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61 犯人と鉢合わせ



 リュカはアイラを家に送ると、ジンに訊く。


「今回は何をするんです?」


 もう慣れたものだ。ジンが呼び出す時は何か手伝うのがお決まりだ。


「話が早いな。『罪人の墓場』に行く」

「え? 確か何も問題はなかったのでは?」


 アイラが転移させられた日の次の日、リュカはジンを連れて『罪人の墓場』に行っていた。その時、何も変わったことはなく問題ない状態だったはずだ。


「ああ。何も問題はなかった。だから気になってな。まず連れてってくれ」

「今からですか?」

「ああ」

「わかりました」


 リュカはジンの肩に触れると、足下に魔法陣を展開し転移魔法を発動させ、一瞬で『罪人の墓場』へと移動する。


「着きましたよ」

「相変わらずお前、一瞬でここまで転移出来るんだからすげえなー」


 ジンが感嘆の声を上げた時だ。


「!」


 リュカは自分とジンを囲むように防御結界を張る。刹那、結界に剣が当たり、カキーンと金属音が洞窟に響き渡った。


「なっ、なんだ⁉」


 ジンが驚き見れば、サングラスをかけた男が剣を振り上げ結界に押し当てたままの状態でリュカの前にいるのがわかった。そこで男がリュカに剣で斬りかかったことに気付く。


「いつの間に!」


 するとサングラスの男――レイがリュカを見てにぃっと笑顔を見せた。


「やるなー学生。あの瞬間で防御結界を張ったか」


 そこでジンは気付く。


 ――こいつから魔力を感じない。剣士か!


 そして視線をリュカへと向ける。


 ――リュカもあの一瞬で男の攻撃に気付いたのか!


 だがそこでジンは眉を潜める。


 ――これほどの強さがあっても前世でマティス殿下を守ることが出来なかったんだよな。


 するとリュカは右手に剣を出現させた。


「!」


 同時、察したレイが後ろに飛び退き距離を取った。そんなレイにリュカは目を細める。


 ――攻撃するのを気付かれたか。この男、戦いに慣れている。


 レイもリュカの行動に目を瞠る。


 ――へえ。こいつ、剣まで扱えるか。学生服着てるからまだ学生だろ? 


 そして、久しぶりの手応えがありそうな相手が現れたことに自然と両端の口角が上がる。


「いいねー。久々に楽しめそうだ」


 笑顔を見せるレイにリュカは魔力を少し解放し、圧のある低い声音で訊く。


「お前は誰だ? ここで何をしている」


 いつもとは違う冷ややかな鋭い目つきと圧のある声音、そして凜とした冷静な態度に尚且つ巨大な魔力と威嚇を見せるリュカに、これがかつて魔術師団長でマティスの専属魔術騎士であり、『大魔術師』と言われた男なのかとジンは実感する。

 だがそんなリュカの威嚇にもレイはまったく動じず微笑んでいる。もし少しでも剣士や魔術師をかじったことがある者ならば、この時点でリュカの殺気と魔力で怖じ気づいただろう。だがレイはそんな素振りをまったく見せない。


 ――こいつ、強い!


「その感じ、お前、戦いに慣れてるな。本当に学生か?」

「質問を質問で返すな」


 そう言い返しながらリュカは剣を握る手に力を込める。


 ――この男、強い。


 剣を構えず下に下ろしているが、まったく隙を感じない。反対に少しでも油断すれば命取りになるとリュカの本能が警告音を鳴らす。


 ――この感覚、いつ以来か。


 今まで生きてきた人生で一度しかこの感覚を味わったことがない。


 その人物こそリュカの父親オーエンの弟でもあり、リュカの剣の師匠の男、バロン・ケイラーだ。


 バロンはリュカの父親のオーエンとは5つ離れた弟だ。オーエンは魔力に恵まれたが、バロンはオーエンとは違い魔力がほとんどないに等しかった。だがその反面、並外れた身体能力の持ち主であり剣豪だった。そのためリュカの兄のエタンとリュカは小さい頃からバロンにずっと剣を習っていたのだ。

 そのバロンと前世で卒業試験と称して一度だけ本気で戦ったことがあった。その時のバロンを目の前にした時の感覚と一緒なのだ。


「学生、どれだけ楽しませてくれるかなー」


 レイが剣を構えた。リュカはレイから視線は外さずにジンへと話しかける。


「先生、『国守玉の肢体』のアキレス腱の場所で貼った強靱な結界をここで張れますか?」

「ああ。張れる」

「俺の結界は次で破られます」

「え?」

「だからその時は後ろにできるだけ下がって結界を張って自身の身を守ってください。俺は先生までは守れない」

「は? どういう――」

「来ます!」


 リュカの叫びと同時、レイが間合いを詰め斬りかかってきた。そしてリュカの結界にレイの剣が当たった瞬間、ガラスが割れるように結界が粉々に砕け散った。


「なっ!」


 爆発のような衝撃に驚き、ジンは一気に後ろに飛び退くと特殊能力の結界を自身に張る。


 ――嘘だろ! リュカの結界も相当なものだぞ! それを剣でやぶりやがった!


