をしたと最悪牢屋行きだ。どの道最悪のシナリオしか浮かばず眉を潜めて項垂れるリュカを見てジンは、


「だろ?」


 とリュカの肩を叩き苦笑した。


「それに逃がしたが大きな収穫があった。顔はわからなかったが、どのような人物かは把握出来た。それだけでも大きな収穫だ。あの強さの剣士なら何かしら情報を掴めるかもしれないからな」

「そうですね」

「ってことで帰ろう。もうここには何も残っていないだろうからな」


 そしてリュカとジンはその場を跡にした。




いつも読んでくださりありがとうございます。

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