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54 今回は……



 回帰前の牢屋で背中から刺され、胸から血が大量に流れ落ち、痛さで倒れる映像と感覚がフラッシュバックする。


 ――またあの時と同じで1人で死ぬんだ……。


 そう思った時だ。


 タンっとアイラの目の前に誰かが降り立った。


「アイラ!」


 呼ばれてばっと顔をあげる。リュカだ。


「リュカ……」


 顔をぐちゃぐちゃにしながら呟く。そんなアイラの周りに結界が張られた。


 そしてそれは一瞬だった。


 リュカがヒルへと手を翳した瞬間、その場にいたヒルの群れは地面から爆発するように燃え上がる巨大な炎によって突き上がりながら焼け、灰となって消えたのだ。


「!」


 凄まじい炎が立ち上っているのにまったく熱さを感じない。それはリュカがかけた結界のおかげだと分かる。


 ――すごい……。


 見とれていると、リュカが振り向き膝を折りアイラの両肩を持ち言う。


「大丈夫か! 怪我は?」


 心配な顔を向けるリュカを見て、回帰前の牢屋で死にゆく自分に駆けつけた時のリュカが重なる。そう思った瞬間アイラの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。それを見たリュカは驚き焦る。


「なっ! どこか怪我をしたのか?」

「ち、ちがう」


 アイラは首を横にブルブル振る。


「ただ……安心して……」


 そう言いながら手で涙を拭き、泣きやもうとするが涙が止まらない。そんなアイラを見て、怪我がないことと無事だったことにリュカは安堵のため息をつくと呟く。


「間に合ってよかった……」

「!」


 その言葉でアイラはリュカに抱きつき子供のように大声で泣いた。


 回帰前は間に合わなかったが、今回は間に合ったと聞こえたからだ。


 子供のようにしがみつき大声で泣きじゃくるアイラをリュカは黙って受け止め抱きしめた。


 ――今回は間に合った。


 自然とアイラを抱きしめる腕に力が入る。


 リュカも探している間、前世の牢屋で死に行くアイラの姿が頭を過っていた。

 また前世と同じで助けられないのではないのかと言う不安がリュカの心を覆い尽くしていた。だがアイラの居場所は分からず無情にも時間だけが過ぎていった。すると何かの力を感じた瞬間、リュカの脳裏にある場所の位置とアイラがいる映像が入ってきた。

 それを教えたのが誰なのかすぐに分かった。


 ――国守玉こくしゅぎょく


 刹那、リュカは転移しアイラの場所に降り立ったのだ。


 アイラが泣き止むのに相当時間がかかった。だがその間リュカは黙ってアイラを抱きしめていた。

 泣き尽くしアイラも落ち着いた頃、今の自分の状況に気付く。大声で泣いたこともそうだが、抱き合っていることに恥ずかしく顔を上げれない。どうしたものかと困っていると、


「もう大丈夫か?」


 とリュカがそっと腕を緩め体を離した。


「う、うん。ごめん」

「いや、いい」


 そう言ってリュカは立ち上がると、アイラの手を取り立ち上がらせる。そして何事もなかったように首を巡らせ周りを見渡し始めた。


「それにしてもここはなんだ?」


 アイラも気まずさを気付かれないように平常を装い応える。


「わからない。でも奥にたくさんの人間の骨があったわ」

「人骨?」


 そう言うとリュカは奥に歩き出した。


「ちょ、ちょっと大丈夫なの?」


 アイラは慌てて後を追う。


「ああ。もうここには猛獣はいない」


 リュカは砕けた人骨がある場所まで来るとしゃがみ人骨を手に取り言う。


「なるほどな。ここがそうだったか」

「?」

「ここは『罪人の墓場』と言われている罪人などが放り込まれる場所だ」


 昔、罪人などをこの場所に送り込み命を奪っていたという『罪人の墓場』があると聞いたことがあった。だが今は使われておらず、どこにあるのかも分からないと言われている場所だ。


「ちなみにここってどの辺りなの?」


 地下だからか場所がまったくわからない。


「ここは学園から10キロ離れたウルビラ地区だ」

「そんな遠いところ!」

「ああ」

「そう言えば、リュカは私がここにいるって何故わかったの?」


 転移した時には周りには誰もいなかったはずだ。だから絶対に分からないと思っていた。


「中庭に行ったら怪しい魔術玉があったんだ。調べてみたらお前が吸い込まれたのがわかった。この場所は……探索魔法で探した」


 説明が面倒なので国守玉のことは伏せる。


「そうだ! あの魔術玉、リゼットが!」

「だろうな。側にいたからな。だが自分は何も知らないと言っていた」

「え?」


 アイラは唖然とする。


「知らないって……。相変わらずね。やっぱり悪戯だったんだ」


 ムッとするアイラに対しリュカは言う。


「悪戯にしては度が過ぎている。この転移魔法は普通の者では手に入らないし付与できない代物だ」

「それって……」


 魔術には誰でも出来る魔術と、知識がないと出来ない魔術がある。アイラが転移させられた魔術は後者のものだ。


「この転移魔法は普通では出来ないものだ。それも今では禁止されているものの1つだ。それを学生が手にすることはまず無理な話だ」

「!」


 それは故意にリゼットに渡したことになる。


「ちょ、ちょっと待って。それって私を殺すために?」


 回帰前の記憶が蘇る。


「いや、それは違うだろう。たぶんアイラがターゲットというより、試作で誰でもよかったのだと思う」

「え?」

「詳しい話は戻ってからだ。まず戻るぞ」

「う、うん」


 リュカはアイラの肩に手を置くとその場から消えた。

 次に現れたのは学園の中庭だった。


「え?」


 ――確か10キロ離れているって言ってなかった?


 一度でこの距離の移動はまず学生ではあり得ないのだ。


「アイラ! 無事だったか!」


 見ればジンだ。


「怪我は?」

「どこも怪我してません」

「そ、そうか……はあーよかったー……」


 ジンは安堵のため息をつくと、リュカへと視線を向ける。


「リュカ、よくやった。で、アイラはどこにいたんだ?」

「ウルビラ地区の地下深くです」

「はあ? そんな遠くだったのか!」

「ええ。それも『罪人の墓場』でした」

「なんだって!」


 ジンは眉根を寄せる。


「それって」


 その時だ。1人の人物が転移魔法で現れた。


「!」


 リュカとジンはその人物へと視線を向ける。


 そこにはユーゴがいた。







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