2 牢屋の中で②
そこで背中から刺されたのだと気付く。
アイラは激痛と共にその場に倒れた。そして目の前のソフィアを見ると薄笑いを浮かべている。やはりソフィアは自分を消すつもりだったのだと確信する。
「やっと消えてくれるわ」
ソフィアは本性を現わすように今まで見せたことがない顔であざ笑い、踵を返し部屋を出て行った。
その直後、また腹に激痛が走る。
アイラを後ろから刺した者が、アイラに刺さっていた剣を抜いたのだ。
その瞬間、傷口から大量の血が流れ落ちた。その者は、倒れたアイラに見向きもせず、ソフィアを追って部屋を出て行った。その後ろ姿は、背が高く、髪は銀髪に黒いメッシュが入った男だということしか分からなかった。
冷たく汚い窓もない地下室の牢屋に1人取り残されたアイラは考える。
――こんなことになるなら正直に聖女が偽物だと言わなければよかった。
だがもう遅い。
無情にも意識がどんどんと遠退いていく。
その時だ。誰かが勢いよく入って来た。背の高い黒髪に魔術師の長の格好。
――リュカ・ケイラー魔術士団長……。
皇太子マティスの専属魔術師であり魔術師団長。そしてマティスの友達だ。そんなリュカも顔や体が傷だらけだ。やはり地上で何かあったのだ。
「くそ! 遅かったか!」
リュカは、アイラを抱き上げ、腹に治癒魔法をかける。
「しっかりしろ!」
――さすが大魔術師ね。治癒魔法も強い。でももう手遅れだわ……。
「くそ! 呪毒か!」
――呪毒? ああ……これが新しく出回っている呪いと毒を融合させて作ったものかー。剣に塗ってあったんだ。私を確実に殺すためね。
ここ最近殺害が多発し、その原因がこの呪毒だった。新しい毒で、まだ解読方法が見つけられていないものだ。アイラは全身に廻る毒を解読する。
――なるほどね。これは自身で体験しないと解けない代物だわ。
「君の無罪が確定した! 君は何も悪くない!」
――そっか……よかった。みんな動いてくれたんだ……。
アイラの無罪を証明するために周りの者が動いていたことは知っていた。それがやっと認めてもらえたのだとアイラは嬉しく思う。
すると涙が止めどなく頬を流れる。
これは悔しさか? それとも嬉しさからか?
そんなことを思いながらふと自分を抱くリュカの顔を見上げれば、悲痛な表情を浮かべていた。
――助からないことに気付いたのね……。あまり知らない私のために悲しんでくれるんだ。
それが救いだった。
――とても優しい人だな……。ああ、友達になっておけばよかったな……。
ほとんど話したことがない自分のために悲しんでくれる優しい大魔術師。
最後に看取ってくれたのがリュカでよかったとアイラは心から思った。
その時だ。誰かが入って来て叫んだ。
「団長! 国王が死去されました! そしてマティス殿下が危ないです! 早く上へ!」
「!」
やはり狙いは国王と皇太子の命だったとアイラは愕然とする。だがリュカはすぐに行こうとせずアイラに治癒魔法を続ける。
――なぜ?
傷口だけでも塞ごうとしているのか?
もう助からない自分よりも次期国王のマティスの命の方が大事だ。
リュカの手をアイラは掴み、最後の力を絞り出し言う。
「行ってください。もう私は助かりません。それよりも殿下を……マティスを……助けてあげて……」
その言葉にリュカは、眉間の皺を深くし苦渋の顔を向け言う。
「……すまない」
そんなリュカにアイラは気にするなと微笑み首を横に振る。
リュカはそっとアイラを床に置くと自分の上着をかけ、転移魔法でその場から消えた。
アイラはフッと笑う。
――死んでいく者に上着なんてかけなくていいのに。
そして思う。
――こんなことなら、出来なかった恋愛もやりたかったケーキ屋で働くこともしておけばよかったなー。
なぜか最後は、自分がやりたいことが出来なかったことへの後悔しか浮かばなかった。
そしてそこでアイラの命は尽きた。