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49 妬み、嫉み



「ライアン、」


 ライアンはマティスの言葉を遮るように言う。


「殿下、俺は納得はいってないが、決まったことにとやかく言うつもりも権限も俺にはないから言わねえ。だが分かってるよな? 貴族の生徒を選ばず一般市民のアイラを選ぶことで今後どういうことになるか」

「君! 言葉に気をつけなさい」

「さっきから殿下に対して態度が悪いぞ」


 護衛のギルバートとケインの牽制とも言える言葉にライアンは、


「事実を述べただけだろ」


 と、まったく動じずムッとしながら言い返す。そんなライアンの肩にリュカは手を置き首を横に振り、それ以上言うなと言外に言うと、ライアンは「わかってるよ」と言ってプイッと横を向いた。


「君! いい加減に――」


 声をあげかけたケインに、マティスは手をあげ制する。


「ギルバート、ケイン、学園にいる時は僕に対しての言葉使いは気にしなくていいよ」


 そう言い、ライアンに視線を戻し言う。


「ライアン、君の言う通りだ。分かってる。気をつけるよ」

「約束だからな」

「ああ」

「殿下、そろそろ時間です」


 ギルバートが時計を見ながら言う。


「わかった。じゃあ」


 そう言ってマティスは去って行った。


「ライアン、俺もマティスと行く」

「ああ」


 リュカもマティスの後を追った。それを見送りライアンはアイラ達の所に戻るため食堂に入ると、アイラの周りに生徒が集まっているのに気付いた。ライアンは嫌な予感がし急いでアイラ達の元へと行く。すると予想外な会話が聞こえてきた。


「ねえ。殿下と知り合いなの? 凄いわね!」

「殿下とはどういう関係? 友達なの?」


 ライアンが危惧した批判や嫉妬の類いの言葉は聞こえてこない。


「いいなー、私も殿下と話したい!」

「私も!」

「やっぱり殿下って近くで見ても、美しいわー」

「殿下ってどういう性格なんだ?」


 皆アイラに罵声を吐くことはなく、マティスはどういう人物なのかが気になりアイラに聞いている感じだ。それを聞いてライアンは目を丸くする。


 ――どういうことだ?


 するとカミールが隣りにやって来た。


「ライアン」

「カミール、なんか上の階の貴族やつらとは反応が違うな」


 するとカミールも苦笑しながら頷く。


「そうだね。AクラスやBクラスの生徒はプライドが高いからか妬みや嫉妬がほとんどだけど、Cクラスより下のクラスの子達は一般市民が多いからか、住む世界が違う殿下への憧れと興味からアイラに好意的な者が多い感じだね」


 AクラスやBクラスの生徒は、親からの圧力もあり、マティスとどうにかして仲を深めようと日頃から努力をしている。そして位の高い貴族出身の女子生徒は少しでもマティスの気を引こうと毎日火花を散らしているのが現状だ。今回のようなことがあれば、アイラはすぐに嫌みを言われ罵倒されるのがオチだ。

 だからアイラは食堂にいた者達から妬みや嫉みを受けるものだと思っていたが、見る感じそんな感じは微塵も見受けられない。


「上の階の貴族やつらもこうなればいいのに」

「理想はそうだけど、それは難題だね。絶対に貴族の親が許さないだろうからね」


 確かにそうだとライアンも思う。


 学園を運営していく上で手厚い教育や環境、設備を充実させるためには貴族の援助が必要不可だ。そのため貴族の反感は極力避けたいと学園側は思っている。

 学園が出来た当初は貴族と一般市民の生徒は一緒のクラスだった。だがすぐに貴族の親と生徒から一般市民の者達と同じクラスにするとはどういうことだと文句が出た。生徒同士の喧嘩が起きれば、貴族の親が出てきて、相手の一般市民の親へと圧力をかけたりしていた。

