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59 『罪人の墓場』



「あの場所を『国守玉の脚』の者は放棄したのか!」


 ――あの場所に転移出来る者は限られ、そして魔獣の量も半端なかったはずだ。だがそんな所に行ける『国守玉の脚』の者はそういない。


 するとユーゴが首を横に振る。


「放棄したんじゃない。『国守玉の肢体』の場所を『罪人の墓場』にしたんだ」

「!」


 そこでジンはあることに気づき、片眉をあげ訝しげにユーゴを見る。


「なんか『国守玉の脚』のことに詳しいですね」

「うふふ。興味を持ったらとことん調べるタイプでね」

「……ああ、そうでしたね」


 ジンは顔を引きつらせる。


 ――その原因は俺だな。


 ユーゴやブレッドはジンが『国守玉の脚』ということだけは知っているが、『国守玉の脚』の詳しい仕事の内容など国守玉の浄化以外はいっさい知らない。だからといってジンに聞いてくることもない。ジンが絶対に話さないことを知っているからだ。

 だが人間は隠されたものに対して知りたいと思うのは自然の摂理。

 そしてユーゴが興味を持つのも自然の流れ。もうこの時点で『国守玉の脚』に関して知り得る情報はすべて調べ終っているのだろうことは容易に想像できた。


 ――ほんと厄介な人だ。


 目を眇め文句言いたげな顔を向けるジンに「話を戻すよ」とユーゴは笑顔で言う。


「ここからは僕の推測だ。その魔穴に行く『国守玉の脚』がいなかったため、国は魔力の強い罪人をそこに送り込んだのだろう。送られた罪人は魔獣を倒すしかない。もし駄目でも罪人が魔獣に殺されるだけだ。どちらに転んだとても国としては願ったりだったんだろうね」

「くっ! 聞こえがいいが、ただ利用しただけじゃねえか。殺人鬼と一緒じゃねえかよ!」


 ジンは憤りを覚え拳をギュッと握る。


「ジンの言う通りだ。だがあの場所に誰かを送らなければならなかったが、『国守玉の脚』の者であの場所に行ける者がおらず困っていたのも事実」


 だからと言って誰でもいいというわけではなかった。そこで白羽の矢が立ったのが魔力のある罪人だった。魔獣をある程度倒すことができ、『罪人の墓場』から出ることが出来ない程度の魔力を持った者。


「魔獣をすべて倒せる僕みたいな強すぎる魔力持ちの者だと魔獣をすべて倒してあの場所から出るかもしれないからね。そうなれば『国守玉』の仕組みや『国守玉の脚』の情報が漏洩し国の危機に繋がる恐れがある。それは絶対避けたいことだ。君達『国守玉の脚』は『国守玉』と国が秘匿とするところで、絶対に他にはばれてはいけない存在だからね」

「先輩にはばれてますけど?」


 他人事のように言うユーゴにジンは突っ込むとユーゴは苦笑する。


「僕が知っていることは、『国守玉』の想定範囲内の情報のみだよ」


 ユーゴの言葉からある程度知られている情報のみだけだということだ。ユーゴがどれだけ味方だとしても『国守玉の脚』でない限り『国守玉』にとってマイナスとなる情報は絶対にユーゴ達一般人の耳には入らない。


 それがこの世界の道理。


 『国守玉』は神のような存在で意思を持ち力もある。だが自身で動くことが出来ないため、国守玉の意思のために動く『国守玉の脚』が必要不可欠だ。その『国守玉の脚』を守るのが国守玉の役目。だから『国守玉の脚』にとって不利になる情報は一般の耳に入ることはない。

 なのに、


「『国守玉』はこんな残忍なことを許したのか? 『国守玉』ならば阻止できたはずだ」


 ジンは奥歯をギッと噛みしめ吐き捨てるように言う。


「それは違うんじゃないかな」

「え?」

「『国守玉』も万能ではない。ジン達のように力を分け与えた『国守玉の脚』の者は把握できても、一般の人間がすることまでは把握出来ないはずだ」


 ジンはそこでアイラとリュカの前世を思い出す。


 ――確かにそうだ。もし『国守玉』が俺達『国守玉の脚』同様、一般の人間がすることまで制御できたのならば国守玉が愛するアイラが殺されることも国が滅びることもなかったはずだ。


「だから国守玉はあの場所を『国守玉の肢体』から外したんじゃないのかな」


 言われてそうだとジンも同意見だった。


 ――放棄しても大丈夫だと国守玉が判断したんだな。


 魔穴でも小さい魔穴は開いても自然に締まる。だが大きな魔穴は1度開いてしまうと閉まることはない。そこを国守玉は道を繋ぎ『国守玉の肢体』とし、浄化とその場所に魔穴から出てきた魔物等を閉じ込める、そして溜まった魔物をジン達『国守玉の脚』が出向き討伐、浄化をするのだ。

 しかし『罪人の墓場』の場所があまりにも地下深くだったため、『国守玉の脚』では処理できず本来国守玉の意思とは違う使われ方をし始めたため、あの場所を放棄したのだろう。


 ――あれだけ深い場所ならば、魔獣が出ても地上まで上がってくることはないと判断したのだろうな。


 だがそこで疑問が過る。


 ――あの場所の魔穴はもうなかった。なぜだ?


