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47 マティスは誰と?



 それから数日後、リゼットはリュカとアイラが何をしていたのかを調査させた。そしてその結果の資料が届き、執事がリゼットに説明した。


「リュカ様とアイラ・フェアリさんが使っていたあの場所は教師1人に与えられる体育館で、ジン・ベレス非常勤教師の体育館だということは分かりました」

「教師1人に与えられるの?」

「はい。教師の魔術の練習、生徒の補強など、使い道は何でもいいということです」

「じゃあなに? ジン先生があの2人に何か指示してやってるってこと?」

「そのことですが、中で何が行われているか解らなかったようです。ただアイラ・フェアリさんは追試試験を受けていてジン教師がその担当だったことから、何かしら魔術の特訓をしている可能性が高いかと」

「なぜうまくいかなかったの?」


 リゼットが調査を頼んでいる民間の調査会社は、スパイや探偵すべてにおいて秀でた者が集まる国では一番の調査会社だ。


「それが、今回なぜかすべて阻まれてうまく調査出来なかったとのことです。調査会社曰く、こちらの動きをすべて把握され、うまくかわされている感が否めないということでした」

「え? じゃあなに? 誰かが邪魔しているということ?」

「はい。それもかなり優れた者ではないかとの話でした。リュカ様かアイラさん、ジン教師のどなたかに優れた密偵部隊並みのプロが着いているのではないかというこでした」


 リゼットは顎に手を当てて考える。


「アイラ・フェアリは一般市民だからそんな人を雇うことは出来ないわよね。だとしたらリュカ君かジン先生のどちらかということよね」

「はい。まずあの体育館の結界は特殊な結界で、調査員でも中に入ることはできませんでした。だとするとジン臨時教師の者かと思われます」

「ジン先生の家は何をしているの?」

「商社のようです。ですが、ベレス教師の父親と兄は3年前不慮の事故で亡くなり、今はベレス教師と妹の2人のようで、その時商社をベレス教師が受け継いだようです。ですが、事業は縮小し細々とやっているとのことです」

「だから教師をしているのかしら」

「かもしれません。あとベレス教師の家系は謎が多く、そして調査するのに問題が発生しまして」

「問題?」

「はい。調査会社の話では、国守玉と王家が関与している家系のようでして、説明が付かない邪魔が入るのと王家からも調べるのにも制限がかかっていることから、『国守玉のあし』なのではないかとのことです」

「『国守玉の脚』?」


 リゼットは初めて聞く言葉に首を傾げる。


「はい。国守玉を守る家系と言っていいでしょう。その家系は国守玉の守護を受け、国守玉の命令を影で動く者達から『脚』と言われています。ですから特殊な能力を持ち、王家からも守られている家系でございます」

「そんな家系があったのね」


 リゼットは宝物を見付けた時のように目をキラキラさせる。そんなリゼットに執事は苦言を呈す。


「お嬢様、絶対に『国守玉の脚』の方にめったやたらに軽い気持ちで手を出してはいけません」

「な、何を言ってるのよ」


 慌てるリゼットに執事は図星かと嘆息する。


「いいですかお嬢様。『国守玉の脚』は国守玉が願うように動く者達です。ですからそのような者に邪の心で近づいたら、下手すればこの家だけでなく家系自体が滅せられてしまいます」

「ま、まさかそんな……」

「調査会社もそれを分かっていてベレス教師の調査をそれ以上することをやめています。どんな偉い貴族の者もとことん調べるトップの調査会社が手を引いているのです。それだけ警戒しているということです」

