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21 放課後特訓



「アイラ、追試合格おめでとう」

「ありがとうございます。で、先生、これはどういうことですか?」


 アイラは追試に見事に合格し喜びもつかの間、ジンに放課後、魔術練習専用の体育館に呼び出されたのだ。


「もう追試終ったじゃないですか? なぜまた体育館に? それに……」


 そう言ってアイラはもう一人呼び出された人物――リュカを見る。


「リュカも俺が呼んだんだ」

「?」

「アイラ、今日からお前は居残り特訓をしてもらう。そしてその助手がリュカだ」

「え!」

「は?」



 アイラとリュカは声を上げる。


「なんで!」

「そんなの決まってるだろ。お前、このままだと留年ならまだしも強制退学だぞ」

「え……」


 ――なにそれ?


 初耳だとアイラは呆然とする。


「留年、退学基準はテストだけじゃねえ。日頃の魔力技術も判定基準だ」

「えええ! そんなの聞いてない!」

「あれ? アイラは知らないのか? 精霊魔法士専攻の者は貴重な存在だから退学はないが、魔術師専攻は人が多いから振いにかけられるんだよ」

「知らなかった……」


 前世ではアイラはAクラスだったこともあり、優秀な者ばかりのAクラスから脱落する者はいなかったため知らなかったようだ。


「今年の1年生の精霊魔法専攻は3人だ。全学年でも10人しかいない。そんな貴重な人材を首にすることはできねえからな」


 確かに前回の人生でも1年生は精霊魔法専攻は4人だけだった。だから専攻と言ってもほとんどの授業は魔術師と一緒に受け、技術だけが違っていたのだ。


「でも魔術師は違う。多すぎるからな。だから学生の時に成績が悪い場合は容赦なく切り捨てられる」


 アイラは生唾を飲む。もし学園を中途退学させられた場合、違う学校に転入も難しく、働くにも不利になる。普通の人生を送りたいと思っているが、それは一応好きなことをして必要最低限の生活が出来ることが前提だ。魔法学園中退というレッテルは極力避けたい。


「それは嫌です!」

「だろ? それにお前が出来る魔術魔法は1つだけだ。それも制御も微妙だ。それだけでは到底この学園を卒業することはできねえ。だからこれからリュカに色々教えてもらえ」


 すると今まで黙って聞いていたリュカが眉根を寄せながら不満ありありの顔で言う。


「先生、俺は今始めて聞いたが?」


 今日の朝いきなりジンに放課後残れと言われたから来ただけだ。アイラの特訓の助手をすることなんて聞いてない。今初めて聞いて知ったのだ。

 だがジンは「そうか」とだけ応え話を続ける。


「俺は毎日手伝えねえ。これでも忙しいんだ。だからお前がメインにアイラに教えてやれ」

「なんで俺が?」

「できねえとは言わせねえ。だってお前は――」

「あーもーわかりました! やればいいんでしょ」


 リュカはジンを遮るように声を大きくして言う。するとジンはにぃっと笑う。


「そうか、やってくれるか」


 悪戯な笑みを浮かべるジンにリュカは、


 ――こいつ、わざとだ。


 と睨み返し、きのうのことを思い出す。


 きのうあれからジンとこれからのことを話し合ったのだ。

 ジンからアイラは前世で殺された時のことを思い出してパニック症状を引き起こしていたとも聞いた。


「じゃあアイラにはお前も時を戻し戻って来たことは言わねえんだな」

「はい。今でも警戒されているのに、俺がフェアリ嬢と同じ時代から戻って来たことを知れば余計に警戒されるのが目に見えてるので。それに……」


 リュカは前世でのアイラの最期を思い出しながら視線を下に向けて言う。


「戻って来たと知ったら、また思い出してパニックになってもいけませんから……」


 ジンもアイラがパニックになり取り乱した時のことを思い出す。


「確かにそうだな。で、どうするんだ?」

「どうもしません。ただ遠くから見守ることにします」

「お前、それ本気で言ってるのか?」

「はい」

「接点もないのにどうやって守るつもりだ?」

「魔法で監視します」

「は?」


 ジンは唖然とする。


「お前、1日中するのか?」

「はい。密偵で働いていた時にやっていたことなので」


 するとジンは聞こえよがしにため息をつく。


「はあ。お前分かってるか? 今お前は学生だぞ」

「はい」


 ――それが何か問題でも? 


 という顔をするリュカにジンは言う。


「時を戻って来たのはお前の魂のみだ。体は前回と同じ学生時代のままだ。それはお前が全盛期だった頃の体じゃねえ。まだ発展途上の体と言うことだ。だとすれば、お前の魔力は密偵時代の魔力量じゃねえ。お前は元々魔力量が多いから気付いてねえかもしれねえが、密偵時代と同じことをすれば倒れるぞ」

「!」

「この学園の受験で機械を欺く魔法を使った時、何ともなかったか?」


 確かに試験が終った後、疲れて1日寝ていたことを思い出す。


 ――あれは魔力消費が激しかったからか。


 今まで魔力切れという経験がなかったため分からなかった。


「前回の人生では年相応の魔力量と技術で足りていたんだろうが今回は違う。知識と技術は25歳だが、体の魔力量は16歳だ。同じことをすれば魔力量が切れて倒れるのが関の山だ」