 レイは、自分の剣を剣で頭上で受け止めるリュカを見て片方の口角を上げる。


「やはりお前、ただの学生じゃないな。俺が結界を破ることも分かっていたし、俺の剣まで受け止めた。経験をしていない学生では普通は無理だ。戦いに慣れ過ぎている。ほんとお前、何者だ?」


 リュカはそれには応えず地面に魔法陣を展開させた。


「!」


 異変に気づきレイは、ばっと一気に後ろに大きく飛び退く。すると腕にはめていた魔道具から防御結界が広がりレイを取り囲んだ。同時、レイの足下から勢いよく立ち上る猛火で見えなくなる。だが火が消えると、そこには無傷のレイがいた。

 リュカとジンは目を瞠る。


 ――魔道具! 腕輪に防御魔法を付与していたのか!


 危険を察知すると防御魔法が発動するというものだ。

 レイは安堵のため息をつく。


「あぶねえ。焼かれるところだった」


 そして剣を構え直しリュカへ言う。


「その魔法……そうか、お前あの時女子学生を助けたやつか。確か名前はリュカ・ケイラーだったか?」

「!」


 やはりあの時見られていたかとリュカとジンは歯噛みする。

 最初この場所に来て調べた時、何も見つからなかったことがジンにはどうしても納得いかなかった。だからここにもう一度来て証拠がないか確認しようとして今回来たのだ。


 ――こいつがいるということは、証拠を回収に来たというところか。ちっ! 一足遅かった!


 ジンはレイに叫ぶ。


「犯人はお前か!」


 ジンの質問に男は口角を上げる。


「どうだろうな?」


 そこでレイの姿、格好を見てジンは目を眇める。その姿にジンには覚えがあった。

 すると今度はリュカがレイへと言う。


「じゃあお前は真犯人の仲間ということなんだな」

「……」


 リュカの意味ありげな言葉に男が一瞬笑顔を消した。どういうことだとジンは眉を潜めていると、


「なら、出てきてもらう」


 リュカは左腕を上げレイへと指を指した。刹那、光の弾丸が撃たれた。


「!」


 レイが気付いた時にはその光はレイの横を通り抜け、洞窟の奥の暗闇へと消える。


「うっ!」


 すると奥からうめき声が聞こえた。リュカはレイの奥の暗闇へ視線を向け叫ぶ。


「いつまで隠れている。いるのは分かっている。出てこい」


 それにはジンは驚き奥へと視線を向けた。するとゆっくり1人のフードを深く被り仮面をつけた人物が現れた。フードを被った男は肩を押さえている。リュカの放った魔法が貫通したのだろう。


「よく分かったな」

「お前が魔術玉を作った張本人だな」

「なぜそう思う?」

「あんたの魔力量が応えだ」


 リュカの瞳に魔法陣が現れているのをフードの男は気づき微笑む。


「なるほど。その目で計ったか」


 その時だ。


「!」


 リュカは目の前に防御シールドを張る。刹那、そのシールドにまた剣が勢いよく当たった。レイがリュカへと一気に間合いを詰め斬りかかってきたのだ。


「へえ。今度はさっきよりも強度の高いシールドか」

「レイ、やめとけ。その者には今不意の攻撃はすべて認識される」


 瞳の魔法陣がリュカの視野と認識を強化していた。フードの男は目を細める。


 ――やはりあの学生、ただの学生じゃないな。魔術師団並みだ。


 レイが嬉しそうに言う。


「剣術と魔術両方が優れているのか。いいねー」


 するとリュカの髪の毛がフワっと逆立った。フードの男が叫ぶ。


「レイ! 下がれ!」

「!」


 レイが後ろに下がったと同時、フードの男はレイの腕を掴み、手に持っていた魔術玉を発動させる。そしてリュカが地面に魔法陣が現れるより一瞬早くその場から2人は消えた。





いつも読んでくださりありがとうございます。

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