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40 王宮に魔獣⑤


「やった?」


 威力はあった。絶対に致命傷は与えたはずだ。

 視界が見えてきた瞬間、目の前に陰が落ちる。なんだと顔を上げれば――。


 目の前に魔獣がいた。


「!」


 逃げなくてはと思うが体が硬直して動かない。やられると目を瞑り体に力を入れ覚悟を決めた時だ。体を掴まれ横に飛ばされた。


「!」


 気付いた時には、リュカがアイラを抱きかかえ、魔獣から距離をとっていた。


「リュカ……」

「目を瞑るやつがいるか。未熟なうえに1人でしようとするからだ」


 低いトーンで眉根を寄せ叱るように言うリュカは、すこぶる機嫌が悪い顔をしていた。それは前世の魔術師団長の顔だとアイラは思った。だが前とは違う。その機嫌が悪い顔は自分を心配してのものだ。


 ――心配をさせてしまった。


「ご、ごめん……」


 謝るアイラの体はガタガタ小刻みに震え止まらない。そんなアイラの肩をリュカは強く抱きしめる。


「落ち着け。もう大丈夫だ」

「う、うん」


 前世よりも幼い顔と細い体付きだが、自分の最期を看取ってくれた時のリュカを思い起こさせる。そして筋肉質の腕で包み込むように抱きしめてくれたおかげで不思議と震えは止まった。

 すると魔獣が咆哮した。驚き見れば、アイラ達目がけて襲いかかろうと跳躍しようとしたところだった。


「!」


 だが転瞬、魔獣は不自然に動きを止めた。何が起ったのかと思っていると、


「アイラ!」


 そこへジンが走ってやってきた。リュカはジンへと視線を向ける。


「先生遅い」

「遅いって、これでも全速力でやったんだぜ」

「そうですか。で、結界は?」

「部屋を囲むように張った。これで外には漏れないし中に入ることもできねえ。魔獣の動きも一時的に止めてやったんだ、有り難く思え」

「やるのは当たり前です」

「おまえ、最近かわいくねえなー」


 そこで魔獣が動かなくなったのはジンが拘束したからだとアイラは気付く。そしてなぜジンが精霊魔法士の服と少し似た白の正装服で王宮にいるのか不思議に思い首を傾げる。


「先生? なぜここに?」

「説明は後だ。怪我はないか?」

「はい」

「ならよかった」


 ジンは安堵のため息をつくと部屋を見渡す。


 ――なるほど。国守玉が排出したものは、この場所に落ちるようになっているのか。この部屋はそのための場所か。


 リュカは抱いていたアイラを地面に立たせジンへと渡す。


「先生、アイラを頼みます」

「ああ。で、あの蛙のバケモノの倒し方分かるのか?」


 そこでリュカは驚き目を瞠る。


「見えてるんですか?」

「ああ。俺は『国守玉の脚』だぜ。魔力は感じないが見えてはいる」


 その言葉にアイラは目を見開く。


 ――『国守玉の脚』が先生!


 前世でも『国守玉の脚』の者を見たことがなかったため驚く。そこでジンの格好に合点がいく。


 ――ああ、だからこの服なのね。


「お前見えてねえのか?」

「はい。ただ感覚で居る場所と行動はなんとなく分かります」

「見えてないのにアイラを助けたのか? さすがだな」

「じゃああの魔獣が見えているなら、先生が倒してください」


 リュカがジンにしれっと言えば、ジンは残念そうな顔をする。


「そうしたいのは山々なんだが、あれは俺では無理だと本能が言ってる」


 何をバカなことを言っているのかと思うが、強ち間違っていないためリュカは何も言えない。


「それにあいつは魔法じゃ効かないだろ?」


 それにもリュカは驚く。


「そこまで分かるんですか?」

「まあな。俺の直感はだいたい当たる。ってか、分かってて俺にあのバケモノをなすり付けようとしやがったのかよ」

「元はと言えば、先生が放置したのがいけなかったんでしょ」

「俺じゃねえ。前の『国守玉の脚』だ」


 ジンは心外だと声を張り上げて言い返す。


「どちらにせよ同じことでしょ」


 それを言われてしまうとどうしようもないが、そこで引き下がるジンではない。


「だがあの魔獣は剣じゃないと倒せないんだぜ。そうなると、剣が使えない俺は管轄外だ。そして今この場所にいる者で剣が使えるのはリュカ、お前だけだ。この状況でお前は俺とアイラがやられるのを何もせずに見ているだけか?」

「……」

「違うだろ? お前はそういうやつじゃねえよなー。ということで、アイラは俺が見ててやるから、お前が倒せ」


 にぃっと笑うジンにリュカは、


「ほんといい性格してますね」


 と嘆息すると、改めて魔獣へと体を向けて剣を出現させ構える。

 最初から自分でやるつもりだったが、少しジンをからかってやろうと思って言っただけだ。だが結局、ジンに言いくるめられてしまい面白くない。ムッとしながら視線は魔獣へ向けたままジンへ言う。


