58 誰が
とある一室で30代前半の男が魔道具の映写機に記録した映像を映し出した。
そこは『罪人の墓場』の映像だった。
映像は人食いヒルがいる場所の上から移したもので、1人の学生服を着た女性――アイラが転移されてきたところから始まった。そしてアイラが奥へと逃げて行く。それを見た男は眉を潜める。
「女子学生? レイは誰にあの魔術玉を売ったんだ」
だがこれは今の映像ではない。記録された過去の映像だ。男は嘆息する。
「まだ若いのに、ここで命を落とすことになるなんて運が悪かったな。だがこれも試作品の確認には必要なことだ。悪く思わないでくれ」
するとアイラが壁に背中をつけ、そして地面にしゃがみ込むのが遠くに見えた。
「恨むなら魔術玉を使った者を恨むんだな」
刹那、アイラの前に1人の学生姿の男子生徒が降り立った。
「ん? 誰か来ただと?」
そして次の瞬間、そこにいたすべてのヒルを一瞬で焼き払った。
「!」
だがそれと同時に映像も終った。男は笑う。
「へえ。学生であの場所に転移し、あの凄まじい魔法を使えるか」
遠くて顔は見えなかったが、服装から魔法学園アデールだということだけは分かった。
――女の子は助かった感じだね。よかった。それにしても予想外だ。まさかあの『罪人の墓場』の場所を特定し転移してくるとは。あれほど強い魔力持ちの学生がいたとはね。
男は映写機を消すと部屋から出る。するとサングラスをかけた男がやってきた。
「主君、どうでした?」
「ああ。成功だ。転移魔法が付与出来ていることが確認出来た」
「そうですか。よかった」
「それよりレイ、あの魔術玉を誰に売った? 私は私服を肥やす気に入らない貴族に売れと言ったはずだが?」
するとレイと呼ばれたサングラスの男が言う。
「言われたとおり気に食わない貴族に売りましたよ」
リゼットは露店で誰に売るか品定めをしていたレイに、最初から蔑ますような態度で話しかけてきたのだ。親の権力を自分の力だと勘違いしているリゼットの態度がレイの癇にさわったため、イゼットに決めたのだ。
話を聞いた男は、レイは自分が気に入った者以外に興味がなく、女子供関係なく容赦ない性格だったことを思い出し、レイに頼んだことを後悔する。
「で、誰が犠牲になったんです?」
「女子学生だ」
「へえ」
「それにその女子学生は生きている」
「え?」
どういうことだとレイは眉を潜める。
――あの場所には数十匹の人食いヒルがいたはずだ。ただの女子学生1人でどうにか出来るはずがない。
「何があったんです?」
「すべてのヒルを焼き尽くされたんだ」
レイは驚き目を瞠る。
「その女子学生がしたわけじゃないですよね」
「ああ。やったのは女子学生を助けに来た男子学生だ」
「あの場所に助けに来たんですか? それも学生が⁉」
レイは信じられないと驚き声をあげる。
「誰なんです?」
「それはわからない。ただ魔法学園アデールの黒髪の生徒だということだけは分かっている」
「アデール? ランカルじゃないのですか?」
「ああ。あの制服はアデールだ」
「へえ。珍しいですね。魔力が強い学生は必ずランカル学園へ行くようになっているのにアデールにいるとは」
「だから少し調べてくれないか?」
「わかりました」
レイは頭を下げ踵を返すと去って行った。するとまた1人、壮年の男性が男の所にやって来ると頭を下げる。
「主君」
「ベス、そっちはどうだ?」
「はい。順調に進んでおります」
ベスと呼ばれた男性は頭を下げたまま応える。
「そうか。そのまま進めてくれ」
「かしこまりました」
男はベスと別れ玄関へと向かう。すると今度は執事がやって来て頭を下げた。
「少し出てくる。馬車はいらない」
執事が男にコートを渡しながら言う。
「かしこまりました。街ですか?」
「ああ。情報収集は必要だからね」
そう言うと男は魔法で顔をまったくの別人に変える。それを見た執事が微笑む。
「今日はそのお顔ですか」
「ああ。用心に越したことはないからね」
「いってらっしゃいませ」
執事は頭を下げると男は外へと出て行った。
数日後、ジンはユーゴからアイラが『罪人の墓場』に転移させた魔術玉の結果が出たという連絡を受け王宮に呼び出された。
王宮の魔術師団の団長室へと行くと、そこにはブレッドもいた。
「来たな、ジン」
