48 マティスの誘い
昼食の時間、CクラスとDクラスが使う食堂にマティスとリュカがやって来た。珍しい人物に食堂にいた生徒達は目を見開き驚く。そんな注目の中マティスは、サラ、ライアン、カミールと一緒にいたアイラの元へと来ると声をかけた。
「アイラ」
「え? マティス?」
なぜマティスがここに来たのだとアイラは驚く。するとマティスは唐突に言った。
「合同魔術トーナメント大会に一緒に出てくれないか?」
「!」
アイラもだが、そこにいた全員驚き見る。アイラはどういうことだとその後ろにいたリュカを見れば、罰が悪そうに目を合わせないようにしている。
――もう! 都合が悪いと目を合わせないんだから!
ムッとしているとマティスは眉根をハの字にし申し訳なさそうに言う。
「リュカと組む予定なんだけど、女性1人がまだ決まらなくてね。アイラにお願いしたいんだ」
その言葉で生徒のざわつきが大きくなった。
「殿下が誘われた!」
「あの女子生徒はどこの誰だ?」
「え? あの子、Eクラスよね? 殿下とどのような関係なのかしら?」
「誘われて羨ましい!」
その周りの声を聞きながらアイラは顔を引きつらせる。それを聞いているライアンとカミール、サラはあまりの驚きからか、ただ固唾を呑んで成り行きを見守っている感じだ。
「駄目かな?」
子犬が不安な目で訴えてくるような顔で聞いてくるマティスにアイラは「うっ!」と体を後ろに引く。
――そんな顔でお願いされたら断れないじゃない。
前世からそうだ。マティスのこの困った顔にアイラは弱い。それにこんな大勢の前でマティスからの誘いを断れるはずがない。
「い、いいですよ……」
そう応えるとマティスはパァっと笑顔に変わった。
「ほんとかい! ありがとうアイラ」
すると隣りにいたライアンが顎肘をかきながら声を大にして言う。
「そりゃあこんな公衆の面前で皇太子に誘われたら断れねえよなー」
「ライアン!」
サラが咎めるように声を上げる。その言葉にマティスは目を見開き絶句した。
「なんだよ殿下。今気付いたみたいな顔するんじゃねえよ。どうみたって――」
「ライアン、ちょっとこい」
ライアンの言葉を遮るようにリュカはライアンの腕を掴み立たせる。
「な、なんだよリュカ! 俺の話はまだ終ってねえ!」
「いいからこい!」
「嫌だね! あのなー殿下!」
そこでリュカはライアンの口を魔法で塞ぐ。
「ん! んーんー!」
話せなくなったライアンは怒り暴れるが、リュカは強引にひっぱり食堂を出て行った。するとマティスが申し訳なさそうに言う。
「もしかして嫌だった? 嫌なら」
「嫌じゃないわ。だからライアンの言うことはマティスは気にしないで。私もポイントが欲しいし、ちょうどよかったわ」
「じゃあいいってこと?」
「ええ」
「よかったー。ありがとうアイラ。また詳しいことがわかったら連絡するよ」
そう言うとマティスはアイラ達から離れていった。するとマティスは他の生徒達と話し始めた。それを横目で見ながらサラが心配そうに言う。
「本当によかったの? アイラ」
「うん」
アイラが断れば悪者扱いされるという理由もあるが、マティスが大会に出れなくなり悲しむことがわかっているからというのが一番の理由だ。
皇太子という立場からマティスが参加出来る行事は限られている。今回の大会は唯一マティスが出ることが出来る大会なのだ。そしてこの大会をマティスが楽しみにしていることは前世で経験済みだ。アイラは前世でもマティスと同じチームでこの大会に出ていた。その時はリュカはいなかったため違う者だったが、とても楽しそうに参加していたのだ。それを知っていてるため断ることが出来なかった。
するとカミールが言う。
「これだけの人が見ている中で殿下の誘いを断ることなんて普通出来ないしね」
「え? 殿下はそれを狙ってここでアイラにお願いしたってこと? あざといわね」
サラは少しムッとして言う。だがアイラの考えは違った。
「違うわ。マティス殿下はそんなことは微塵も思っていないわ」
前世もそうだ。マティスは周りのことをあまり気にしない。だから今もお昼しかアイラに会えないから来ただけだ。ライアンに指摘されて初めて気付いたことも分かっている。そのような顔をしていたのが証拠だ。
