34 父上も?
「リュカ、お前、時を遡ったな」
「!」
リュカは驚き目を大きく見開く。
「その反応、はやりそうか……」
「……なぜ……」
するとオーエンはフッと笑う。
「お前の魔力の質が前会った時とまったく違うからな。それに魔力を完璧に隠せている」
そこでしまったとリュカは焦る。前回オーエンと会った時は回帰前だったため魔力を隠すことは出来なかったのだ。それなのに今回完璧に魔力を隠せているのだ。おかしいと思うのは当然だ。
リュカはどう説明しようか逡巡する。だがもうばれているなら本当のことを言うしかないと口を開きかけた時だ。オーエンはリュカの顔の前に手を翳し制した。
「言いたくなければ言わなくていい。これは他人が簡単に知っていいことではないからな。それに時を遡る魔法を使うということは、それ相当の覚悟がいったはずだ。人一人の命もかかっているからな」
「……」
「まあお前がこの魔法を使う理由は何となくわかる。学校を急遽変え、殿下の側を選んだ。だとすれば自ずと理由はわかるというものだ」
そしてオーエンは真剣な顔をして言う。
「だがリュカ、時を戻ったからといって必ずしも思い通りにいくとは思うな。運命は変えられても宿命は何があっても変えることはできないからな」
そこでリュカはある思いが浮上する。
「もしかして、父上も時を遡る魔法をしましたか?」
「……なぜそう思う?」
「口調が経験者のような感じだったので」
リュカは正直に応える。するとオーエンはフッと笑い頷いた。
「そうだ。俺も1度使った」
そこで悟る。
――ああ、言わなくても分かる。
「母上のためですね」
「そうだ……」
そしてオーエンはリュカに話し始めた。
「俺はミリアの死を防ぎたかった。だからミリアに話し、余命わずかなミリアの命と引き換えに俺は時を戻った。ミリアの病気が早期発見されれば病気は治ると思ったからだ。だがどれだけ早期発見しても、回帰前にしておけばよかった事すべてやっても、ミリアの死へのカウントダウンを止めることはできなかった。結局ミリアの命は尽きる宿命だったんだよ」
そう言って悲しみに耐えるような顔を見せるオーエンにリュカは静かに訊ねる。
「父上は死に行く母上の姿を2回体験したのですね……」
「……ああ」
それはとても辛かっただろうとリュカは思い目を伏せると同時に脳裏にマティスの最期が浮かぶ。
――あの姿は2度と見たくない。
だから時を戻したのだ。
そこでアイラの最期も脳裏に浮かぶ。回帰前と今ではアイラの最期の状況の印象が違うことに気付く。マティスと同じで2度と同じ事が起こってほしくないし見たくない。
もう少し早く駆けつけていればアイラを助けることができただろうかと、あの時よりもかなり強く思ってしまう。そして今回の人生では絶対にそのようなことが起きないようにすると誓う。だが、
――もしマティスやアイラが死ぬ宿命で同じ運命を辿ったら俺はどうするだろうか……。
今まで考えたことがないわけではなかった。ただ考えたくなかっただけだ。そんなことを考えているとオーエンは自分が胸に秘めていた思いを静かにこぼす。
「俺はミリアの死を受けられず絶望し、堪えられなくなり、お前達を見捨てて海に逃げたんだ。だから本当はお前達に父上と呼ばれる資格はないんだよ……」
だがそんなオーエンをリュカは責めることは出来なかった。その気持ちは痛いほど分かるからだ。
「ミリアが亡くなった時は絶望ばかりしていたが、今になってはミリアの寿命だったと納得している。ただ1つ後悔をしていることがある。それは自分1人で考えず、もっと周りの者の力を借りればよかったと。そうすれば、こんなに苦しまずにもっと立ち直るのも早かったかもしれないからな」
確かにそうだとリュカは思う。ジンに話し自分が気付かなかったことを色々教えてもらっている。それに気持ちも1人の時よりも楽だということももう立証済みだからだ。
「お前が時を戻ったことを知っている者は、俺以外にいるのか?」
「はい。学校のジン先生です」
「ジン? ジン・ベレスか?」
「はい。知っているのですか?」
「ジンの父親が俺の同級生で知っていてな。小さい頃何度か会ったことがある。その時に魔力が強いという印象だったな」
「そうですか」
そこでオーエンはハッとして言う。
「さすが親子だな。お前もジンに頭の中を覗かれたのか?」
リュカは驚き目を瞠る。
「も? 父上もですか?」
「そうだ。俺もジンの父親にやられたよ」
「もしかして回帰した後ですか?」
「ああ。あいつはいきなり俺の所に来て額に手を当ててきた。そして俺に闇雲に人生をやり直してはいけないとだけ言って立ち去ったんだ。後から聞いたが、病気で亡くなる場合は時を戻しても変わることはないらしい」
そしてオーエンはリュカへ問う。
「お前は違うよな?」
「はい。違います」
「そうか。ならいい。ちなみにお前は何歳で戻ってきた?」
「25歳です」
「! 若いな……」
目を伏せるオーエンにリュカは真剣な表情で言う。
「父上、聞いてくれますか? 何があったかを」
そしてすべてをオーエンに話す。
「国が……滅んだだと?……」
「はい」
「国守玉が見捨てたとは……。それに陛下とマティス殿下が……」
あまりにもショックな出来事にオーエンは言葉を失い放心状態になる。
「それを防ぐために俺は戻って来ました」
「そうか……大変だったな……」
「まだ何をしたらよいのか模索中であり、これが本当に正しいのかが分かりません。ただ今出来ることはすべてやろうと思っています」
リュカは正直に自分の気持ちを話す。
「そうだな。俺も俺なりに探ってみよう」
「ありがとうございます」
「だが無理だけはするな。一人ですべて解決しようとすることは許さんからな」
「はい。それは大丈夫です。ジン先生が一緒に考えてくれてますから」
そこでオーエンは気付く。
「なるほどな。やはりベレス家が『国守玉の脚』か」
「!」
「その反応からしてお前、知っていたな」
「あ、はい」
「ベレス家は昔から他の者と仲良くしないことで有名だ。それは家訓らしく、あまり関わりを持つことを禁じられていると言っていた。だがジン・ベレスはお前とがっつり関わりを持っている。俺とお前との違いは国守玉が絡んでいるかいないかだ。あいつが『国守玉の脚』だとすれば、すべてが辻褄が合うからな。あいつめ、俺には表の顔は世界を駆け巡る商人で、実は隠密だと言っていたのに、違うじゃないか!」
悔しそうに言うオーエンを見てリュカは、強ち間違っていないと思う。国守玉からの指示を隠密にやっているのだから。
話が終わりオーエンの部屋を出ようとした時だ。オーエンが呼び止めた。
「リュカ、25歳の時の俺はどうだった?」
リュカは微笑み、
「良くも悪くも今とまったく変わってませんよ」
と言って部屋を出て行った。
「……そうか……相変わらずだな、俺は」
オーエンは鼻で笑い、煙草に火をつけた。




