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25 発作の真相



 アイラは右手をマティスの胸に、左手を自分の胸に当てると目を閉じて言う。


「大地の精霊、力を貸して」


 するとアイラの全身が淡く光り始め、髪もふわっと逆立つ。その神秘的な光にマティス、リュカ、ケイン、ギルバートはアイラに釘付けになった。

 そしてアイラは目を開ける。そこには銀色に光る双眸があった。


「マティス、動かないでね」


 刹那、マティスへと精霊魔法がアイラの手から一気に注ぎ込まれた。一瞬驚きビクッとマティスは体を強ばらせるが嫌な気分ではない。反対に心地良く感じた。

 リュカも初めて見るアイラの精霊魔法に目を見開き驚く。前世でもアイラの精霊魔法を見たことがなかったからだ。


 ――これほどまで強いのか。これが国守玉こくしゅぎょくに気に入られた者の力……。


 だがそれは一瞬の出来事だった。


「終ったわ」

「え? もう?」


 そう言ってアイラを見れば、いつもの青い目に戻っていた。


「体はどう? 軽くなったと思うけど」


 マティスは少し体を動かしてみる。今まで慢性的にあった体のだるさと重さが今はまったくない。


「だるさもなく、体も軽い……」


 マティスの呟きにリュカと護衛の2人は驚き、アイラは笑顔を見せる。


「よかった。これであなたの発作はもう起きないわ」

「! 本当に?」

「ええ」


 アイラは立ち上がりながら言う。


「あなたの発作は呪いの類いからで、本来の目的である毒で体を蝕ませるのを隠すためのカモフラージュでもあったみたいね」

「呪いがカモフラージュで毒だと?」


 リュカが声を上げる。


「ええ。最初に気付かれないほどの呪いをかけ、その後は薬と称して呪いを増幅させる薬を飲ませ発作を起こさせる。そして発作の症状が出ると安定剤と毒の入った紅茶を飲ませ、安定剤で発作を抑え、その間に少量の毒で徐々に体を蝕んで弱らせるってところかしら」


 アイラは自分の見解を言う。


「考えたものね。これなら誰も気付かれないわ。もしマティスに何かあっても呪いとは思わず病気だったと思うはずよ」


 現に前世ではそうだった。


「だが今まで見てもらったが呪いの類いはないと言われていた」


 リュカは前世と今世を思い出しながら言う。


「でしょうね。これをかけた術者は相当の実力者だわ。呪いだと気付かせないほどだもの」


 ――だって前世で精霊魔法士の誰も呪いだと気付かなかったんだから。


「もしアイラが言うように紅茶に毒が入っていたなら飲んだ時になにかしら症状が出るのではないのか?」


 リュカは疑問を口にする。


「大量に飲んだ場合はね。少量ならば目立った症状は出ないわ。それが狙いだと思うわ。もし症状が出てしまったら、この毒なら精霊魔法士はすぐに消せるもの」


 ――だから前世で誰も気付けなかった。発作が出たなら発作を抑える癒やしの魔法をかけるだけだもの。癒やしの魔法では毒も呪いも解けないわ。


「そして毒により体は徐々に蝕んでいった。だから体がだるかったんだと思うわ」


 するとギルバートが疑問を口にする。


「それならば、途中で毒だと医師が気付くはずじゃ?」


 そこで皆気付く。


「もしかして医師が?」

「だと思うわ。だからその処方した医師を調べたほうがいいわ。その医師もグルだと思うから」

「盲点だったな。まさか王宮専属の医師だったとは」


 ケインが悔しそうに呟く。そこでアイラはハッとする。


「やば! 戻らないと!」


 そう言って立ち去ろうとしたアイラの腕をマティスは掴み止める。


「待って」


 アイラは振り向く。


「なに?」

「お礼をしたいんだ」

「いらないわ」

「じゃあ僕と友達になってくれないかな? アイラ」


 そこでアイラは眉を潜める


「アイラ? なぜ呼び捨て?」

「あ、アイラが僕をマティスって呼び捨てで呼んでたから」

「!」


 ――しまった。回帰前の癖で!


 マティスの治療に集中していたため、言葉使いまで気が回らなかった。


「あ、そ、そうだった? ごめんなさい。つい……」


 どう言い訳をしようかと口ごもっていると、


「僕のことは呼び捨てでいいよ。だから僕もアイラって呼ぶから」


 笑顔で言うマティスにアイラは半笑いする。


「えっと、ごめんなさい。友達になる件は身分も違うし恐れ多いので辞退させてもらうわ。それにお礼もいらないから。じゃあ授業始まるから。リュカ、借りるわね」


 そう言ってアイラはマティスの手を振りほどき、そそくさとその場を逃げるように離れた。


 ――やばい。マティスと知り合いになってしまった!