「ライアンに言われて気付いたのよ」
「よく殿下のことわかってるわね」
「え? そ、そんなことないわよ。さっきの表情を見てそう思っただけよ」
アイラは慌ててそれらしきことを言う。
「でも冷や汗ものだったわ。ライアンが殿下につっかかるとは思わなかったわ」
サラはライアンの態度を思い出しゾッとする。カミールも同感だと頷く。
「ほんとに。リュカが連れ出してくれて助かったよ。あのままだとライアン、殿下を侮辱した罪で捕まるとこだったから」
確かにその通りだ。あのままライアンが思ったことをマティスに言っていたら、後ろにいたケインとギルバートが許さなかっただろう。
そのライアンといえば、リュカと食堂の外にいた。
「離せ! リュカ! なぜ邪魔をする!」
腕を掴んでいたリュカの腕をライアンは振りほどき叫ぶ。
「落ち着け。あそこでマティスに文句を言えば、お前は侮辱罪で護衛のケイン氏達に捕まっていたぞ」
「学生なんだ。学園で起こったことで捕まらねえだろ!」
「それは敬語や態度の話だ。だがマティスへの侮辱は別だ」
「侮辱じゃねえ! 真実を言ってやりたかっただけだ!」
ライアンは声を荒らげ反論する。だがリュカはそれには乗らずただ静かに諭すように言う。
「お前はそうかもしれないが、マティスの護衛の2人はそうはとらない。真実を言ったことでマティスが傷付けば、それは大きな侮辱罪に成りかねない」
「傷付くだと? 殿下はわざと大勢の前で誘ったんだろ。アイラは断れなくなるからわざと言ったしかねえじゃねえか!」
「いや、マティスは気付いていなかった。お前が言ったことで初めて気付いたんだ」
ライアンが言った後のマティスの顔を見れば分かる。あの表情は言われてはっとした顔だった。
「嘘だろ? 本当に気付いていないとお前、本気で言ってるのか?」
ライアンは眉を潜めながらリュカを見る。
「ああ。小さい頃から一緒だったんだ。マティスの表情を見れば分かる」
真剣に言うリュカにライアンは鼻で笑う。
「はっ! さすが幼なじみで殿下の忠実な犬だな」
バカにした言い方をするライアンに対してもリュカは顔色1つ変えない。そんなリュカを見てライアンは少し下へと視線を向け謝る。
「悪い……言い過ぎた……」
「いや、いい。本当のことだ」
そう言ってリュカは微笑む。前世では罵倒や嫌みを言われるのは日常茶飯事だった。だからライアンに少し言われてもまったく気にしていない。それにあながちマティスの忠実な犬というのは間違っていないのだ。そしてライアンが怒っている理由も分かるため、怒る気にはなれない。
「確かにマティスのしたことはよくない。あの場面でアイラは断ることは出来ないからな。だがマティスは本当に下心があってあの時間を選んで言ったわけじゃない。マティスがアイラと会える時間があの昼の時間しかなかったからだ」
「だからって俺は殿下のしたことが正しいとは思わねえ」
ライアンはムッとして言う。
「確かにそうだ。アイラに頼むのであれば、今日じゃなくても他の日の放課後とかでもよかったからな。だが今マティスは色々忙しい身だ。後回しになっていたことも確かだ」
するとライアンが頭を掻きながら言う。
「まあ……ありがとな。確かに少し軽率だった」
冷静になったライアンにリュカは微笑む。
「ライアンは別に悪いことをしていない。アイラのためにしただけだからな」
そしてライアンはリュカを見る。
「アイラの実力からして大会はきつい。だからリュカ、お前がホロしてやれよ」
「ああ分かっている。そのつもりだ」
そこへ話が終ったマティスが出てきた。リュカに気づき声をかける。
「リュカ」
「話は終ったか?」
「ああ。アイラに承諾をもらったよ」
「そうか」
マティスはリュカの横にいる不機嫌な顔を見せるライアンに声をかける。
「ライアン、」
ライアンはそんなマティスの言葉を遮り言う。
「殿下、俺は納得はいってないが、決まったことにとやかく言うつもりも権限も俺にはないから言わねえ。だが分かってるよな? 貴族から相手を選ばず一般市民のアイラを選んだ理由がどういうことになるか」