 そのため学園側は、前世のアイラのように成績優秀な者は例外とし、貴族と一般市民のクラスと食堂の階を分け、会う機会を最低限にした。そして貴族の生徒が通うクラスは煌びやかにし、貴族の親のご機嫌を取ったのだった。

 結局貴族優先の優遇体勢の学園の方針にライアンは許せなかった。だから反抗して学園の授業を受けなかったりテストを白紙で出したりしていた。

 だが学園生活を送るようになり、色々な出来事を目の当たりにすると、やはり現実は皇族や貴族に逆らうことは難しいのだと気付かされた。

 最近は少し父親の気持ちが理解できるようになったが、やはり面白くない。


「ほんと貴族はやだねー」

「君も貴族だけど?」


 カミールが笑いながら指摘する。


「うるせえ。あいつらとは俺は違うんだよ!」


 ムッとして反論するが、すぐに笑顔になり食堂を見渡し言う。


「やっぱ俺はこっちの雰囲気の方が好きだわ」


 カミールも


「僕も同意見だね」


 と微笑んだ。



 マティスが学年別合同魔術トーナメント大会のチームにアイラを誘ったことはすぐにリゼットの耳にも入った。

 廊下を1人で歩いていると、前から来た女子生徒に声をかけられる。


「あらリゼットさん。聞きました? 殿下がまさかEクラスの一般市民の生徒を誘うなんて驚きましたわね。私はてっきりリゼットさんが選ばれるものだと思っていましたのに」


 そう言いながら少し含み笑いをするのは、リゼットと同じ地位で父親が大臣をしているマリアンヌだ。口では味方のような振る舞いをしているが違う。日頃からリゼットを敵視し、どうにかリゼットよりも優位に立ち一泡吹かせようと常に考えているのだ。今もわざわざリゼットに言いに来たのだ。この態度が気に食わない。


「あらマリアンヌさんこそ、てっきり殿下からお誘いがあると私は思ってましたが、違いましたね。あ! マリアンヌさんは私と違って、まだちゃんと殿下とお話になったことはなかったのでしたわね。それじゃあ誘われるわけないですわね」


 リゼットも負けずに笑顔で言い返すと、マリアンヌから笑顔が消え悔しさで顔が歪む。


「あら、ごめんなさいね。気にしていらしたかしら?」


 わざとらしく哀れむような顔つきで言うと、マリアンヌはキッと睨み「ふん!」と横を向き去って行った。それを見てリゼットは鼻で笑う。マリアンヌはリゼットよりも地位も顔もすべてにおいて劣るため敵視するほどの人物だとは思っていなかった。


「あんたなんて私の敵ではないわ」


 そしてまた歩き出す。廊下ですれ違う生徒達がリゼットに挨拶をしてくるため、リゼットも笑顔で応える。するとやはりマティスがアイラを誘ったことを話している生徒達がチラホラ見てとれた。だがリゼットの姿を見ると「あっ!」という顔をして話を止める。皆口には出さないが、マリアンヌと同じことを思っているのだろう。怒りが込み上げる。


 ――アイラ・フェアリー!


 リュカとほぼ毎日居残りをして特訓か何かをしているだけでも気に入らないのに、マティスがわざわざ出向いてまでチームに誘ったとなれば、怒りしか沸いてこない。

 そしてアイラの態度が余計に癇にさわる。アイラはリゼットが貴族であるにも関わらず、怖じ気づくこともなく堂々とした態度で言い返してきたのだ。同じ16歳なのに、どこか落ち着きがあり何の迷いもなく、怖いものも何もないと言わんばかりの堂々とした態度にリゼットは恐怖さえ感じたほどだ。そんなアイラが、すべてにおいてリゼットよりも劣るのに、マティスから誘われ、リュカとも親しいことがどうしても許せなかった。


 リゼットはギッと歯を食いしばり、眉根を上げ憎しみに満ちた顔で言う。


「ほんとあの女目障りだわ。見てなさい。思い知らせてやるんだから」








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