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36 王宮に魔獣①



「リュカ、これはどういうこと?」


 アイラは隣りにいるリュカに訊ねる。特訓が終わり帰ろうとして外に出てみれば、そこにはケインとどう見てもマティス専属の魔術師団の者達が5人ほどいたのだ。


「いや。俺も分からない」


 そう言いながらリュカは魔術師団達の顔を見て懐かしく思う。皆リュカの知った顔だった。


 ――懐かしいな。それに皆若い。


「アイラさん、リュカ君、殿下の指示でお食事のご招待でお迎えにまいりました」

「あ、やっぱり?」

「だな」


 2人は分かっている。こうなっては断っても意味がないことを。だから大人しく従う。


 ――相変わらず強行手段だわ。


 ため息をつきながら黙って付いて行くアイラにリュカは言う。


「珍しく素直に従うんだな」

「こうなったら何をしても無理だって分かってるから」


 肩を落とし諦めモードのアイラにリュカは変わってないなと微笑む。

 前世でマティスはよくアイラを食事に誘っていた。最初の頃アイラは精霊魔法士の仕事が忙しいため断っていたが、マティスは諦めず仕事をしているアイラの後をずっとついてまわり誘っていたのだ。王宮の中をアイラの後を付いて回る皇太子が目立たないわけがない。結局注目を浴びる羽目になり、アイラが折れる形になった。そしてその後断るのは諦め、今の顔をして素直に従うようになったのだ。


 ――やはり前世の記憶があるのだな。


 アイラと一緒にいるようになり、前世とあまりにも印象が違うため、記憶がないのではないかと思った。だが今の言動からして記憶があるのだと改めて確信する。だとすれば、精霊魔法士だった頃のアイラは本来のアイラではなかったことになる。

 その理由も分かっている。

 相当精霊魔法士の仕事がきつかったのだろう。自分もそうだった。今よりも柔軟性に欠け、いつも眉間に皺を寄せ笑うこともほとんどなかった。魔術師団長になってからは特にそうだった。団長としての責任と重圧が重くのし掛かっていたからだ。


 ――お互い大変だったのだな。


 お互い似たような境遇に立たされていたことになぜか口元が緩む。すると自分が笑われたと思ったのか、アイラがムッとしてリュカを見上げて睨んできた。


「何笑ってるのよ」


 前世では見ることがなかった顔だ。今では当たり前の顔でアイラらしいと思ってしまう。


「いや、お前の顔が分かりやすくて面白いなと思っただけだ」

「え? 顔に出てる?」


 そんな気がまったくなかったアイラは両手で頬を押さえ焦る。


「もう手遅れだ」


 そう言って笑顔を見せるリュカを見てアイラも魔術師団長の時とは全然印象が違うなと改めて思う。最近はほんとよく笑う。


 ――魔術師団長は大変だったんだなー。立場上、気を張ってないといけなかったんだろうけど。でもこっちのリュカのほうが断然いいわ。


 アイラも自然と笑顔を見せるのだった。




 そして2人が連れてこられたのは王宮だった。


「まさか王宮とはな……」

「ほんとに……」


 てっきりどこかのレストランだと思っていた2人は、前世で色々な意味で因縁の場所、王宮にこれほど早く来るとは思っていなかったため戸惑う。


 ――ここで殺されたんだよね。

 ――ここで反乱が起こったんだよな。


 色々な思いが込み上げ、神妙な顔で黙々とケインの後を付いていく。

 ケインと言えば、王宮に来てから急に顔を強ばらせしゃべらなくなった2人に眉を潜める。


 馬車の中でアイラとリュカは、楽しそうに冗談を言いながら学校の話をしていたのだ。その様子を見て学生は楽しそうだなと羨ましく思い、とても仲が良いのだと思ったほどだ。

 特にリュカには驚かされた。今までよくマティスといるのを見てきたが、これほど笑顔を見せることはなかった。だがアイラといるリュカは冗談も言うし笑顔も見せている。やはり普通の学生なのだと再認識したほどだ。

 そんな2人が王宮に入ってから急にしゃべらなくなり神妙な面持ちで自分に付いて来ている。最初は緊張からかと思ったが、リュカは半年前までは王宮には何度か来ていて緊張している様子は今まで1度もなかった。だから緊張ではないはずだ。

 アイラの反応も意味が分からない。初めて王宮に来た感じではないのだ。初めて王宮に足を踏み入れた者は、普通は周囲を見渡しながら目をキラキラさせて歩くのがほとんどだ。だがアイラは周りを見ることなく下を向いて何かを思い詰めている感じで歩いている。


 ――どういうことだ?