 今回の人生はマティスとは関わらないと決めていたのにと後悔する。だがマティスの発作を無視することは出来なかったからしょうがない。


「でもまだ知り合っただけよ。同じクラスじゃないんだから今まで通り合う機会はほとんどないはずだわ。大丈夫よ」


 そう言い聞かして教室に戻った。


 走って去って行ったアイラに「逃げられちゃった」と肩を窄ませるマティスにリュカ達は声をかけた。


「マティスよかったな。発作がなくなって」

「ほんとに! 殿下、おめでとうございます!」

「よかったです。とても嬉しいです」


 リュカは笑顔を見せ、ケインとギルバートは涙を浮かべる。皆ずっと心配していたことだ。


「ありがとう。でもまだ本当に治ったなんて思えてないのが本音だけどね」


 1年前から苦しんでいたことだ。原因不明で治らないと言われていた病気だ。だから将来の不安を抱えていた。だがそれが今この一瞬でその不安がなくなったことにまだ信じられないでいた。


「これから徐々に実感するはずだ」

「そうだね。ほんとアイラには感謝しかないね。でも凄いな。あんなすごい精霊魔法を使える者なんてなかなかいないよ。イライザもほしがるだろうな。王宮精霊魔法士になってほしいな」

「マティス、そのことだが」

「?」

「アイラは精霊魔法士にはなりたくないから精霊魔法が使えるのを隠している」

「そうなのかい?」

「ああ」

「だから魔術師専攻なんだね」

「そうだ。だからアイラが精霊魔法が使えることは皆には……」

「分かったよ。誰にも言わないよ。でも残念だな。王宮精霊魔法士でほしかったなー」


 マティスの言葉にリュカは安堵のため息をつく。そんなリュカにマティスは微笑む。


「ふふふ。リュカが女の子と仲良くするなんて珍しいね」

「え?」

「それにアイラのことをすごく心配して気にかけてる」


 リュカは複雑な気分になる。


 ――アイラが気になるのは、回帰前の人生でマティスが恋い焦がれていた人物だからだ。そして国の存続に必要な人物でもあり守らなくてはならない対象だからだ。ただそれだけだ。


 だがそこで自分に問いかける声がする。


 本当にそれだけなのか?


 確かに今は前世とは違う。ここ1週間毎日放課後アイラに魔術のやり方、コントロールの仕方などを教えながらその日あったことを話すようになったため、アイラという人物がわかるようにはなってきてはいる。だがそれはアイラを守るための監視の一貫としてやっていることで、それ以上の意味はない。

 そしてジンからも言われた、アイラの気持ちを尊重しているためにしていることだ。


 ――だから気になるだけで、それ以上はない。


 するとマティスが苦笑して言う。


「リュカ、そんなに真剣に考えることじゃないから。友達のことを思って心配するのは当たり前のことだから」

「友達?」


 怪訝な顔を向けるリュカにマティスは目を瞬かせる。


「友達だろ?」

「違う。ただの知り合いだ」


 間髪入れずに否定する。放課後にジンに頼まれ魔術を教えている教え子であり、そして回帰前の人生で死にゆくマティスから守ってくれと頼まれた人物という位置付けでしかない。そんなアイラを友達と言うのかと言えば否だ。

 そんなリュカにマティスは嘆息し言う。


「リュカ、今アイラに教科書と魔術玉を貸したよね? それは友達だから貸したんだろ?」

「知り合いだからだ」


 そんなリュカにマティスはまた大きく嘆息する。


「はあ。もうそれは友達と言うんだよ」


 そうなのかという顔をするリュカにマティスは微笑む。


 ――まあ仕方ないけどね。


 リュカは昔からその辺が欠如している。幼少期から魔力が強いことから怖がられ、友達が出来なかったのもある。友達だと思っていた者に、ただ怖いから付き合ってただけで、友達じゃないと幼少期に言われたのがトラウマになっているのだ。それ以来リュカは友達を作ろうとしなかった。リュカに寄ってくる者もいなかったし、リュカからあえて近づこうともしなかった。

 だからマティスはあえて一緒にいた。リュカと一緒にいれば誰も寄ってこなかったからだ。王子だからと邪な考えで近づいてくる者を遠ざけるにはリュカはうってつけだったのだ。


 だが今はそんな考えは微塵もない。今は唯一信頼できる人間で大事な親友だ。


「リュカ、アイラは君の友達だからね。絶対にアイラに友達じゃないなんて言ったらだめだよ」

「あ、ああ……」


 マティスの勢いに負け、リュカは返事をした。


「アイラは良い子だね。リュカが友達になるの、分かるよ」

「……」

「だから僕もアイラと仲良くなりたいな」


 そう言って微笑むマティスにリュカは見覚えがあった。今のマティスは、前世の人生の時のアイラへ向ける最初の頃のマティスそのものだった。


 ――マティスはアイラに惹かれ始めている。


 前世と同じだ。後はアイラがマティスを好きになってくれればいいと願う。だが同時に、本当にそれがいいのかという疑問も沸く。

 すると授業が始まるチャイムが鳴った。


「さあリュカ、教室に入ろう」

「ああ」


 そこで考えるのをやめた。








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