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37 王宮に魔獣②



「やあ、アイラ、リュカ、よく来たね」


 マティスは笑顔で部屋にやって来た2人に挨拶する。


「よく何もなかったように笑顔で言えるわね」


 マティスに聞こえないように言うアイラにリュカは相変わらずだと鼻で笑う。


「何か言ったかい? アイラ」

「相変わらず地獄耳だわ」


 リュカはプッと笑う。前世と同じ反応だが、今の方がアイラのことを分かっているからかマティスへの気持ちが手に取るように分かり笑えて仕方がない。

 2人は用意された席に着くとマティスが言う。


「さあアイラ、いっぱい食べて」


 テーブルには豪華な料理が並んでいた。どれもアイラが好きな料理ばかりだ。


「わー!」


 目をキラキラさせて料理を嬉しそうに見るアイラにリュカは現金なやつだと呆れる。


「さっきまで文句言ってたのは誰だ?」

「いいじゃない。マティスと料理は別物よ。それに料理に罪はないわ」


 意味の分からないことを言いながら嬉しそうにステーキをフォークでぶっさし頬張るアイラにリュカは嘆息する。


「おまえ、よく皇太子の前でマナーゼロで食べれるな」

「あっ……」


 そこでマティスを見れば、笑顔でアイラを見ている。


「大丈夫よ。マティスは気にしないから。じゃない、たぶんそういうタイプよ」


 するとマティスは笑う。


「よく僕のこと知ってるね。アイラ」

「そ、そうよ。そういうことは得意なの」


 分かりやすいアイラの態度に、理由が分かっているリュカはおかしくてしょうがない。我慢出来ず顔を横に向けクツクツ肩を上下させ笑う。それを見たマティスは目を瞬かせる。


 ――珍しいな。リュカが笑うなんて。


 嬉しく思うがなぜか少し寂しくもある。長年一緒にいるのにリュカの笑った姿を見たのは片手で足りるほどなのだ。


 ――リュカはアイラのことを好きなのかな。


 そう思った瞬間少し胸がモヤっとする。その気持ちを払拭するようにマティスはアイラに料理を薦めた。


「アイラ、気にせず食べて。この前のお礼だから」

「え? お礼はもうしてもらってるわ」


 学校の応接室で高級な料理とケーキをごちそうになったのだ。


「あれはちゃんとしたお礼じゃなかったから。今日が本当のお礼さ」

「あ、そうなんだ……あはは」


 あれがちゃんとしたお礼じゃないとは、皇族の基準は理解不能だとアイラは半笑いする。


「俺はなんで?」


 リュカが訊ねる。


「リュカもいつもお世話になってるからね。ついでだけど」

「ついでかよ」


 ボソッと突っ込む。そんな2人を見てアイラは「へえ」と声を上げる。


「マティスとリュカは本当に仲がいいのね」

「今のでどう仲がいいって判断したんだ?」


 リュカが何を言い出すのだという不愉快な顔を向ける。


「だってリュカ、素でマティスに話してるから」

「……」

「リュカ、凄く人見知りだし人と距離を置くタイプじゃない。だけどマティスの前では普通に話しているから」


 するとマティスが笑顔で言う。


「じゃあアイラも僕と一緒でリュカと仲が良いってことだね」

「え?」

「は?」


 2人がマティスへと首を向ける。


「だってリュカ、アイラに対して素を出してるから」

「そうね。仲いいわよ」

「違う」


 思いっきり否定するリュカにアイラはばっと顔を向ける。


「ちょっと! なんで否定するのよ! 仲いいでしょ!」

「どうしたら仲がいいという解釈になる」

「はあ? 友達でしょ?」

「友達だが、仲がいいかと言われたら違うだろ」

「なんでよ! 毎日一緒にいるでしょ!」

「それは特訓だからだろ」

「リュカ、アイラ、そこまでだ」


 マティスに言われ、マティスに視線を戻せば、笑顔だがなぜか機嫌が悪い。


「マティス? き、機嫌が悪そうね?」

「アイラ、別に僕は機嫌を悪くしてないよ」


 そう応えるマティスの顔は笑っているが目は笑っていない。


 ――嘘。絶対機嫌悪いじゃない。私がどれだけあなたを見てきたか。間違えるわけがないわ。


 口をへの字に結び、今にも口から出そうな言葉を飲み込む。

 リュカもマティスが機嫌が良くないことは見てとれた。自分がアイラと毎日一緒にいるのも気にいらないし、アイラと仲良く話しているのも気にいらないのだろう。

 リュカは「はあ……」と嘆息する。


 ――こうなるだろうから仲が良いのかと聞かれた時、良くないと応えたのに。


 良いと言えば機嫌が悪くなることは想像できたからだ。気まずい空気が流れる。だがマティスがその空気を変えるように声のトーンを上げて言った。


「2人とも急に黙ってどうしたんだい? さあ、冷めちゃうから食べよう」

「そ、そうね」


 アイラ達は誤魔化すように食べ始める。だがそれも2分ぐらいだった。


「ねえ、この料理、すごくおいしい!」

「なにこれー! こんな綺麗な料理食べれないー!」

「きゃー! ケーキがこんなにあるー!」


 と我を忘れてアイラは目の前の食べ物を嬉しそうに食べた。そんなアイラをマティスは笑顔で対応し、リュカはただ呆れてモクモクと食事をするのだった。

 そしてあっという間に2時間が過ぎた。


「ご馳走様でした! お腹いっぱいで幸せだわ」


 アイラは満足そうに言う。


「満足してもらえて嬉しいよ。それに今日はアイラがよく話してくれたし」

「うっ!」


 それは食べ物で機嫌がよかったからだとは言えない。だが、