 前を歩きながら首を傾げるケインだった。


 王宮の廊下を歩いている途中、リュカは歩きながらある違和感に気付く。


 ――なんだ? この王宮全体の緊張感は。


 普段よりも王宮がピリピリしている感じがする。


 ――調べてみるか。


 リュカは魔法で警備の魔術者に気付かれないように王宮全体を調べる。前世の魔術師団長をしていた時に異常がないかよくやっていたことだ。だが調べても特に変わった様子はない。周りのメイドやすれ違う下っ端の魔術師団達を見てもいつもと変わらず普通にしている。どういうことだと思っていると、隣りを歩くアイラがボソッと呟いた。


「……国守玉の浄化が……出来てない?」


 リュカはハッとしてケインに訊ねる。


「ケインさん、国守玉の浄化って新月の時にするんじゃなかったのですか?」

「ええ。新月は2日前だったので、2日間かけてしていましたよ」


 ――2日間?


 アイラは眉を潜める。普通なら1日もかからず終っているはずなのだ。


 ――おかしい。聖女が亡くなったからとしても時間がかかり過ぎている。


 回帰前アイラが精霊魔法士の時、ソフィアがほとんど浄化が出来なかったため、アイラ達が変わりに浄化をしていたのだ。その時は1日もかからずに終っていたのだ。


 ――それに完璧に浄化が出来てない感じがするんだけど。イライザ精霊魔法士長がいるのにどうして? それにこんなこと前世であったかしら?


 回帰前のこの時期に何かあったかを考える。リュカも同じく考え、そこである出来事を思い出し目を見開く。


 ――学生の時といえば、確か王宮での爆発事件があり多くの魔術師団員が犠牲になったというやつか!


 表向きは厨房から火が上がり怪我人が少し出たということになっていた。だが本当は魔獣が現れ多くの魔術師団員が亡くなったというものだった。


 ――確かユーゴ団長は国外に行っていた時に起こったと言ってなかったか?


 そこで後ろにいた魔術師団の者に声をかける。


「すみません、今日はグリフィス魔術師団長はお見えになりますか?」

「? どうしてだ?」

「えっと、グリフィス魔術師団長に憧れていて、会えないかと思ったので」


 咄嗟に理由を付ける。


「そうか。残念だったな。今日は団長は陛下の付き添いで国外に出ていて、明日まで帰ってこないぞ」


 ――やはり!


 そこで魔術師団員の者がいつもと変わらないところが気になった。


 ――魔術師団員の者も上の一部の者しか知らないということか。


 あまり大事にしたくないことが見てとれた。


 ――確か爆発があったのは夜中の12時過ぎだったはず。


 手持ちの時計を取り出し見る。


 ――今の時間は夜7時。ならまだ時間はある。食事が終ってから様子を見に行くか。


 その横でリュカの質問を聞きながらアイラも前世での記憶を思い出す。


 ――私が学生の時よね? 何かあったかしら?


 そこであることを思い出す。


 ――待って! この時ってまさかイライザ精霊魔法士長が話してくれた事件のことじゃ!


 アイラがイライザと国守玉の浄化を手伝っていた時のことだ。


「まだアイラが入る前の話なんだけど、国守玉から大型の魔獣が現れたことがあったのよ。その時最悪なことに私もユーゴも居なくて私の天敵のマシュー副団長のバカが対応してたのよ。本当はそういう時って魔術師と精霊魔法士が力を合わせて倒すのが常識よね? それをあのバカ副団長、私達精霊魔法士を嫌っていたからか、私達を呼ばなかったのよ」

「え! じゃあどうなったんですか?」

「そんなのユーゴもいないのよ。あのマシューの力でどうにかなるはずがないわ。結局どうにも手がつけれない最悪な状態になってから、休みだった私達精霊魔法士に連絡してきたのよ。それが12時過ぎだったわ。現場に行った時には最悪な状態だったわ。そしてどうにかその場に私達精霊魔法士で魔獣を拘束し、次の日ユーゴが戻るまでみんなで踏ん張り、早朝慌てて戻って来たユーゴが魔術師団員達と倒したわ。でも15人の尊い命が失われたわ」

「マシュー副団長は?」

「ああ、あいつ? 逃げていたわよ。部下を置いて。だからその後クビになったわ」



 その会話を思い出し、アイラはリュカが質問した魔術師団員に声をかける。


「あのー、魔術師団副団長の名前はなんて言うんですか?」

「副団長? 2人いてな。ブレッド・オルグレン副団長とマシュー・メレス副団長だ」


 やっぱりとアイラは目を見開く。


 ――じゃあこれは浄化が出来てないんじゃない! 魔獣がいるんだわ!


 ギッと奥歯を噛みしめる。


 ――だとするとこの後魔獣が暴れて15人の命が奪われる!


 どうにか阻止しなくてはならないと思うが、すぐにその考えを否定する。


 ――何を考えてるのよ。もう関わらないと決めたじゃない。精霊魔法士の仕事もしないと決めたじゃない。


 そこで考えるのを止める。


 ――そうよ。関係ないわ。


 アイラはそれ以上考えないようにした。










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