「用事があるなら、この前みたいに団長が俺の所に来てくださいよ」
不満顔で言うジンにユーゴは苦笑する。
「おいおい。君が僕に問題を丸投げしたんだろ?」
「何を言ってるんですか。元々そちらの仕事でしょう」
ジンも負けずに言い返してから本題へ入る。
「で、どうでした?」
「結果から言うと、特定は出来なかった」
「やはりそうですか」
魔術玉を触った時魔法の痕跡がまったく残っていなかったことに違和感を感じていた。もしかしたら痕跡を探られないように細工をしたのかもしれないと懸念していたが、やはりそうだったようだ。
「魔力の属性の特定は出来なかった。これを作った者は相当の術者で技術者だねー。商品にしたら売れると思うよ」
笑顔で言うユーゴにジンとブレッドは目を細め無言の抗議の目を向ける。
「ゴホン。冗談だよ」
さすがに度が過ぎたとユーゴは素直に謝った。そんな上司に呆れ嘆息しブレッドが言う。
「ここからは俺が説明するね、ジン。魔力の属性は分からなかったが魔力量はAランクの人物だということは分かった」
「Aランク?」
ジンは驚き目を瞠る。この国ではその者の持つ魔力量をSからEにランク付けしている。その方が把握しやすいからだ。そしてAランクと言えば、かなり魔力量は多く、魔術師団で言えば副団長クラスだ。
「だけどこれは憶測からだ。転移魔法という高度な魔法を付与出来るということ、そして転移する距離、場所などを考慮するとランクはAランクだろうと後付けしただけだけどね」
「Aクラスの人物というなら、王宮の魔術師クラスっすね」
それに応えたのはユーゴだ。
「うん。でも王宮に当てはまる人物はいなかった」
「じゃあ王宮で働いていない者の中にいるってことは、目星は付けてるんですよね?」
学生の頃にある程度ランク付けされ記録される。そのためほとんどの者の魔力量のデータが国にはある。それを調べればすぐ分かるはずだ。
「いや。調べたけどいなかった。すべての魔術師、Aランク以上の魔力を持った者を調べたが、誰1人一致する者がいなかったんだよ」
「じゃあそれは他の国から来た者ということですか?」
「そうだね。大人になってから他国から来ている者かもしれないね」
「それは他国がこの国に何か危害を加えるため?」
「それも一理あるが、僕はそれはないと思っている。この国でこのような小細工をしてまでする意味が他国にはないからね」
他国が侵略を狙っているのなら、この国で転移魔法の実験をする必要がないからだ。
「それにもう一つ、決定的な理由がある」
「決定的?」
「ああ。『罪人の墓場』の場所がどこにあったのか、リュカ君にジンは聞いたかい?」
「ええ。ウルビラ地区ですよね」
ジンは首を傾げながら応える。確かにウルビラ地区は学園からかなり遠い場所にある。だがそれがなぜ決定的な理由になるのかが分からない。
「ウルビラ地区もそうだけど、『罪人の墓場』のある場所だ」
「地下ですよね?」
「ああ。それも1000メートル下だ」
「!」
ジンは目を瞠る。
「せ……ん?」
その深さに驚く。まずそこまで深い場所を魔法で見つけることは不可能だ。
――だから今まで見つからなかったのか!
「リュカ君はどうやってあの場所を見つけたんだろうね。ジンは聞いているかい?」
「いえ。そこまで深いとは聞いていなかったので」
だがジンはなぜリュカが『罪人の墓場』の場所が分かったのかは知っている。リュカが国守玉が教えてくれたと言っていたからだ。その時はなぜ国守玉が教えたのかと思ったが、理由はあまりの深さでリュカでは場所が分からなかったからだったのかと今理解した。だがそのことをユーゴに言うつもりはない。
「ジンは知っているかい? 一説によると『罪人の墓場』は魔穴だと言われていることを」
「!」
「ここまで言えば何が言いたいか分かるよね?」
「元は『国守玉の肢体』だったと言いたいんすよね?」
「ああ」
――確かにそうだ。洞窟と大量の猛獣。大昔の場所だとすれば過去に魔穴が空いていた可能性は高い。ましてやそのような伝承もある。だが1000メートルも地下にあるのなら、その場所に行ける『国守玉の脚』は限られていたはずだ。
そこでハッとする。
「あの場所を『国守玉の脚』の者は放棄したのか!」
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