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30 ジンの手伝い② 



「『国守玉こくしゅぎょく肢体したい』!」


 リュカは驚く。


「ああ。名前だけでも聞いたことぐらいあるだろ」

「はい。でも詳しいことはまったく知りません」

「だろうな。『国守玉の肢体』の場所は俺達『国守玉のあし』の者しか知らないからな」


 そう言えばそうだったとリュカは思う。前世でも名前だけは聞いたことがあったが、どの場所にあるのかは誰1人知る者はいなかったのだ。

 そして、噂ではその場所は巧妙に隠されているとも言われていた。それを今この場所に来て実感する。


 ――この洞窟の前に転移した時、入口には特殊な結界魔法がかかっている感じだった。あの結界魔法がこの場所を隠しているのだろう。


 だがジンとリュカは普通にこの洞窟に入れた。だとしたら、『国守玉の脚』の者は普通に通れるということなのだろうとリュカは解釈する。


「『国守玉の肢体』には2つの役割がある。1つは国守玉の力を国全体に行き渡せるためのパイプの役割。もう1つが魔穴まけつと呼ばれる魔界からやってくる魔獣や魔物が通る穴を塞ぐ役目だ」

「魔穴?」

「そうだ。小さな魔穴はどこにでも出現するが短時間で消滅する。だが大きな魔穴は消滅することなく地上に残り、そこから魔獣や瘴気を放出している。その穴を国守玉の特殊な結界で囲い、外に出ないようにしているんだ。だが国守玉は浄化は出来ても魔獣や魔物を倒すことは出来ない。だからどんどんこの場所に魔獣や魔物、不浄物が貯まっていくため、定期的にメンテナンスが必要で、それをするのが俺達『国守玉の脚』ってわけだ。ここまでの説明はわかったか?」

「はい」

「で、ずっとメンテが必要だったんだが、俺1人ではどうにも鍵が開けれなくてな。そこでお前にやってもらおうと思ったわけよ」

「だいたいの意味はわかりましたが、最後の鍵を俺が開けるというのはどういう意味です?」


 鍵なんて持っていないのだ。どうやって開ければいいというのか?


「物理的に開けるんじゃねえよ。魔力を注ぐんだ」

「魔力?」

「そうだ。この中の結界の大きさが大きくてな、それに鍵を開けるために必要な魔力も比例するため、俺1人の魔力じゃあどうにもならなくて、ずっと放置していたんだよ」

「え? 放置?」


 リュカは眉を潜める。


「ああ。この国の『国守玉の脚』の仕事をしているのが現時点で五守家ごしゅけと言われる家系5つだ。基本やることは一緒だが、魔力の強さでその仕事が違ってくる。その五守家ごしゅけの中で俺の家系が最も魔力が強いため、強い魔獣がいる面倒くさい場所のメンテと浄化の担当にさせられていてな。この場所もその1つで、だいたいのことは俺1人で処理できるが、この場所の鍵だけは俺1人の魔力では足りず開かないため、やも得ず放置していたっつうわけだ」


「なぜ1人なんです?」


 家系と言うなら家族がいるはずだ。


「出来るのが俺1人しかいねえからだ」

「え?」

「俺の家族は、両親、兄と俺と妹2人の4人兄妹なんだが、父親と兄は3年前に事故で他界しちまい、残された母親と妹2人は魔力が弱い。で、今俺の家系でこの仕事が出来るのは俺だけっちゅうわけよ」


 そう言って笑うジンにリュカは一抹の不安を覚え訊ねる。


「じゃあ、この場所はいつから放置?」

「んー父親達が死んだ後すぐだったから3年かなー」

「だからか……」


 リュカは奥へと行くほど禍々しい魔力を感じていた。


「お! 気付いたか? もう限界だったんだよねー。で、ちょうど俺の仕事を知っていて魔力が膨大なお前が現れた。これはもうお前を連れて行けという国守玉の指示だったと俺は受け取ったってわけよ」

「都合の良い解釈をしないでください。まず『国守玉の脚』のことを知ってたんじゃなくて、先生が俺に教えたんでしょ」

「そうだったか?」


 とぼけて見せるジンをリュカは目を細めて抗議の目を向けていると、ジンが立ち止まった。


「ここだ」


 そこには大きな魔法陣が張り付いた扉があり、その奥には今にも破裂しそうなほどの邪気や魔物の気配が漂っているのがわかった。あまりの邪気と魔物で外まで異臭がひどく、堪えられなくなり腕で鼻を隠しながらリュカは眉を潜める。