「そうなると問題が1つあります」

「なんだ?」

「俺は魔獣が見えない」

「あっ! そうだったな」


 ジンはアイラへと視線を向ける。


「アイラ、魔獣を見えるようにしてやれ?」


 それにはリュカが驚きジンに振り返る。


「そんなことが出来るんですか?」

「ああ。アイラなら出来るだろう」

「アイラなら?」


 リュカは眉を潜める。前世でユーゴとイライザ達で倒した時は見えなかったためユーゴは見えないまま倒したと聞いていた。イライザほどの精霊魔法士ならば、見えるように出来ることは知っていたはずだ。だがそれをしていない。だとすればイライザでも出来なかったということだ。


「私が出来るんですか?」


 アイラも同じ事を思っていた。イライザから聞いていないのだ。もし出来るとしたらイライザはアイラに教えていたはずだ。



「ああ。たぶんお前なら出来る。解除魔法をあいつにかけろ」


 それは呪いや毒の解除のことを言っているのだろうと理解する。


「やってみます」


 アイラは感じたまま精霊魔法の解除魔法を魔獣へとかける。すると魔獣の姿が現れた。


「できた!」


 その瞬間、巨大な魔力を体全体で感知しアイラは恐怖で動けなくなる。


 ――なに……この魔力……。


 前世でも経験したことがない巨大な魔力に、体は硬直し息もうまく吸えず苦しくなり、その場に座り込む。


「アイラ! ちっ! 魔力に当てられたか」


 ジンはすぐにアイラに結界をかける。そしてアイラを抱き寄せ背中をさする。


「大丈夫だ、ゆっくり深呼吸しろ」


 結界とジンの手で恐怖が和らぎ息も吸いやすくなる。


「すみません」

「気にするな。これだけの巨大な魔力持ちの魔獣を目の前にしたら、普通はお前のようになるのが当たり前だ。そうならない俺やあいつがおかしいんだ」


 ジンはアイラに微笑み、そして前にいるリュカへと視線を向ける。


 ――さあ大魔術師と言われた魔術師団長の実力をお手並み拝見と行きますか。


 リュカは姿を現わした蛙の魔獣を観察する。


 ――なるほど。これほどまでの魔力と姿を消す魔獣は今まで会ったことがないな。これではユーゴ団長が手こずったわけだ。


 そして魔獣の皮膚を見る。皮膚の周りにジェル状の粘膜が覆っているのがわかった。


 ――あれが魔力を通さない結界の役目をしているというわけか。1度試してみるか。


 リュカは一気に間合いを詰めると魔獣へ剣を横一文字に斬り裂く。するとスパっと皮膚は切れ血液が流れたが、その粘膜がみるみる染み出て傷口を修復し再生させた。それを見たジンが呟く。


「あの粘膜が治癒魔法みたいなものか」


 リュカも同じ見解だった。


 ――それに脅威の再生能力だな。ユーゴ団長達が倒すのに長引くはずだ。


「出来そうか?」


 ジンが訊く。


「問題ないです」


 リュカはそう応え、剣を左手に持ち変えると、空いた右手を魔獣へ向ける。その格好を見たジンが叫ぶ。


「おい! 魔法は効かないだろ!」

「大丈夫です」

「え?」


 リュカは魔法陣を掌の前に展開し氷魔法を魔獣に向けて放つ。すると魔獣の体を覆っていたジェル状の膜が徐々に凍り始めた。


 ――魔法が効かないんじゃない。再生能力が早いだけだ。なら、その粘膜自体を凍らせればいい。


 そしてリュカは剣を右手に戻し一気に魔獣へと間合いを詰めると、縦、横、斜めと剣を高速で振り、魔獣を斬り裂いていった。それを見たジンは目を見開く。


 ――魔獣の周りを覆っていた再生能力が強い粘膜を凍らせて再生をさせないようにしたのか。そして皮膚の下から滲み出る粘膜でまた再生させないために、一気に魔獣を高速で斬り裂き止めを刺す……か。最初の一撃でそこまで把握したか。さすが元魔術師団長だな。


 リュカの剣技の前には再生能力が強い魔獣も為す術なくズタズタに斬りさかれた。リュカは切り裂かれた魔獣の残骸を氷魔法で凍らせ破壊。魔獣はガラスが割れるように粉々に粉砕した。その後、消去魔法の輪っかの魔法陣を魔獣の残骸を囲むように展開し、一気に収縮するように飲み込み、跡形もなく消し去った。

 それを見たジンは、


「ほんとお前すげえな」


 と感心する。アイラもリュカの実力を目の当たりにし驚く。


 ――ここまで凄いなんて。さすが大魔術師と呼ばれ魔術師団長とマティスの専属護衛をやっていただけあるわ。


「さて、ここからが問題だな」


 ジンの言葉にリュカとアイラはジンを見る。


「どういうことです?」


 リュカが訊く。


「アイラは気付いているな。国守玉が今の魔獣のせいで穢れが酷くなった」


 アイラもその通りだと頷く。


「だが国守玉の部屋には魔術師がたくさんいるからな。あいつらをどうにかあの場所から追い出さなくてはならない」


 その通りだとリュカとアイラは頷く。精霊魔法士ではないアイラが国守玉の部屋に入り、浄化をすることは出来ないのだ。ましてや変に力を使えば、マティスや他の精霊魔法士に知られてしまい、マティスの権限で精霊魔法士にさせられるかもしれないのだ。


「でだ。俺に良い考えがある」


 ジンの悪戯な顔を見て、アイラとリュカは目を細める。嫌な予感しかしない。


「さあ準備をするぞ」








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