「食べ物に釣られて機嫌がよかっただけだろ」


 とリュカが暴露した。


「ちょっ、ちょっと! な、なに言うのよ! ち、違うわよ!」


 顔を真っ赤にして言うところが、もう図星だと言っているようなものだ。


「あはは。喜んでもらえて嬉しいよ。またアイラの好きな料理を用意して待ってるから、また一緒に食べよう」


 マティスに言われアイラは頷く。


「ありがとう」


 そこでアイラとリュカはマティスと別れた。帰りは2人だけで王宮の大理石の廊下を歩く。


「帰りは誰もいないのね。勝手に帰れということかしら」

「そうかもな」


 リュカはそう答えるが内心は違った。


 ――魔術師が1人もいない。国守玉がある地下の大広場に行ったか。


 するとドンと少し地面が揺れた。


「なに? 地震?」


 アイラは驚き呟き、リュカは目を見開く。


 ――魔獣が現れたのか?


「アイラ、悪い。用事を思い出した。先に帰ってくれ」


 そう言うとリュカはその場から消えた。


「え? ちょ、ちょっとリュカ!」


 叫んでも遅い。もうリュカは転移魔法をした後だった。


「もう!」


 アイラは1人廊下を歩く。そこである異変に気付く。


「魔術師と精霊魔法士がいない……」


 前世でイライザ精霊魔法士長が言ってた事件と関係があるのかと考える。


 ――あの事件は魔獣が現れたはず。でも魔獣が現れたという感じではない。


 魔術師団員と精霊魔法士がいないだけで他の働いている者達は皆普通にしているのだ。

 するとまた先ほどより強い縦揺れが起きた。


「あら、また地震かしら?」


 すれ違うメイド達が首を傾げながら話している。


 ――これは地震じゃない……。


 アイラは唇をぐっと引き締める。

 前世で起きた事件ではないと思いたかった。だから考えないようにしていた。だがこの状況と嫌な胸騒ぎ、そしてやはり国守玉が今だにきちんと浄化されていないことを考えると、そう思わないことは無理だった。


 ――やはり魔獣が現れたんだ。でもなぜ魔力を感じないの? 


 普通なら魔獣が現れれば、ある程度の魔力を感じることが出来る。だが今回まったく魔力を感じない。やはり違うのかと思うが、どうしてもそう思うことが出来なかった。

 そしてもっと気になることがあった。この異常事態で精霊魔法士の誰1人見かけないのだ。


 ――なぜいないの? 精霊魔法士ならこの異変に気付くはずなのに。


 アイラは進路を変更し、ある場所へと向かう。そして1つの部屋の扉の前で止まる。その場所こそ精霊魔法士の部屋だった。扉のノブにそっと手を添え静かに開けて中を覗く。だが誰もいない。


「どういうこと? なぜ誰もいないの?」


 部屋の中に入り日程が書かれている黒板を見る。すると精霊魔法士全員が休みになっていた。でもなぜ全員休みのかと不思議に思っていると、そこに国王から伝令の紙が貼ってあるのに気付く。


「2日間の国守玉の大浄化は大義であった。相当疲れたであろう。君達全員に一日の休暇を言い渡す。ゆっくり体を休め明日からの任務に励み給え……か」


 ――大浄化の日だったのね。


 5年に1度、月がもっとも長く隠れるブラックムーンの時がある。その時は国守玉がもっとも穢れるため大浄化が行われる。

 今回その大浄化の日だったようだ。だが聖女がいないため浄化に2日もかかり、疲弊した精霊魔法士達を労って国王が全員休みにしたようだった。


 そこでアイラは前世でこの5年後に大浄化をした時のことを思い出す。


 ――でもあの時は半日で終わったはず。なぜ今回2日もかかったんだろう? 偽物でもソフィアがいたからかしら。


 不思議に思っていると、今度は体が揺れるほどの大きな地響きが地下から起こった。


「!」


 アイラは急いで部屋を出て廊下に出る。するとそこに慌てた様子の魔術師団員2人が話しながら早足でやって来た。アイラは咄嗟に物陰に隠れる。


「原因はわかったか?」

「いや、地響きの原因はまだみたいだ」

「魔獣ではないのかと疑ったが、魔力も感じないとなると、やはりただの地盤沈下なのか?」

「地盤沈下にしては今の揺れは大きくなかったか? なんか嫌な感じがする」

「だよな。やっぱり何かいるんじゃないのか?」


 そう言いながら2人は去って行った。

 話の内容からある事が分かった。


 ――魔獣は魔力と姿を隠すことができて、精霊と同じで精霊魔法士にしか見えないんだわ。


 それならこの状況の説明がつく。そして前世の時、精霊魔法士が1人でもいれば、どこにいるのかもっと早くわかったはずだ。だが全員休暇中でいなかったため誰も魔獣を見つけることが出来ず、為す術なく尊い15人の命が失われたのだ。

 前世で聞いた惨事は、色々な悪条件が重なったために起きたものだったのだ。


「まだ犠牲者は出ていない。まず魔獣を見つけなくちゃ!」


 数歩歩くが、そこで足を止める。


 ――今私は何をしようとしている?


 今世では関わらないと、精霊魔法士として生きていくつもりはないと決めたではないか。なのに自分は今精霊魔法士としての仕事をしようとしている。


 ――じゃあこのまま放って置いてこの場を去る?


 多くの命が奪われることを知っていて見捨てて自分はこの場を去るのか?


「くっ!」


 アイラはキッと睨む。


 答えは考えなくても出ている。


「精霊魔法士とではない。1人の人間として動くのよ!」


 そして走り出した。










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