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22 マティスと今世で初めての会話



 それから一週間が過ぎた頃、アイラは学校に着くや否やサラから衝撃な事実を聞き叫ぶ。


「えー! 今日だった? グリフィス魔術師団長の授業!」

「そうよ」


 アイラは朝、珍しく寝坊したため、何も考えずに飛び出すように家を出てきたのだ。そのため、今日特別授業があることをすっかり頭から抜けていた。


「ちなみに授業で使う魔術玉まじゅつだま持ってくるようにって言われていたこと覚えてる?」

「あー!」


 アイラの反応にサラは嘆息する。


「忘れたのね」

「うん……」


 魔術玉は今日の授業で使うため支給された魔道具で家に送られたものだ。今日必ず持ってくるようにと言われた。


「アイラあとさー」


 そう言ってサラは視線を下に向ける。


「?」


 何かと思って視線を追って目を見開く。いつも持ってくる学園の鞄ではなく普段使っている鞄だった。


「あー! 鞄間違えた!」

「やっぱりそうよね」


 サラは苦笑する。


「どうしよう。教科書全部忘れた!」


 あたふたするアイラにサラは冷静に言う。


「相変わらずだよね。特別授業は2時間目だからライアンかカミールに借りてきたら? 2人はAクラスでしょ? なら今日はグリフィス魔術師団長の授業はないはずだから」

「う、うん。そうする!」


 1時間目が終わり、アイラは急いでAクラスがある3階へと上がる。


 ――久しぶりだわ。


 今回の人生で3階へ来るのは初めてだ。回帰前の人生では3年間通っていた場所だが、やはり場違いな場所だと感じる。

 廊下には貴族であろう学生が所々にいた。そこをアイラは早足で通り過ぎる。そして一番奥にあるAクラスの前で止まると、1度大きく深呼吸をしてそっと教室の中を覗き込んだ。


 ――ライアンかカミールはいるかなー。


 だが教室のどこを探しても2人の姿を見つけることが出来ない。ちょうど教室に入る女子生徒がいたので聞いて見ることにする。


「あのー」

「はい」


 女子生徒は笑顔で振り向きアイラを見て眉根を寄せる。見たことがない顔だと思ったのだろう。視線をアイラの胸のバッチへと落とし、Eクラスだと分かった途端、態度が急変した。面倒くさそうな顔をし、そっけない態度に変わり言う。


「なに?」

「ライアンかカミールはいますか?」

「知らない」


 女子生徒は教室の中を探すことなく返事をすると、そのまま教室へと入っていった。


「なによあの態度。教室の中にいるかどうか探すのが普通でしょ!」


 口を尖らせ文句を言っていると、後ろから肩を叩かれた。


「なに?」


 つい流れから強い口調で振り向くと、そこにはマティスの護衛のケインがいた。


「!」


 驚いたのもつかの間、ケインの後ろにマティスと護衛のもう一人のギルバートがいることに気づき、つい「げっ!」と声に出して仰け反ってしまった。

 その態度にケインとギルバートは眉根を寄せ、マティスは目を瞬かせた。だがそこでマティスははっとする。


「ああ、あの時の!」


 そう言って笑顔を見せるマティスとは正反対に、護衛のケインは睨みを効かせてアイラに強い口調で言う。


「殿下に向かってなんだその態度は!」


 ケインの怒声にアイラは肩を窄め謝る。


「あ、す、すみません。つい……」

「つい?」

「あ、いや……つい口が滑ってという意味で……」

「口が滑っただと?」

「あっ! 違います!」


 言えば言うほど墓穴を掘る形にアイラは冷や汗を掻き黙る。だがその反応にマティスはクスクス笑い、そしてアイラへと歩み寄り顔を覗き込む。


「君、面白いね。なんでそんなに僕を嫌っているの?」

「は?」


 突拍子もない言葉につい顔を顰めて大きな声を出してしまった。ハッとしてケインを見れば、凄い剣幕の顔をアイラに向けていた。そりゃそうだ。皇太子に対して失礼極まりない態度を取りまくっているのだ。ケインの反応は正しい。


「べ、別にそういうわけじゃ――」


 これはやばいと焦っていると、


「アイラ?」


 リュカが声を掛けてきてアイラの横に来た。


「お前何しに来たんだ?」


 ――わー! 救世主!


 アイラは心の中で「よし!」と拳を握る。


「ライアンとカミールに教科書と魔術玉を借りにきたの」


 皇太子を無視してリュカと話す。案の定ケインとギルバートは不満ありありな表情を向け、今にも怒鳴りそうな顔をしている。だがそれ以上言ってこないことは分かっている。理由はリュカだ。相手がマティスと仲がいいリュカのため、2人が文句を言えないことは回帰前からの経験済みだ。


「あの2人ならまだ来てないぞ」

「え?」

「あの2人が来るのは昼近くだ」

「ええ!」


 いつも昼には一緒に昼食をとっているが、それは昼に登校しているということだったのかと気付く。


「どうしよう。今日グリフィス魔術師団長の授業でどうしても教科書と魔術玉がいるのよ」

「貸そうか?」

「ほんと!」

「ああ」

「助かる! ありがと!」


 笑顔を見せるアイラに「ちょっと待ってろ」と言いリュカは教室へ入って行った。その様子を見ていたマティスは「へえ」と驚く。昔からリュカは人見知りで、自分から友達を作るような人間ではない。ましてや女性と仲良くなることはマティスが知る限り今までなかった。


 ――珍しいな。リュカが仲良くするなんて。


 そこへリュカが戻って来た。


「どうぞ」

「ありがとう! よかったー!」

「なんで教科書まで忘れたんだ?」

「え? 鞄を間違えて……」


 そこでリュカは呆れた顔をアイラに向ける。


「相変わらずだな」

「悪かったわね」


 ムッとするアイラにリュカはフッと笑う。それにもマティスは驚く。リュカがマティス以外に笑うことはほとんどないのだ。

 だから余計に興味を抱く。


「リュカ、この子と知り合いなんだね。この前は違ったのに、いつの間に仲良くなったんだい?」

「たまたまこの前ジン先生の手伝いで一緒になったことがあってからだ」


 それらしい理由をつけて言う。アイラも頷き話を合わせる。


「アイラ・フェアリだ」


 そしてアイラも挨拶する。


「挨拶が遅くなりました。ビクラミアの太陽、マティス・ビクラミア殿下にご挨拶申し上げます。アイラ・フェアリです」


 膝を少し折りスカートの両端を持ち頭をさげ正式な挨拶をする。


「そんなにかしこまって挨拶しなくていいよ。ここは学校だし」

「すみません。そのような雰囲気ではなかったので」


 そう言って護衛のケインとギルバートを見て言う。


 ――じゃあ、その護衛の態度、どうにかしなさいよ。


 と言うような目で。

 それを見たリュカは、相変わらずだと小さく鼻で笑う。


「すまない。こちらの配慮が足りなかったみたいだ」


 マティスは素直に謝る。

 こういうところは相変わらずだとアイラは前世でのマティスと初めて話した時のことを思い出し懐かしく思うのだった。



 回帰前の人生でマティスと初めてあったのは、同じAクラスになって何日か経った時だ。




 

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