 『国守玉の肢体』となる場所の魔穴は大きいはずだ。自然に閉まることはないのだ。だとしたら誰かが閉じたのか?


 ユーゴの言葉には応えず何やら考え事をしているジンにユーゴは話を続ける。


「『罪人の墓場』に送られた罪人の中には本当に大罪を犯した者もいただろうが、やもえず罪を犯した者や罪が軽い者、そして冤罪の者もいたはずだ」

「……ですね」


 ――冤罪だった者はどれほどの思いだったのだろう。


 『国守玉の脚』として、いたたまれない気持ちになり下を向いて拳を握るジンにユーゴは言う。


「ジン、冷たいようだけど、起こってしまった過去を今ぐだぐだ考えてもしかたないよ。過去ではなく今起こっていることに目を向けないと」

「わかってます……」


 ――分かっている。だが昔の奴らに虫唾が走る。


 言葉とは裏腹に納得がいかず下を向いたまま拳を握るジンにユーゴは肩を窄める。


「ジン、過去の過ちだけを見て怒りを向けるのではなく、その中にある本来向けなければならない真実に目を向けなさい」

「?」


 ジンは目だけをユーゴに向け首を傾ける。


「気付かなかったかい? 今説明したように『罪人の墓場』の場所が利用されていたのは100年以上前の話だ。そしてその場所はどこにあるのか知られていないと言われていた。それが今使われたんだよ」


 そこでジンは目を見開く。


 ――今まで場所が分からなかったのは、あの場所が地下深くということもあるが、『国守玉の肢体』だったということだ。だとすれば俺達『国守玉の脚』の者しか分からないということ!


「犯人は『国守玉の脚』の者ということか!」


 そう口にしたが、ジンが知っている『国守玉の脚』の者の中に当てはまる者はいない。


「心当たりはなさそうだね」


 ジンの表情から読んだユーゴが言う。


「10キロ離れた場所、且つ1000メートル地下深くにある場所に転移させる魔法を付与するほどの魔力持ちの人物は俺が知る限り『国守玉の脚』の者の中には今は誰もいませんね」

「お前でも無理かい?」

「先輩、言っときますけど、俺は魔力量は多くない。ただ手持ちの札が多いだけです」

「謙遜だねー。まあ確かにあの場所に転移魔法で移動するには相当な魔力を消費するからね。僕の部下は誰1人と行けなかったよ。かろうじてブレッドが片道だけ行けただけだ。それをリュカ君は行って、人食いヒルを全滅させ、そしてアイラ君を連れて戻ってくるんだから凄いね」


 嬉しそうに言うユーゴにジンは目を眇める。


「あの場所に行ったんですか?」

「ああ。そりゃあ確認は必要だろ? で、結論から言うと、すべてヒルは倒されており、白骨化した遺体はすべてリュカ君によって埋葬されていた」

「……そうですか」

「だから後の結界魔法陣はよろしくね」


『国守玉の脚』の仕事だとユーゴは言外に言う。


「結界魔法陣を貼らなくても大丈夫です。あそこは魔穴は空いてないので」


 するとユーゴが片方の口角を上げる。


「なぜ魔穴がないことを知っているのかなー。おかしいなー。僕は魔穴の状態の話はしてないけど?」

「!」

「やっぱりジン、君もあの場所に行ったんだね」


 ジンはチッと舌打ちし正直に言う。


「リュカに連れて行ってもらったんすよ。気になるじゃないっすか」

「で、どうだった?」

「見たところただの洞窟でした。だからあの場所が『国守玉の肢体』だとは気付きませんでした」


 もし『国守玉の肢体』であるならば、ジンはすぐ気付くはずだ。だが何も感じなかったということは、昔は『国守玉の肢体』だったとしても今は機能していないということだ。


「それと言っときますけど、俺ではあの場所までは行けないっすよ」

「なんだ、言ってくれれば僕が連れて行ってあげたのに」


 わざと寂しそうな顔をするユーゴにジンは目を細める。


「そんな顔をしても騙されませんよ。先輩と一緒に行くとろくなことがないっすからね」

「ひどいなー。僕はいつも迷惑はかけてないはずだけど?」


 笑顔で言うユーゴにジンは


「そう思っているのは先輩だけっすよ。ほんとブレット副団長が可哀相だ」


 とブレットを見ると、うんうんと頷いているのだった。






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