「……」

「あ、脳も16歳だから、考え方や行動も16歳の体に引っ張られるぜ」

「え……」

「だからお前もアイラも知識と経験はあるが考え方や行動は学生並みだ。お前の前世を見たが、もっと厳しく威厳があり隙がない完璧な大魔術師って感じだったが、今はそんな感じが微塵もない。それは体が16歳で脳も16歳だからだ」


 そこまで言われて気付く。なぜそれに気付かなかったのか。前世の自分ならそれにすぐに気付いたはずだ。少しの見過ごしが命取りになる世界だった。だからいつも精神を張り巡らせていたのだ。


 ――確かに前回よりも少し性格が穏やかな気がする。いや、学生の最初の頃はそうだったか。


「お前は前回は少し堅物で一匹狼的な所があった。今回はもう少し緩めるようにしろ。そうしないといつか壊れるぞ」

「……」

「だから今回は俺に任せろ」

「?」



 最後のジンの言葉がこれだったのかとリュカはジンに抗議の目を向ける。その視線には気付かないふりをしてジンは言う。


「お前ら、けっこう相性がいいと思うからな。それに人見知り同士だろ。友達も少なそうだから、友達になっておけ」


 それにはリュカもアイラも反論出来ない。現に前世では2人とも友達という友達がいなかったのだ。


「ということで、俺は会議があるからな。後はリュカ、よろしくなー」


 そう言ってジンは去って入った。残されたリュカとアイラは呆然と立ち尽くす。


 ――うそでしょ。なぜリュカ・ケイラーなのよ! これ以上接点持ちたくないんだけど!


 アイラはそう言いながらちらっとリュカを見る。


 ――俺に任せろって言ってたのは、フェアリ嬢と仲良くしろということだったのか? 意味がわからん。


 そう思いながらリュカもアイラへ首を向けると目が合った。


「……」

「……」


 気まずい空気が流れる。最初に口を開いたのはアイラだった。


「あ、なんかごめんなさい。私のために……その……」

「フェアリ嬢が悪いわけじゃない。悪いのはあの教師だ」


 ムッとしてジンへの不満ありありの表情を見せるリュカを見てアイラはクスッと笑う。前世のリュカは、無口で無表情で何を考えているか分からないことから『冷徹の大魔術師』と言われていた。そんなリュカは今思いっきり気持ちを顔に表しているのだ。


 ――学生の時はこんなに表情豊かだったんだ。


 そう思うとちょっと親近感が沸く。すると、


「何笑っている」


 と今度はアイラに不満ありありの表情を向けてきた。


「ご、ごめん。もっと感情を出さない人だと思ってたから」

「……そうか」


 リュカは横を向き視線をアイラから外す。


 ――あれ? 反論しない? それに照れてる?


 リュカの意外な行動に目を瞬かせる。

 リュカと言えば、きのうジンからも言われ、前世を知っているアイラからもまた同じようなことを言われたため、そうなのかと自覚すると少し恥ずかしくなり顔を背けたのだ。

 そんなリュカを見て、アイラはちょっと悪戯な気持ちが目覚める。


「照れてるの?」

「なっ! ち、違う!」


 目を泳がせ慌てて否定するリュカを見てアイラは片方の口角を上げる。


 ――面白い。『冷徹な大魔術師様』と言われたリュカ・ケイラーのこんな姿なんて、滅多にお目にかかれないわ。


「ちょっと、顔見せて!」


 アイラはリュカの顔を見ようと覗き込む。だがリュカは顔を腕で隠しながらアイラを避けるように背を向けて見られないようにした。


「うるさい」

「いいじゃない。ねえねえ」

「しつこいぞ。フェアリ嬢」


 そこでアイラは動きを止めてムッとする。


「ちょっと」

「?」


 いきなり機嫌が悪い口調になったアイラにリュカは背けていた顔をアイラへ向ければ、やはりアイラはムッとしている。どうしたのかと思っていると、


「私達学生よ。なんでそんな改まった呼び方するのよ」

「え……。あ、いや……」


 つい前世の癖で言ってしまったことにリュカは慌てた。


「アイラでいいわ。ケイラー氏」


 わざと言うアイラに、リュカも小さく嘆息する。


「わかった。俺もリュカでいい」

「うん! よろしくねリュカ」


 アイラは満足そうに笑う。それを見たリュカも前世のアイラを思い出し、印象が違うなと目を瞬かせる。前世のアイラは笑顔もなく、もっときつい印象だった。マティスと話している時は少し話し方は穏やかになるが基本固い表情をしていたのだ。このように笑ったとろこを見たことがない。


 ――ジン先生は学生の頃に引っ張られると言っていた。だとしたら元々彼女は表情が豊かな人だったんだろうな。


 そしてそう変えたのが王宮精霊魔法士になったからなのだとリュカは目を伏せる。


 ――俺もそうだが、自分は気付かない間につまらない人間になっていたんだな。


 そう思うと何故かおかしくなり、リュカはフッと笑う。それを見たアイラも、


 ――こうやってこの人笑うんだ。思ってたより人間らしいんだ。


 と、やはりちゃんと話してみないと分からないものだと改めて思うのだった。そして、


 ――マティスと仲良くしなければいいんだから、リュカとはいいわよね。


 と、自分に言い聞かせた。


「リュカはよかったの? 放課後私に付き合うことになるけど」

「別に暇だからいい」


 ――暇なんだ。そっか、まだ学生だからマティスの護衛はいいんだ。


「じゃあお願いします」

「ああ」


 そしてリュカとの特訓が始まったのだった。









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