29 ジンの手伝い①
するとそこへジンがやって来た。
「おー! お前らやってるなー」
ジンと顔を合わせるのは、リュカにアイラの特訓を頼んで以来だ。
「随分顔を見ていない気がするが?」
「ほんとに。リュカに頼んでおいて、ずっと顔を出さないってどうなの?」
「おまえら、久々に会う教師に向かって冷たくないか?」
ジンは苦笑する。
「言い訳をするなら、ずっと家の用事で学校にいなかったんだよ」
確かに学校ではジンを見かけなかった。
「俺は本業は教師じゃない。一応家の仕事があるからな」
「家の仕事って何をしてるんですか?」
アイラは首を傾げる。
「詳しいことは言えねえが、まあ簡単に言うと、上の者から言われたことの原因調査、追求、廃除、改善などなどの雑用だな」
ジンの説明で上司とは国守玉のことなんだろうとリュカは理解する。アイラにジンの役目を言わないのは、ジンの仕事が本来は誰にも知られてはいけない国が秘匿とする重要任務でもあるのと、アイラがジンのことを知って変に警戒をしないようにということでもあった。
「で、アイラは順調なのか?」
「えっと……まあまあかな」
「嘘を言うな。ぜんぜん上達してないだろ」
「あはは」
リュカの突っ込みにアイラは半笑いする。
「まあすぐ出来ることじゃねえ。慌てずゆっくりやればいい。リュカも悪いがアイラに付き合ってやってくれ」
「ああ」
快く快諾してくれるリュカにアイラは申し訳なく思う。
「リュカ、いいの? 付き合ってもらって」
「ああ。途中でやめたら、教えた奴が下手だからだと言われるかもしれないからな」
リュカの言葉にアイラは「ん?」と考える。そして気付いた。
「それって私が出来が悪いってことじゃない!」
「俺はそこまでは言ってないぞ。そう思うなら自覚はあるんだな」
悪戯な顔を向けるリュカにアイラは声を荒らげる。
「見てなさい! すぐに出来るようになってやるんだから!」
ムキになって言うアイラにリュカは鼻で笑い「ああ、楽しみにしてるぞ」と応えた。
そんな2人の様子を見てジンは笑顔を見せる。
――思ったより仲良くなってるじゃねえか。良いことだ。
「アイラ、そうムキになるな。リュカもアイラをからかうんじゃねえ」
「え? からかう?」
そうなのかとリュカを見れば、顔を背けクスクス笑っている。
「すぐ信じるところをどうにかしたほうがいいぞ」
鼻で笑いながら言うリュカにアイラは、
「純粋な乙女を騙すほうが問題でしょ!」
と反論するのだった。
その後ジンはアイラの特訓の様子を見て、
「まったく上達してねえなー」
と嘆息する。
「これでも上達したんです! ねえそうだよね? リュカ」
同意を求めリュカを見れば、視線を逸らされた。
――ちょっと! どういうことよ!
文句を言おうとすると、ジンが言う。
「そうかもしれねえが、やっとスタート地点に立ったレベルだ」
「え……うそ……」
そうなのかとリュカを見れば、うんうんと頷いている。
ショックを受け棒立ちしているアイラを見てジンは苦笑する。
「焦らなくていいぞ。魔力の強弱は経験が物を言う。だから根気よくやれ」
「はい……」
アイラは素直に頷いた。
「じゃあ今日はここまで。で、リュカ」
「はい」
「明日ちょっと付き合ってくれ」
ジンの言葉にリュカは眉を潜める。明日は学校は休みなのだ。
「明日? 学校休みですけど」
「だからだよ」
そう言ってにぃっと笑うジンにリュカは嫌な予感がするのだった。
◇
次の日、リュカはジンに指定された待ち合わせ場所へとやって来た。そこはリュカ達がいる街から少し外れた橋の上だった。
「待たせたなー」
ジンが待ち合わせ時間より少し遅れてやって来た。
「じゃあ行こうか」
そう言って橋の下へと下り、川沿いを上っていく。道沿いを行くのかと思ったリュカはジンの後を追いながら訊ねた。
「どこに行くんですか?」
「まあまあ。慌てるな」
ジンはただそれだけ言うとどんどんと上がっていく。そしてある場所まで来ると周りをキョロキョロし「誰もいねえな」と言うと手を前に翳した。すると直径2メートルほどの魔法陣が現れた。
「移動魔法陣?」
「いろいろと知られたくないんでね。ある程度場所が特定されない場所から移動するようにしている」
「だから川岸沿いなのか」
川の側を歩いていけば、川の水で痕跡は数日で消える。特にこの川は水の水位が激しい川だ。1日に何度も水かさが増える。そのため1日も経たずに痕跡を消すことが出来るのだ。移動魔法陣は消してもその痕跡を数日は残っており、どこに移動したかを特定される場合があるため、よくこのような対策を取ることは密偵部隊では普通にあった。
「よくわかってるな。さすが元密偵部隊で魔術師団長だな。じゃあ行くぞ」
ジンとリュカは移動魔法陣の中へと入った。直後移動魔法陣は跡形もなく消えた。
そして次にジン達が現れた場所は、とある山の中にある洞窟の前だった。
周りは木々に囲まれ、今どこにいるのか分からない。肌寒い感じから相当山の上に来ていたことだけは推測出来た。
ジンはランプを出し、パチンと指を鳴らす。するとランプに火が灯った。
「じゃあ中に行くぞ」
中は思ったより奥深かった。ジンの後を歩きながらリュカは訊ねた。
「こんな所で何をするんですか? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「そうだな。あ、ピクニックじゃないからな」
「わかってます」
冷たく言い返すリュカに「冗談が通じねえな」とジンは苦笑し、
「ここはこの国の『国守玉の肢体』と言われる場所の1つだ」
と説明した。




