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44 誰が何のために



 ジンが屋敷に戻ったのは夜だった。なぜかとても疲れている感じだ。


「遅かったですね」


 リュカが言う。


「ちょっと気になることがあったからな。アイラはどうだ?」

「さっきまで起きてましたが今は寝ています」

「そうか。リュカ、ちょっといいか?」


 2人はアイラを起こさないように静かに部屋を出ると、ジンの書斎へと移動する。


「王宮はどうでした?」

「ああ、やっぱユーゴ先輩にはばれたわ」

「やはりそうですか」


 リュカは笑う。ユーゴにばれることは2人で話していたことだ。


「やっぱりあの人すげーわ。お前のことも気付いていやがった」

「でしょうね。あの人は1度知った魔力は忘れませんから」

「あれだけ入念に痕跡を完璧に消したんだぜ。それなのにばれるのは反則だろ」


 口を尖らし言うジンに子供かとリュカは苦笑する。


「あの人は痕跡を少し遡ることが出来ますからね。隠すのは無理です」

「そうなのか? 知らなかったぜ。まだ能力隠していやがったか。まあお互い様か」


 そしてジンは真顔になる。


「でだ。少し気になることを聞いた」

「?」


 リュカは首を傾げる。


「きのう魔獣が出る前、王宮の厨房でボヤ騒ぎがあったそうだ」

「……はあ。それが?」


 リュカは無表情で言う。別に不思議なことではない。


「ボヤがあったのは朝早くだ。それも火を使っていない時間帯だ」

「前の日に使ってた火が燻っていたんじゃないんですか?」

「そうだお前みたいに普通はそう思うから不審がらない。だから犯人は行動しやすい」

「え?……」


 リュカは眉を潜める。


「ここは王宮だぜ。そして厨房は地下。同じく地下にあるのは国守玉。だから俺らは厨房に勝手に防火魔法をかけている」

「勝手に?」

「ああ。勝手にだ。だからそれを知っているのは俺と厨房の料理長だけだ。あ、ユーゴ先輩も気付いているかもな」

「無許可でしていいんですか?」

「一般的には駄目だろうな」

「普通に駄目でしょ」

「そんなことは今はいいんだよ。だからあの場所で調理以外の火が出ることはないんだよ」


 そこでリュカはジンが言いたいことを理解する。


「それって!」


 リュカの反応にジンはにぃっと笑う。


「そうだ。なのに不審火騒ぎが起きた」

「それは誰かが意図的に厨房を燃やしたということですか?」

「ああ」

「でもなぜ?」

「わからん。悪戯ではないことは確かだ。考えられるのは、注意を厨房に向けさせ、その間に何かをしたかったのかもしれん」

「調べたのですか?」

「ああ。だがこれと言ったものは出てこなかった」


 厨房近くをくまなく調べたが、それらしきものは何も出てこなかったのだ。


「そのボヤ騒ぎも魔獣が現れたことと関係があると先生は思っているのですか?」


 リュカが訊く。


「ああ」

「なぜそう思うんです?」

「感だ」

「え?」

「この前も言っただろ。俺の直感は当たるって」

「確かに蛙の魔獣の時にもそんなことを言ってましたけど……。それを調べてて遅くなったのですか?」

「それもあるが、遅くなった理由は違う」


 まだ何かあるのかとリュカは眉を潜める。


「他になにか気になることでも?」

「ああ。あの蛙の魔獣を見て疑問がよぎってな」

「?」

「国中にある『国守玉の肢体』の役割は2つあることは覚えているか?」

「はい」


 1つは国守玉の力を国中に循環させるため。もう1つが魔穴まけつと呼ばれる穴から湧き出る魔獣や魔物をその場に留め、国への悪影響を未然に防ぐためのものだ。


「あとなぜあの場所に魔獣が現れたのか、説明したよな」

「はい」


 リュカはアイラが倒れている時に『国守玉の肢体』の機能の仕組みをジンから聞いた。

 何らかの原因で『国守玉の肢体』が機能しなくなった場合、魔獣や不浄のものは国守玉に吸収され浄化される。そして国守玉でも処理出来ない強い魔獣などがいた場合、国守玉の下にある精霊魔法士の練習場の部屋に排出されるのだと。だからきのう蛙の魔獣があの場所に現れたのだと説明を受けていた。


「『国守玉の肢体』の中で一番大きな魔穴がある場所は俺の家系が管轄していることも言ったな。それが最初お前と行った場所だ」

「鍵を同時に開けて魔獣駆除した場所ですね」

「そうだ。きのう出現した蛙のバケモノのような大型魔獣はあの場所しか出現できないんだよ」

「え?」


 リュカは目を見開く。


「魔穴の大きさは魔獣の大きさに比例するからな」

「じゃあきのうのあの蛙の魔獣はどこから?」

「そこだ」


まず勝手に魔獣が国守玉に沸くことはないのだ。


「最初、あの崩れ落ちていた『国守玉の肢体』の場所に誰かが意図的にあの魔獣を召喚させたが、あまりにも魔獣が大きかったため、堪えられなくなり崩れ落ちたのかと思ったが、そうなると時系列がおかしい。俺達があの場所に行った時にはもう崩れていたからな。あの感じだと相当前に崩れていた感じだ。それほど長い期間、国守玉の中にあの魔獣がいることはあり得ない」


