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57 今のほうがいい



 アイラが目が覚めると、そこは保健室だった。


 ――保健室? なぜ?


 そこで中庭であまりの疲れと眠さで寝てしまったことを思い出す。


 ――誰かが運んでくれたんだ。


 体を起こすと、


「起きたか?」


 と声をかけられ驚く。見れば、横のベッドにリュカが寝ていた。


「リュカ?」


 なぜリュカが寝ているのか?


「どうして寝てるの?」

「ジン先生に強制的に寝かされた」


 不本意だという顔で言う。まさか自分が寝させられるとはリュカは思わなかった。それだけ疲弊していたのだろう。やはり前世の時よりも体はまだ未熟のようだと実感する。もし前世ならば寝させられることはなかったはずだ。


 アイラは頭がはっきりしてきて、ユーゴがやって来て何やらジンとリュカと話していたことを思い出しハッとする。


「ねえ! グリフィス魔術師団長先生は?」

「グリフィス魔術師団長先生? なんだそれ」


 変な名前の呼び名にリュカは笑う。


「だって団長で先生でしょ?」

「普通にグリフィス先生でいいんじゃないのか?」

「そっか。そうだよね」


 どうも回帰前はグリフィス団長と呼んでいたため、団長を抜くのに抵抗があった。


「団長なら帰った」


 リュカも団長って言ってるじゃないかと思いながら「そうなんだ」と応える。


「どうなったの?」

「お前があの場所に飛ばされること自体が問題だったため、団長が動いてくれることになった」


 そんなことを話していた気もするが、まったく覚えがない。ほとんど記憶がないのだ。


「体は?」

「え? あ、うん、もう平気」


 そこでリュカがまだ寝ていることに首を傾げる。


「リュカ、もしかして起きれないの?」

「ああ。体が動かない」


 さっきから何度も起き上がろうとするが、体が鉛のように重く動かないのだ。体の魔力耐性量を超えた魔力を使ったからだろう。普通なら体の魔力耐性、魔力量、経験値が三位一体で成長するが、今のリュカの状態は、前世から引き継がれている魔力量と経験値だけが先走っている状態だ。そのため体だけが耐えれなくなり疲弊した状態になったのだ。


「ごめん。私のせいだよね」


 アイラは頭を下げて謝る。何をしたかは分からないが、自分を助けるために無理をしたのだけは分かる。


「謝るな。体が動かないのは俺のせいだ。配分を間違えたってやつだな。まだまだ未熟さを実感するよ」


 そう言って苦笑する。


「でも私を助けるのが原因なのは事実よ。リュカのせいじゃないわ」


 そう言って下を向くアイラにリュカは嘆息する。

 アイラを思って言っているわけではなく、本当に自分の体力、魔力を把握せずにしたことへの結果がこれだったのだ。もしこれが休みなく繰り広げられている戦場ならば致命的なミスだ。仲間に迷惑をかけるだけでなく、動けない体はただ命を奪われるのを待つだけなのだ。

 だがこれ以上自分のせいだと言ってもアイラは納得しないだろう。ただ堂々巡りするだけだとリュカは諦める。


「じゃあお互い悪かったということでこの話は終りだ。わかったな」


 眉根を寄せ嘆息しながら面倒くさそうに言うリュカに、アイラはこれ以上この言い合いはしたくないのだと理解し「うん」と頷く。ほんとわかりやすいとクスッと笑い言う。


「リュカも失敗するのね」


 失敗せず何でも完璧にこなす無表情の冷徹な魔術師団長だった前世とは大違いだ。


「当たり前だ。人間なんだ。失敗は何度もするだろ」


 少しムッとしながら言うリュカも前世のリュカとは別人に見える。


「完璧じゃない今のリュカの方が人間らしくていいと思うよ」


 笑顔で言うアイラの言葉はアイラが回帰したことを知らない者からしたらおかしいな言葉だろう。それに言った本人も気付いていない。

 そこが今のアイラらしいとリュカは思う。だから、


「お前もな」


 と応える。

 微笑むリュカを見てもアイラはもう驚かない。これが今のリュカなのだ。


「じゃあ次は私ね」


 アイラはベッドから下りるとリュカのベッドの横へ行き、リュカの額に手を当てる。


「何を?」

「お礼」


 そう言ってアイラはリュカに精霊魔法の1つ回復魔法を施す。


「おい。そんなことしたら!」

「大丈夫。寝たから。それに精霊魔法だから私の疲弊は関係ないから」


 それは精霊の力を借りているからという意味だとリュカは理解する。

 そして人生で初めて回復魔法をしてもらうことに気付く。今まで回復魔法をしてもらう出来事がなかったからだ。


 ――これが精霊魔法の力。


 なんて温かい魔法なのだと思う。

 自分が使う魔術の魔法とはまったく異質だと実感する。自分が使う魔術魔法は冷たい感じだが、精霊魔法はとても温かい感じなのだ。精霊魔法が誰でも使えないという意味が分かった気がした。


「はい。終ったわ」


 それにしてもアイラの精霊魔法は早い。前世で精霊魔法士がマティスに施していたのを何回か見たことがあるが、もっと時間は長かった。だがアイラが施す時間はとても短い。やはりそれだけアイラの精霊魔法の魔力が強いということなのだろう。


「もう体は動くはずよ」


 言われて体を起こしてみれば、すうっと起きれた。鉛のように重かった体は今はそんな感じは微塵もない。それに疲れもまったくないのだ。


「凄いな……。精霊魔法の回復魔法って」


 本心からそう思う。


「初めて?」

「ああ。やってもらう機会がなかったからな」


 前世の時から怪我することがあってもかすり傷程度だったため自分で治せるし魔力切れもなかったからだ。


「今何時なのかな?」


 そう言ってアイラは時計を見てゾッとする。


「さ、3時! どうしよう授業サボっちゃった」

「大丈夫だろう。ジン先生がうまくやってくれているはずだ」


 するとそこへ噂のジンがやって来た。


「お! 2人共起きてるな」


 そしてリュカが起きていることに驚く。


「お前、もういいのか?」

「アイラが回復魔法をしてくれました」

「そうか。さすがだな」


 そしてアイラの鞄とリュカのリュックをそれぞれ渡す。


「一応リュカは家の用事で早退、アイラは体調不良で早退にしたからな。もう帰っていることになってるから、みんなに見つからないように下校するように」


 すると2人は目を眇め不満全開の顔をジンに向ける。


「なんだよ。不満そうだな」

「見つからないようにどうやって帰るんだ」

「ほんとよ」


 基本学校の登下校は転移魔法は禁止だ。ましてや膨大な魔力を消費する転移魔法を使えば学校側に魔力量が多いことがばれてしまうため、リュカが使うことは出来ない。そうなるとどうしても歩いて帰るしかない。

 それを分かっているのかと文句を言う2人に、ジンは大袈裟に嘆息する。


「おまえらなー。文句を言う前にまず俺に感謝しろ。ったく今のガキはお礼も言えねえのかよ」

「じゃあ、ありがとうございました」

「一応、ありがとうございました」


 棒読みでまったく心がこもっていない2人にジンは、


「お前ら、相変わらずよく似たいい性格してやがるなー」


 と愚痴る。

 だが2人の不満顔はまったく変わらず反対に睨んでくる。


「はあ、わかったよ。送って行けばいいんだろ」


 そこでリュカとアイラの機嫌は少し良くなったのだった。




いつも読んでくださりありがとうございます。

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