「!」

「ですから分かりましたね。絶対におやめください」

「あ、当たり前でしょ。そんなことするわけないじゃない」


 リゼットは顔を青ざめ言い返す。この地位を奪われたらたまったものではない。


「じゃあアイラ・フェアリに関して他になにかある?」


 執事は資料を確認する。


「マティス殿下とも友達のようです。リュカ様の関係からかもしれないですが。そのぐらいですかね」

「そう。もう下がっていいわ」

「はい」


 執事は頭を下げ部屋を出て行った。リゼットはソファーの背もたれにもたれる。


「まさかアイラ・フェアリ、リュカ君のみならず、殿下にも手を出すなんて生意気ね。でもどうせ殿下は相手にしないでしょうけど。気にすることはないわね」


 だがリゼットの考えは数日後崩れ落ちるのだった。




 学年別合同魔術トーナメント大会が2週間後と迫った。

 この大会にはマティスも参加する予定だったが、参加の申し込みの締め切りが迫っているにもかかわらずまだ申し込みをしていなかった。

 この大会の参加条件は、3人一組が参加条件で、3人中1人は異性と組まなければならないというルールだ。

 どんな行事でも皇太子であるマティスがチームに誘うのが基本で、マティスを自分のチームに誘うのは御法度だ。そのためマティスが誰を選ぶのかが話題になっていた。


「1人は殿下の幼なじみのリュカ君で決まりよね」

「そうね。だとしたらもう1人は女性よね。誰と組むのかしら?」


 クラスの女子生徒の話題はそのことで持ちきりだった。

 そしてマティスと一緒のチームになりたい女子生徒は、誘うことは出来ないがアピールすることは出来るため、最近ではマティスが登校すると皆マティスを取り囲み、


「殿下、お出になるんですよね? 女性はどなたをご指名されるのですか?」

「もうお決めになっていらっしゃるのですか?」

「私はまだ誰とも組んでいません。空いてますわ」

「私、シールドが得意なんです」

「私、魔術には自信がありますの」


 等と、自分をアピールをするのが朝の日課になっていた。そして大会に出ない者達は皆、誰が選ばれるのかと噂した。

 その中でリゼットだけは、そのようなことはせずに遠巻きに見ていた。するといつも一緒にいる取り巻きの女子生徒達がリゼットを囲み言う。


「あの子達、殿下にアピールしても無理なのにね」

「殿下とチームを組むのはリゼットさんに決まってるのに」

「そうよね。殿下とよくお話されているのもリゼットさんなのよ。リゼットさんに決まってるわ」

「ほんとうに。あの子達、少しでも自分に可能性があると思っているのかしら? 可哀想に。誰か教えてあげたほうがよろしいんじゃない?」


 そんな女性達の言葉にリゼットは、


「まだそうと決まったわけではないわ。そんなこと言ってはあの子達に失礼よ、それに私なんて選ばれるわけないわ」


 と謙遜な反応をみせるが、内心は違った。


 ――そうよ。よく分かってるじゃない。この学園で私が一番ふさわしいに決まってるわ。


 そうリゼットは自分が選ばれると信じて疑わなかった。だからマティスにアピールすることもしないでいたのだ。


 ――ああ。いつ殿下は誘ってくれるのかしら。リュカ君ともまた一緒に出来るのね。


 リゼットは顔が緩むのを我慢することができなかった。



 そのようなことが1週間続き、参加の申し込みの締め切りの日、いつものように朝からアピール地獄を受けたマティスがリュカの所へやってきた。


「大変だな」


 リュカは哀れむような目をマティスに向ける。


「あはは……ほんとに」


 さすがのマティスもうんざりのようだとリュカは苦笑し訊ねる。


「どうするんだ? 今日受付が締め切りだろ? やめるのか?」

「いや。参加する」


 大会にはリュカはマティスから誘われていたので、あとは女性1人だ。


「じゃああと1人、誰にするのか決まったのか?」

「ああ。最初から決まっている。ただ、まだ許可を取ってないんだよね。だからお昼に頼みに行こうと思って。だからリュカも一緒に来てくれ」


 想像はつく。マティスの知り合いでお昼にしか会えない女子生徒は1人しかいないのだ。


「アイラか?」

「うん。よくわかったね」


 なぜわかったのかとマティスは驚く。


「おまえの考えなどすぐわかる」


 前世のマティスの気持ちを考えれば自然とそうなることは明白だった。


「そうか。アイラ一緒にやってくれるかなー」


 そう言って微笑むマティスに、


「大丈夫だろ」


 と応える。皇太子に誘われて断れる者などいないのだ。だがアイラの気持ちを知っているリュカとしては複雑な気持ちになるのだった。







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