「凄い匂い。貯まり過ぎじゃないのか?」

「その通り。さすが大魔術師さま」

「大魔術師じゃなくても誰でも分かる。酷すぎだ」

「ここは『国守玉の肢体』のアキレス腱でもあって、肛門の役目も兼ねているからな」


 そこでリュカは気付き目を見開く。


「ちょっと待て。じゃあここには国中の……」

「そういうこと。ここは『国守玉の肢体』の他の場所では処理が出来ない魔物や悪霊などがウヨウヨ貯まっていく最終地点だ」


 そこでジンが面倒くさい場所と言ったのが分かった気がした。


「それを3年間放置してたのかよ」

「察しがいいなー。さすが元魔術師団長!」


 揶揄するジンを無視し訊ねる。


「それを倒せと?」

「出来るだろ? 大魔術師さま」


 2度も揶揄するジンに、リュカはムッとしこのまま帰ってやろうかと思うが、大きく深呼吸をし気持ちを切り替え、


「この借りは大きいからな」


 と言って右手に剣を出現させた。


「やる気になったな。いいぜ。どうせお前の目的の手伝いをしなくちゃいけねえんだからな。このぐらい俺の仕事を手伝ってもらわねえとな」

「それは前から決まっていたことで借りの対象じゃない」

「そうかー残念。じゃあこの魔法陣に手を当てて魔力を注ぎ込んでくれ」


 そう言ってジンは左手を魔法陣へ翳す。リュカも同じく左手を魔法陣に翳すと、一気に魔力を持っていかれる感覚になる。


「!」


 ――凄い魔力を持って行かれる!


「これだけ持っていかれた後にこの奥の数え切れない魔物と戦えと言うのか?」

「そういうこと」

「簡単に言ってくれる」

「リュカ君、気付いてるかなー? さっきから俺に対してため口になってるよー。絶対今俺のこと先生と思ってないだろ」

「当たり前だ。今日は休みで生徒じゃないからな」

「いや、休みでも生徒は生徒だろ」

「まず教師が生徒にこんなことさせないだろ?」


 ジンの突っ込みに負けじとリュカは言い返す。


「お前はいいんだよ。見た目は生徒だが、中身は元魔術師団長で魔力量も多いし経験豊富だからな」

「この前と言っていることが違うぞ。体はまだ魔術師団の時とは違い発展途上で、全盛期の魔力量じゃないと言ってたじゃないか」

「そんなこと言ったか? 覚えがないなー」

「ったく、いい性格してやがる」


 まったく悪気がないジンにリュカはムッとして睨む。すると魔力の吸い上げがなくなった。


「門が開くぞ」


 魔法陣が消えると、ゆっくり扉が観音開きでギーと音を立てながら自然に開く。刹那、いっきに瘴気が噴き出してきた。


「!」


 リュカとジンは自身を瘴気から守る結界を張る。瘴気の後に一気に何かが出てくる気配を感じた瞬間、ジンから膨大な魔術ではない力が膨れ上がった。リュカは驚きジンへと視線を向ける。


「この場所からこいつらが出れないように結界を張った。どんなに強い魔力でも壊れないと思うぜ」

「普通の魔力の結界じゃないな?」

「まあよく似たやつだ。これが俺の家系の特殊能力というもんだな」


 ――確かに強い結界だ。俺達がする魔術で展開する結界よりも桁違いに強靱だな。これが『魔法使いジン』と呼ばれた所以か。


 そしてここまでしないといけないほどの魔物がこの中にいるということなのかとリュカは生唾を飲む。


「大魔術師と言われたやつが怖じ気づいたのか?」


 そう言われジンを見れば、悪戯な顔を見せている。


「そういうのじゃない。ただ久しぶりで魔力量が前世前よりも少ないから、どんな感じなのかと思っているだけだ」


 正直に言う。


「これで少ないんだからなー。お前、将来こええなー」

「過大評価し過ぎだ。それほど凄くない」

「謙遜だねー。じゃあ行こうか」


 2人は中へと進んだ。


 すると、獲物を見つけた魔物達は一斉にリュカとジンへと襲いかかってきた。

 リュカは剣と魔術で難なく倒していく。倒しながらジンを見れば、ジンも余裕な表情で魔物達を倒していた。その倒し方にリュカは不思議に思う。ジンに近づく魔物がジンのある一定の距離まで来ると立ち止まるように動かなくなるのだ。そしてその間にジンは魔術で魔物をなんなく倒していっていた。


「変わった能力だな」

「これも俺の特殊能力だ。俺を中心にある一定の距離に来ると、その同じ力で反発する力がかかる。そうなると魔物は俺に近づくことが出来ねえていう仕組みだ。で俺は普通に近づけるから魔物達を仕留めれるというわけだ」

「便利だな」

「ああ。だがこれはこの場所にいる魔物専用だ。それも頭が悪い魔物にしか聞かねえけどな」


 すると一匹の魔物が火の飛び魔法をジンに撃ってきた。それをジンが魔術で跳ね返す。


「このように、飛び魔法は効かねえから、その都度対処が必要ってやつだ」

「なるほど」


 リュカも魔物達を一瞬で消していく。


「そういうリュカもさすが余裕だな」

「だがやはりさっき魔力を相当持っていかれたこともあって、少々きついな」


 リュカはそう言うが、威力が強い魔法を難なく放っている。


「そんな風に見えないけどなー。それにしてもどれだけ魔力隠してたんだ。そりゃあ大魔術師と言われるのが分かるわー」

「うるさい」


 すると笑顔だったジンが真顔になる。


「さあボスのお出ましだ」








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