 確かにそうだとリュカも思う。


「あと考えられるのは、どこかの『国守玉の肢体』にあの魔獣を召喚させたかだ」

「そんなことが可能なんですか?」

「犯人が『国守玉の肢体』の場所を知っていて、新月の時に国守玉が弱まることを知っているやつなら可能だ」

「それって?」

「そうだ。俺達『国守玉の脚』の者か、その情報を知ったやつだ。だが『国守玉の脚』で当てはまる人物は見当たらねえ。あの蛙の魔獣を召喚させるとなると相当の魔力と技術の持ち主になる。そんなやつは『国守玉の脚』の中では俺しかいねえからな」

「今さらっと自慢しましたね」


 リュカは目を眇めて言えば、


「本当のことだ。俺が一番強い」


 と言い返す。


「じゃあ『国守玉の脚』の者の仕業ではないと言うことですか?」

「ああ。そう思いたい」

「? 思いたい?」

「いけ好かない奴らばっかだが、この『国守玉の脚』の仕事には皆誇りを持ってやっている奴ばかりだ。そんな奴らが裏切ることはないはずだ。それに裏切った瞬間、俺達の能力は無くなる。これまでやって来たことを考えると、そこまでリスクを負ってやるとは思わない」

「確かにそうですね」

「そうなると、『国守玉の脚』以外の誰かということになるが、あまりにも俺らの仕事を知り尽くしている」

「『国守玉の脚』の者が誰かに教えたということですか?」

「それも有りえねえ。『国守玉の脚』が関係ない者に話しても力は失う。そんなバカなことはしねえ」

「じゃあなんで先生は俺に教えているのに力を失わないんですか?」


 ジンは思いっきりすべてというほどリュカに『国守玉の脚』の仕事を教えているのだ。今の話からしたらリュカに教えることは、ジンは力を失うということになる。


「お前はいいんだよ」

「なぜ?」

「だってお前、俺の後継者だから」

「は?」


 突拍子もないことを言ったジンにリュカは素っ頓狂な声をあげる。


「誰が後継者だって?」

「お前」


 リュカはすうっと目を細める。


「何バカなことを言っているんです? 俺は血筋でもなく身内でもない。能力だって受け継いでないです」

「だって俺、生涯独身だし」

「妹さんがいるじゃないですか? 妹さんにお子さんが産まれたら継がせればいいだけの話でしょ」

「そうなんだけど、この仕事をする家系がどんどん減っていっているんだよ。だから新しくその家系を見つけねえといけない。だが誰でもいいってわけじゃない。魔力があって誠実な裏切らない心の持ち主じゃないと務まらない。そういうやつはなかなかいない。魔力が強い貴族とかは皆、私利私欲にまみれた奴が多いからな。それに対してお前は条件にぴったりだ。魔力もあるし、なんせ誠実で裏切らない」

「だからと言って俺は承諾した覚えはないし、今初めて聞いたし」

「残念だったな。ここまで聞いて断ったらどうなるか分かるか?」

「――」


 ジンの話から、もしリュカが断ったらジンは力を奪われ、数少ない『国守玉の脚』の者が1人いなくなるということだ。そして一番強いジンを失うということは国守玉にとっても痛手だ。


「ほんといい性格してやがる」


 睨みながら言うリュカにジンはにぃっと笑い、決め言葉「よく言われる」と返す。


「まあその話は置いといてだな。言えることはあの魔獣は意図的に仕込まれたものだということだ」


 置いとくのかと突っ込みながらリュカはムッとしながら言う。


「じゃあ誰かがあの魔獣をどこかの『国守玉の肢体』に召喚させたと?」

「ああ。俺はそう見ている」

「もしかして先生は今まで『国守玉の肢体』をすべて確認していたんですか?」

「ああ。心当たりがある場所すべてを見て回ったが、それらしき場所はなかった」


 だからジンは疲れて帰ってきたのかとリュカは理解する。


「はあ。ボヤ騒ぎといい、魔獣といい、誰が何のためにしたのかさっぱりだ」


 ため息をつきソファーに倒れ込むジンにリュカは微笑む。


「先生もきのうからほとんど寝てないですよね? 俺見てますから寝て良いですよ」

「そうか……悪いな……」


 ジンはすぐに寝息を立て始めた。


 その後ジンが目を覚ましてからリュカは自宅に戻った。アイラは起きそうにないのと、リュカも疲れているだろうと言うことで帰らされたのだ。

 リュカは家に帰るとシャワーを浴び、そのままベッドに倒れ込む。


「疲れた……」


 前世で魔術師団長をしていた時、このぐらいのことで疲れることはなかった。やはり16歳という年齢でのあのレベルの魔獣との戦いはきついのだと実感する。

 そこで思う。

 前世では15人の命が失われたが、今回は誰も亡くなることはなかった。

 リュカは心底よかったと安堵する。そこでベッドに横になっているからか、はたまた緊張が解けたからか、急激に眠さが襲ってきた。


「駄目だ……眠い」


 そしていつの間にか意識を手放したのだった。








【お詫び】

登場人物とあらすじを割り込みさせようとしたら、違う場所に投稿するわ、このエピソードもそのまま投稿するわで、新年早々やらかしちゃいました。

今は直りましたが、もし順番ぐちゃぐちゃな時に読んでくださった方、大変申し訳ございませんでした。

菊理でした。

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