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38 王宮に魔獣③



 リュカはアイラと別れると、真っ先に国守玉こくしゅぎょくがある地下室の祭壇の入口の太い柱の陰に転移魔法で移動する。

 国守玉がある部屋は学校の体育館ほどある広い場所だ。いつもは入口に警備員がいるが、やはり異常事態のため誰もいなかった。リュカは見つからないように魔法で姿を消し、そっと扉を開け中に入る。すると魔術師団副団長のマシューと他の上の者達が何人か国守玉の前に立っていた。

 リュカも周りを見渡す。だがやはり魔獣の姿は見当たらない。魔獣の魔力を探るがやはり分からない。


 ――おかしい。何もいない。この当たりで違和感を感じて来てみたが、魔獣はまだ現れていないのか?


 前世のユーゴの話から魔獣は確かにいるはずなのだ。


 ――どこに魔獣が現れたのか団長に聞いておけばよかった。


 後悔しても遅い。そこで国守玉を見る。アイラが浄化が出来ていないと言っていた。虹色に光る国守玉は、穢れると白く濁る。確かに二日間浄化したにしては少し濁っている感じがする。


 ――やはり魔獣が関係しているのか?


 するとマシュー達の会話が聞こえて来た。


「やはり何もいないじゃないか」


 マシューが面倒くさそうに言う。


「何もいないようですが、やはりこの部屋はとても嫌な感じがします。先ほどの地響きもこの当たりからしました。これはどうみても魔獣がいる感じです」


 そう応えたのは20代後半の分団長だ。リュカは感心する。何もない状況で、そこまで分かる者はなかなかいない。前世でもここまで分かる者はいなかった。一種の特殊能力なのだろう。


「だがどこにもいないじゃないか。魔力も感じないのだぞ。魔獣がいるわけがないだろ」


 そう言われてしまえば反論できないため分団長は黙る。


「じゃあこの地響きはなんなんでしょうか?」


 今度は副分団長が訊ねた。


「ただの地震だろ」


 マシューはまったく問題視しようとしない。そんなマシューに分団長は言い返す。


「これは地震ではありません。魔獣の仕業だと思われます」

「そう言うが、じゃあその魔獣はどこにいるんだ? どこにもいないじゃないか。お前の気のせいだろ」

「気のせいではありません。この感覚は魔獣がいる感覚です。もう少ししっかりと調べたほうがよいかと思います。もしかしたら姿を消す魔獣かもしれません」


 分団長は訴える。


「まだそんなことを言っているのか。いい加減にしろ」


 まったく聞く耳を持たないマシューに分団長は小さく嘆息すると、ならばと違う提案をする。


「では精霊魔法士を呼んだほうがよいかと」

「なぜ精霊魔法士を呼ばねばならん。浄化しか出来ない役立たずなあいつらが来ても意味がないだろ」

「役立たずではありません。そのような侮辱はよくないです」


 分団長はきっぱりと抗議する。


「もしかしたら私達では分からないことが精霊魔法士には分かるかもしれません」

「いらんいらん! 呼ばなくていい」

「ですが!」

「うるさい! 私の言うことが聞けないのか!」


 マシューは分団長を睨む。


「いえ、そういうわけでは……。ではせめて団長に連絡を!」

「団長にも連絡しなくていい。別に何かが起きたわけではないのだ」

「ですが!」

「いい加減にしろと言っている! わからないのか!」


 マシューが少し苛ついた口調で言い分団長達へと視線を向ければ、皆不満そうな顔をマシューに向けていた。マシューはチッと舌打ちする。これ以上分団長達と言い合って、後でユーゴにチクられても後々面倒なことになっても困る。仕方ないと嘆息する。


「そんなに調べたいのなら勝手にお前達で調べろ。だが団長と精霊魔法士には連絡を入れるのは禁じる。分かったな」


 そう言い残しマシューは部屋を出て行った。残された分団長達は嘆息する。


「あの人は何もわかっていない……」


 分団長が呆れ顔で呟くと、皆頷く。


「よし、もう一度手分けして探そう。必ずどこかに魔獣がいるはずだ」

「はい!」

「ユーゴ団長とブレッド副団長がいないんだ。迷惑はかけられんからな」

「分かりました」


 そして部屋を出て行った。

 リュカは会話を聞きながら分団長や副分団長達を誰1人と見たことがないことに気付く。その理由はすぐに分かった。前世でこの魔獣の事件で殺された15人の者達なのだ。


 ――誠意を持って魔獣を探し、敢然と立ち向かった分団長達が命を落とし、何もせずこの事態を放棄した副団長が命拾いをしたとは皮肉なものだな……。


 リュカはギュッと拳を握る。


 ――今世では絶対にあなた達を死なせない!


 その後もう一度部屋の中を調べるが、やはり何も分からない。前世の時もっとユーゴから詳しく聞いておけばよかったと後悔する。そしてもう一度ユーゴとの会話を思い出す。


 ――あの時ユーゴ団長はなんと言っていた?



【前世】

 魔術師団の分団長のリュカは貯まりに貯まった仕事をしていた。そこへユーゴがやって来て、隣りの椅子に座り色々と話し始めた。だが忙しかったため、相づちは打つものの、ほとんど聞いていなかった。


「もうほんとあの時は大変だったよー。聞いてる? リュカ」

「はい。聞いてますよ。珍しいですね。団長が魔獣で苦戦するなんて」


 リュカは書類を書きながら目を合わせず淡々と応える。

 そんなリュカにユーゴがムッとしながら言う。


「リュカ、ぜんぜん心がこもってないよ。返事だけしないでくれるかなー」

「……」

「はあ、ひどいなー。冷たいんじゃないかい?  僕は悲しいよ。あー悲しい」


 ぐだぐだ言ってくるユーゴに、リュカは嘆息し手を止めると顔を上げて訊ねる。


「ちゃんと聞いてますよ。で、なぜ苦戦したのですか?」

「お! 聞きたいかい?」


 ユーゴは嬉しそうに言う。別に聞きたくないが、そう言うと余計面倒くさいので首を縦に振る。


「はい、聞きたいです」

「そうかそうか。魔獣は姿を消すことができ、そして魔力も消すことが出来たんだ。ほんと厄介だったよ」


 そこでリュカは興味が沸く。


「じゃあどうやって倒したんですか?」

「ん? 気になるかい? イライザ達が拘束しててくれたから、どうにか剣で倒すことができたんだ」



【現世】

 そこでリュカはハッとする。


「やはり魔力と姿を消しているのか!」


 あの分団長の言うことは正しかったのだ。じゃあどうやってイライザ達は魔獣を拘束することができたのか。そこである答えに辿り着く。


「精霊魔法士には見えていたということか」


 そこでリュカは部屋を出て精霊魔法士を探す。だがどこにも精霊魔法士の姿がない。


「なぜいない?」


 リュカは転移魔法で精霊魔法士の部屋へと行く。やはり誰もいない。


「どうして?」


 そしてアイラと同じ国王からの伝令を見る。


「そういうことか」


 急いで部屋を出ると、遠くで走っている人物に目が止まり目を見開く。


「アイラ?」










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